111 / 178
第5幕:分水嶺の奏鳴曲(ソナタ)
第4-2節:当惑の応接室
しおりを挟む次に一番手前に座っているのは、その男性よりも少し若い感じの女性。キリッとした目と瑞々しさのある白い肌、大人の色香が漂う美人だ。長いストレートの茶髪をひとつ結びにして、カジュアルながらも落ち着いたデザインの旅着を身に付けている。
彼女は比較的軽装だから魔術師系だと思うけど、弓などを扱う射手や狩人、あるいは俊敏さを活かした格闘家の可能性もある。もっとも、冒険者である以上、どんな職業であっても基礎的な体力やある程度の近接戦闘術は身に付けているだろうけど。
そして彼らの真ん中に座っているのが幼い雰囲気の女の子。プニプニとした頬に丸くて大きな目、ショートの明るい茶髪はサラサラとしていて思わず触りたくなる。
見た目は五、六歳といった感じだけど、実際のところはどうなのかな? もし人間以外の種族なら私よりもずっと年上、それこそ数百歳ということだってあり得る。冒険者一行のメンバーなんだし、その可能性も否定できない。
一方、体格や服装は町で暮らしている一般的な子どもとほぼ変わらない。
ちなみに室内の空気は厳かで、沈黙と緊張感が周囲に広がっている。
特にリカルドは外交に臨む際に見せる『辺境伯モード』としてのスイッチが入っているようで、普段よりも落ち着きがあって目つきも鋭い。もちろん、それはそれでカッコイイと思うけど、その威厳に満ちた独特の空気に私は思わず身が引き締まる。
おそらくこの場の雰囲気から察すると、私にも辺境伯夫人としての立ち振る舞いが求められるのだろう。ゆえに小さく息をついてから心の中で気持ちを切り替え、優雅な仕草で頭を下げる。
「リカルド様、お待たせしました。お召しによりシャロン、まかり越しました」
「…………。……っ……うむ、ご苦労であった。僕の隣に腰を掛けるが良い」
「はい」
全員の注目を集める中、私は静かに室内を進んでいった。一定のリズムで奏でられる小さな足音だけが沈黙を切り裂いてその場に響く。
そしてリカルドの右隣に置かれている椅子へ私が座ると、彼は私の肩に軽く手を添え、冒険者さんたちに向かって声をかける。
「キミたちに紹介しよう。我が妻のシャロンである。シャロンは庶子とはいえ王家の血筋。この場においては、夫である僕以外の者の無礼は決して許されん。皆、そのことをよく弁えよ」
それを聞くと冒険者さんたち三人は目を丸くしながら当惑したような様子を見せ、慌ててこちらに向かって頭を下げた。
私としてはそこまで緊張しなくても良いと思うけど、やっぱり身分のことを持ち出されるとそうもいかなくなってしまうのかもしれない。特にこうした公式の場ではなおさらだ。
だから私は張り詰めた空気を少しでも和やかにするために、柔らかく微笑みながら彼らに優しく話しかける。
「ご安心ください、皆さん。此度は親睦を深めるご挨拶の機会。それに私は些細なことは気にしません。どうか肩の力をお抜きください」
「……ッ……ぷっ……くくく……」
その時、不意に横から何か感情を抑え込んでいるかのような声が聞こえてきた。
私は首を傾げ、その方向へチラリと視線を向けてみると、そこではリカルドが手で自分の口元を押さえて体を小刻みに震わせている。
「っ? リカルド様?」
「あーっはっは! キミがそれを言うかっ? 肩の力を抜くのはキミの方だろ! 堅苦しすぎるぞ、シャロン! クククッ!」
「えっ?」
「わ、笑いすぎてっ……は、腹が痛いっ! でもっ、笑いが止まらんっ! あははははっ!」
リカルドは両手でお腹を抱え、肩を上下に大きく揺らしながら笑っていた。
一方、事態も状況も理解できない私はワケが分からず困惑するばかり。どう反応すればいいのか未だに掴めず、頭の中がグチャグチャで身動きが取れない。
「えっと……あの……」
「キミの生い立ちや普段の姿は……ククク……す、すでに彼らに伝えてある! 当然、明朗快活で親しみやすい性格だということもなっ! あはははっ……だ、だからその貴族っぽい言行は猫を被ったものだとっ、彼らは知っているぞ!」
「は、はぁっ!?」
思わず私は素っ頓狂な声を上げてしまった。
周囲を見回すと、その場にいる私とリカルド以外の全員が申し訳なさそうな顔で苦笑する。――いや、幼い女の子だけはなぜか終始キラキラと瞳を輝かせて私を眺めているか。
この時点でようやく私はリカルドの手のひらで踊らされていたことに気が付いた。
(つづく……)
10
あなたにおすすめの小説
【完結】私を嫌ってたハズの義弟が、突然シスコンになったんですが!?
miniko
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢のキャサリンは、ある日突然、原因不明の意識障害で倒れてしまう。
一週間後に目覚めた彼女は、自分を嫌っていた筈の義弟の態度がすっかり変わってしまい、極度のシスコンになった事に戸惑いを隠せない。
彼にどんな心境の変化があったのか?
そして、キャサリンの意識障害の原因とは?
※設定の甘さや、ご都合主義の展開が有るかと思いますが、ご容赦ください。
※サスペンス要素は有りますが、難しいお話は書けない作者です。
※作中に登場する薬や植物は架空の物です。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【コミカライズ企画進行中】ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!
あきのみどり
恋愛
【ヒロイン溺愛のシスコンお兄様(予定)×悪役令嬢(予定)】
小説の悪役令嬢に転生した令嬢グステルは、自分がいずれヒロインを陥れ、失敗し、獄死する運命であることを知っていた。
その運命から逃れるべく、九つの時に家出を決行。平穏に生きていたが…。
ある日彼女のもとへ、その運命に引き戻そうとする青年がやってきた。
その青年が、ヒロインを溺愛する彼女の兄、自分の天敵たる男だと知りグステルは怯えるが、彼はなぜかグステルにぜんぜん冷たくない。それどころか彼女のもとへ日参し、大事なはずの妹も蔑ろにしはじめて──。
優しいはずのヒロインにもひがまれ、さらに実家にはグステルの偽者も現れて物語は次第に思ってもみなかった方向へ。
運命を変えようとした悪役令嬢予定者グステルと、そんな彼女にうっかりシスコンの運命を変えられてしまった次期侯爵の想定外ラブコメ。
※コミカライズ企画進行中
なろうさんにも同作品を投稿中です。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる