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10巻
10-1
しおりを挟む「なんと、まだ強い者がおったのか?」
模擬戦後の晩餐会で、マゴットの不在を知ったアンサラー王国の将軍ミハイルは、本当に悔しそうに唸った。
「あれはもう、強いとか弱いとかそういう問題じゃなくてですね……僕も反則を出さないと勝てませんし」
理不尽を絵に描いたような母を思い出し、バルドは困ったように笑う。
「やはり手札を隠しておったか」
死闘と呼ぶに相応しい人外の戦いであったのは疑いない。
だがともに拳を合わせた二人には、お互い手加減こそしていなかったが、全力でなかったこともわかっていた。
「――そちらこそ」
どこか諦念すら感じさせる表情でバルドも薄く嗤った。
ミハイルにも何か隠された切り札があるらしい。二人は不敵に笑い合ってコツンと杯を鳴らすと、ワインを喉に流し込んだ。
「ちょいといいかい?」
「――ほう」
声をかけてきたジーナの尋常ならざる武力を感じ、ミハイルは小さく感嘆の声を上げる。
見事な鍛えようと言うべきだった。
ミハイルは生涯現役を口にしているが、自分がジーナと同じ年齢で、これほどの武力を残していられるかは微妙に思える。
また、今戦って負けるとは思わないが、絶対に勝てるとも断言できなかった。
「ジーナ様、将軍に何か?」
ジーナが口を挟んできたことに軽く違和感を覚え、バルドが尋ねた。
「なるほど、あなたが『ヘルシングの雷鳴』殿か」
「今はどこにでもいる、ひ孫が可愛いおばあちゃんさ」
「いやいや、こんなおばあちゃんがどこにでもいたら怖いから!」
バルドとミハイルの言葉が期せずして重なった。世の平凡なおばあちゃんに喧嘩を売るがごとき暴言である。
「失礼な。こんなに無害で優しいのに……まあいい。ちょいと聞きたいのさ。ミハイル将軍はどこの生まれだい?」
「カディロス王国の外れだが?」
「ほう……カディロス王国ねえ」
カディロス王国はネドラス王国の南、トリストヴィー公国の西に位置する。
自然環境が非常に厳しく、国土の北と東を峻険な山岳によって守られているため、排他的で独自の文化を持つことで知られている。
人口はトリストヴィー公国の三割にも満たないが、山を熟知した山岳民族が過半を占め、獰猛で優秀な兵士が多い。
うま味のない痩せた国土と、戦えば厄介な軍事力があるという要因から、これまで国際政治に登場する機会は少なかった。
そのためジーナの獣人ネットワークでもカバーしきれず、カディロス王国にどの程度獣人がいるのかは不明だった。
「ちょいと村で揉めて、幼いうちに飛び出して傭兵になった。カディロスでのことはほとんど知らん。極端なことを言えば親父の顔も知らんのだ」
「それじゃ、自分の血統についてはわからないのか」
「親父が貴族で、母が妾であることぐらいだな。母はどこにでもいる農民の出だったはずだ。屋敷に奉公に出て、勉強して薬学を学んだようだが」
「もし差し支えがないならば、その貴族の名を聞いても?」
バルドはジーナが何を知りたいか察していた。だからいささか無礼に思われる質問も、掣肘しようとは思わなかった。
ミハイルが不完全ながら王門を持つ以上、その血統のどこかで獣人の血が混じったことは確実なのだ。
「言ってもわからないと思うが……マイヤーズ男爵ってやつさ。王国の北西部で猫の額みたいな領地を持っている」
「――残念だが聞かないね。カディロス王国に獣人は多いのかい?」
「どうかな? 少なくとも村で見たことは一度もない」
傭兵になってからは一度も国に戻っていないのでな、とミハイルは肩を揺らした。
塵ひとつも未練などないと身体で表現するミハイルに、ジーナはこれ以上の情報は得られないと思わざるを得なかった。
「カディロスの獣人に知り合いでもいたのか?」
「まあ、ちょいと縁のありそうなやつがいるかもしれないと思ったまでさ」
そう答えながらもジーナは追及を諦めきれなかった。
果たして王門とはいったい何なのか?
