嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)

第4-2節:当惑の応接室

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 次に一番手前に座っているのは、その男性よりも少し若い感じの女性。キリッとした目と瑞々しさのある白い肌、大人の色香が漂う美人だ。長いストレートの茶髪をひとつ結びにして、カジュアルながらも落ち着いたデザインの旅着を身に付けている。

 彼女は比較的軽装だから魔術師系だと思うけど、弓などを扱う射手アーチャー狩人レンジャー、あるいは俊敏さを活かした格闘家の可能性もある。もっとも、冒険者である以上、どんな職業ジョブであっても基礎的な体力やある程度の近接戦闘術は身に付けているだろうけど。


 そして彼らの真ん中に座っているのが幼い雰囲気の女の子。プニプニとした頬に丸くて大きな目、ショートの明るい茶髪はサラサラとしていて思わず触りたくなる。

 見た目は五、六歳といった感じだけど、実際のところはどうなのかな? もし人間以外の種族なら私よりもずっと年上、それこそ数百歳ということだってあり得る。冒険者一行のメンバーなんだし、その可能性も否定できない。

 一方、体格や服装は町で暮らしている一般的な子どもとほぼ変わらない。


 ちなみに室内の空気はおごそかで、沈黙と緊張感が周囲に広がっている。

 特にリカルドは外交にのぞむ際に見せる『辺境伯へんきょうはくモード』としてのスイッチが入っているようで、普段よりも落ち着きがあって目つきも鋭い。もちろん、それはそれでカッコイイと思うけど、その威厳に満ちた独特の空気に私は思わず身が引き締まる。

 おそらくこの場の雰囲気から察すると、私にも辺境伯へんきょうはく夫人としての立ち振る舞いが求められるのだろう。ゆえに小さく息をついてから心の中で気持ちを切り替え、優雅な仕草で頭を下げる。

「リカルド様、お待たせしました。お召しによりシャロン、まかり越しました」

「…………。……っ……うむ、ご苦労であった。僕の隣に腰を掛けるが良い」

「はい」

 全員の注目を集める中、私は静かに室内を進んでいった。一定のリズムで奏でられる小さな足音だけが沈黙を切り裂いてその場に響く。

 そしてリカルドの右隣に置かれている椅子へ私が座ると、彼は私の肩に軽く手を添え、冒険者さんたちに向かって声をかける。

「キミたちに紹介しよう。我が妻のシャロンである。シャロンは庶子とはいえ王家の血筋。この場においては、夫である僕以外の者の無礼は決して許されん。皆、そのことをよくわきまえよ」

 それを聞くと冒険者さんたち三人は目を丸くしながら当惑したような様子を見せ、慌ててこちらに向かって頭を下げた。

 私としてはそこまで緊張しなくても良いと思うけど、やっぱり身分のことを持ち出されるとそうもいかなくなってしまうのかもしれない。特にこうした公式の場ではなおさらだ。

 だから私は張り詰めた空気を少しでもなごやかにするために、柔らかく微笑みながら彼らに優しく話しかける。

「ご安心ください、皆さん。此度こたび親睦しんぼくを深めるご挨拶あいさつの機会。それに私は些細ささいなことは気にしません。どうか肩の力をお抜きください」

「……ッ……ぷっ……くくく……」

 その時、不意に横から何か感情を抑え込んでいるかのような声が聞こえてきた。

 私は首を傾げ、その方向へチラリと視線を向けてみると、そこではリカルドが手で自分の口元を押さえて体を小刻みに震わせている。

「っ? リカルド様?」

「あーっはっは! キミがそれを言うかっ? 肩の力を抜くのはキミの方だろ! 堅苦しすぎるぞ、シャロン! クククッ!」

「えっ?」

「わ、笑いすぎてっ……は、腹が痛いっ! でもっ、笑いが止まらんっ! あははははっ!」

 リカルドは両手でお腹を抱え、肩を上下に大きく揺らしながら笑っていた。

 一方、事態も状況も理解できない私はワケが分からず困惑するばかり。どう反応すればいいのか未だに掴めず、頭の中がグチャグチャで身動きが取れない。

「えっと……あの……」

「キミの生い立ちや普段の姿は……ククク……す、すでに彼らに伝えてある! 当然、明朗快活で親しみやすい性格だということもなっ! あはははっ……だ、だからその貴族っぽい言行は猫をかぶったものだとっ、彼らは知っているぞ!」

「は、はぁっ!?」

 思わず私は頓狂とんきょうな声を上げてしまった。

 周囲を見回すと、その場にいる私とリカルド以外の全員が申し訳なさそうな顔で苦笑する。――いや、幼い女の子だけはなぜか終始キラキラと瞳を輝かせて私を眺めているか。

 この時点でようやく私はリカルドの手のひらで踊らされていたことに気が付いた。


(つづく……)
 
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