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鈴木マリ召喚される

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平凡な人生だった。

めちゃくちゃ仲が悪い両親をみて育って、「結婚とか別にしなくてもいいかなあ」なんて思っていたら、恋愛とも結婚ともとことん縁のない人生で、気づいたら40歳を超えていた。

特に色々と取り柄があったわけでもないし、冴えない中小企業で冴えない仕事をしていたら、たぶん、死んだ……んだろうと思う。
というのも今私の目の前には小さなお嬢さんがいて、わんわん泣いているのだ。そして私は白い空間にいる。

「えーっと」

どんなに勘が悪くてもわかる。これは「異世界転生」だとか「異世界召喚」だとかその手のものではないだろうか。

「そうです! そうなのです!」

やや食い気味に幼女が答えた。

「それでお嬢ちゃんは……?」

「申し遅れました。私、アナスタシアと申します。お嬢ちゃんじゃないです。女神です」

……。

女神なんですね。

「あの、力を使いすぎてしまいまして、今、一時的に小さくなっていますけど、一応、この世界の主神です」

あ、はい。

「鈴木マリさん、あの、それで、私、実はあなたを手違いで召喚してしまいまして……」

わー。
本当にお約束だ。そんなことあるんだね。

「あるんです……。ごめんなさい……」

そう言って俯くと幼女は再び泣き始めた。ひっくひっくと肩が揺れている。なんか、本当に悲しそうに泣くな、この子。

「あの、こんな大ポカ、本当、普通しないんですけど、あの……」

「もしかして寿命があるのに死んじゃったとか、そういう話でしたか」

なんだか面白くなって言うと、「はい!」と幼女は首をぶんぶん縦にふった。もげそうだよ。

アナスタシアによると、召喚のタイミングで邪魔が入り、術がそれてしまったのだとか。よくよく聞いたところ、本当は同僚を召喚しようとしていたことがわかった。彼女が心臓発作で亡くなる予定だったのが、そばにいた私にすり替わってしまったと。
雑だなー。

でも、まあ、あの子には素敵な彼氏もいたし、私でよかったんだよ、うん。

「あの、それで……お詫びをしたいんですけど……」

「あー」

私はちょっと遠い目になった。あれかな、チートなスキルとか貰えるのかな。でも冒険者になるつもりも世界を救うつもりもないんだよな……。

「今、私、ペナルティがついていて……」

「ペナルティ?」

「あの、召喚に失敗しちゃったので……」

「ああ……」

おばちゃん察したよ。

「差し上げられる転移者専用スキルが一つしかないんです」

号泣しながらアナスタシアは両手を広げて見せた。

金色に光る文字がゆらっと小さな両手から立ち上がる。

「ですから、よかったらこれを受け取ってください」

「え……でもこれって……」


幼女の手のひらから現れた文字は神々しく輝いていたけれど、私は思わず二度見した。

「スキル・資源ごみ……?」


確認しようと幼女を見ると、幼女はひときわ大声で泣き出した。

いや、あの、泣きたいのは私だよ……、とここにきて初めて、私は思った。


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