根源的な疑問を抱いてしまった以上、その手がかりを探さぬわけにはいかなかったのである。
「見事な戦いぶりだったが、あれは我流かい?」
「ああ、獣と傭兵を相手に鍛えた我流もいいところさ。生憎と教えを乞う余裕もなかったんでね」
それはそうだろう。傭兵として戦わなくては食うにも困る有様なのだから、悠長に剣を教えてもらう余裕があるはずもない。
「毎日森で、薬草と食料を集めてくるのが日課でな。森で狼の群れに襲われたときはヤバかった。母が薬師でなければあそこで死んでいただろう」
そう言ってミハイルは豪快に笑った。
自分を卑下しているわけではない。心から懐かしく、楽しいと思っている笑顔だった。
「敵にしたくないねえ。運がついた男は特に」
ジーナは額に手を当ててため息をついた。
誰だろうとミハイルと同じ境遇に陥れば、まず確実に死んでいる。
本来死すべき運命を乗り越えた男は、例外なく生き残るための運を持つ。戦場ではその運が馬鹿にならないのだ。
実力があり、修羅場を知り、そして天運のある男ほど厄介なものはない。
いっそここで殺しておいたほうがバルドのためではないか、と真剣に検討を始めるジーナであった。
「それにしても、俺にしてみればありがたい話よ。強い敵との出会いほどうれしいことはない」
バルド以外にも強敵がいると知って、ミハイルは機嫌よさそうに酒を喉に注ぎ込む。
できれば、個人の戦闘力が高い相手がいい。
残念ながら集団戦闘において、自分の指揮力は凡庸にすぎない。
もとより腕っぷし一本でのし上がったのだ。強敵を倒してこそ生きている実感を得られる悪癖があることを、ミハイルは自覚していた。
戦場で再びバルドと出会ったならば、どれほどの死闘を演じられるかと思うと、今からそれが待ちきれぬほどであった。
「――ネドラス王国の獣人はそれなりに腕は立ったが、婆様にも遠く及ばなかったな。いや、一人厄介なのがいたか」
「ほう、アンサラー王国の悪魔将軍が厄介とは、興味あるね」
この男を相手には王門を持つジーナやサツキでさえ、勝てるとは言い切れぬものがある。
そのミハイルが厄介と言うからには相当な相手に違いなかった。
「狼耳の獣人でな。強いというより賢くてやりにくい。こっちが嫌がることを本能的にわかっているような奴だ。確か――ラグニタスと言ったか?」
狼耳族は獣人族の中でも稀少な種族で、犬耳族と猫耳族の特徴が合わさった性質を持つ。
かつては犬耳族、猫耳族と同じくらいの人口だったが、特にアンサラー王国周辺を居住地としていたため、今では絶滅寸前と言われていた。
「なるほど、あれほどの弾圧を受けながら、まだネドラス王国でレジスタンスが活動していられるのはそのせいか」
「戦って負けるとは思わんが、そもそも戦えない。追っても逃げられるからな。ストレスの溜まる相手だ。俺はもう願い下げだね」
「それは僕もお会いしたいものですね……」
そう言いつつもバルドは苦笑を禁じ得ない。
人柄からして、ミハイルは政治に関する興味も能力も一切ないのだろう。
現に副官が親の仇のような顔でミハイルを睨んでいるのだが、当人はどこ吹く風である。
ネドラス王国には凄腕の獣人がいて、今も健在。
それを唯一掣肘できたミハイルは、もうネドラスにはいない――。
今頃ネドラス王国がどんな情勢になっているのか、非常に興味を引かれた。
少なくともそのレジスタンスと接触することは、トリストヴィー王国にとって不利益にはならない。
「せっかく強いのに、敵と戦わぬ腰抜けに興味はないわ! その点バルド殿下は素晴らしい。総大将だというのに自ら前線で剣を振るうなど、なかなかできることではないぞ!」
気持ちよく飲んでいるうちにどうやら酔いが回ってきたようで、顔を赤くしたミハイルがバンバンとバルドの肩を遠慮なく叩く。
「ちょ、将軍、飲みすぎですよ!」
「うん? お前はどうして飲んでないんだ? 飲め飲め! まずはかけつけ三杯だ!」
「のわああっ! 私は飲めな……あぐっ! ががぼ……」
「あの……副官さん動かなくなっちゃったんですけど……」
「ならばよしっ!」
酔いつぶれるまで飲まずに何が男だ。そうは思わんか? 満面の笑みでミハイルに問われたバルドは、今夜はどうやら長くなりそうだと覚悟を固めたのだった。
どっと沸く宴席会場からゆっくりと離れたジーナは、衒いなく豪快に笑うミハイルを遠目に眺めていた。
明日からは敵に戻るというのに、妙に人好きのする性格で、もうバルド以外の面々とも打ち解けている。ミハイルに敵意や悪意が存在しないためであろう。
あれはただ、戦うのが好きなだけの子供がそのまま大きくなったような男だ。
問題はその男が、獣人にとっての象徴であり切り札である、王門を所有しているということだった。
「困った男だ……」
「具合が悪いのにゃ? ジーナ様」
よく冷えたリンゴ水の入ったグラスをサツキから受け取り、ジーナは豊かな甘みと、疲れた精神が覚めるような酸味を楽しんだ。
「すまないねサツキ殿。まあ、バルドの嫁になるなら、私にとっちゃひ孫娘みたいなもんだが」
「よ、嫁? か、からかうのはよすにゃ!」
カッと茹ったように顔を赤らめながらも、満更でもなさそうにサツキは身体をよじる。
このところすっかり娘らしくなってしまったサツキが、おかしくも可愛かった。
それはそれとして、王門持ちと王門持ちの間に生まれる子がいったいどんな成長をするのかと考えると、また例の疑問が鎌首をもたげる。
――王門持ちはどのようにして生まれるのか?
人間と獣人の混血に生まれるというのは、これまでの経験則的にほぼ間違いあるまい。残念なことだが、純血の獣人で王門を持って生まれた例はないのだ。
これまでは奇跡のような偶然の確率によって誕生するものと思っていた。獣王の再来とも言える王門持ちは、百年に一人も現れないからこそ王なのだ。
ところが現状は、そんなジーナの固定観念を覆すものだった。
ジーナとマゴットの二人だけであれば、まだ納得できる。しかしバルドにサツキ、さらにはミハイルまで王門を所有しているとなれば、疑問が出てきて当然だろう。
もしかして王門は珍しくもなんともないのではないか?
そんな問いに突き当たって、ジーナはブルブルと肩を震わせた。
この大陸にうじゃうじゃと王門持ちがいるなど、悪夢以外の何物でもなかった。
もちろんただ王門を所有しているだけではだめで、獣神殿の司祭が正式な解放の手続きをしなければ真の力は発揮されない。
それをしないかぎり、あのマゴットですら中途半端だったし、ミハイルもそうだろう。
果たして彼らの存在を獣神殿が把握できなかっただけなのか?
ふと思いついたように、ジーナはサツキに向かって話しかける。
「そういえば聞いたことがなかったねえ。サツキ殿はどうやって、自分が王門持ちだと知ったんだい?」
「私が王門持ちであるとわかったのは、十歳の時ですにゃ――」
実はサツキは幼いころ、内気で恥ずかしがりやな少女だった。
今も続く「~にゃ」の語尾の原因にもなった、当時受けた心理的衝撃は非常に大きかった。
現在のサツキからは信じられぬことだが、幼いころ、サツキは猫耳を持たぬゆえに仲間からいじめられていたのである。
偉大な巫女の血を受け継ぐ娘に、猫耳族の象徴たる猫耳がない。
その事実にサツキは懊悩し、自分は本当は母の娘ではないのかもしれないと思うと、夜も眠れなかった。
一転してサツキがその懊悩を振り切るきっかけとなったのは、母サクヤが渡した猫耳のヘッドドレスだった。
他人からすれば他愛のない物でも、それだけで真の猫耳族になれた気がしたのである。
精神的な後ろめたさから来る自虐から解き放たれ、たちまちサツキは同年代の子供たちのリーダーとなった。もとよりサクヤから受け継いだ身体能力は突出しており、年上の悪童もサツキにかかれば赤子のようなものだった。
いわゆる肉体言語によって、サツキは不動の地位を築いたわけだ。
「我を崇めるのにゃ!」
「突き抜けすぎるにもほどがあるだろう!」
周囲がそう突っ込んだのも無理はない。
「やはり正義は勝つのにゃ! 私に逆らう悪は滅ぼされて当然なのにゃ!」
さすがはガルトレイクの巫女姫、と評判が立つまで、そう時間はかからなかった。
十歳になるころには、すでにサツキの戦闘力は大人の戦士と肩を並べるまでになっていた。母サクヤをも上回ろうという成長ぶりに、周囲の期待は否が応にも高まった。
しかし好事魔多しというべきだろうか。
確かに天性の優れた身体能力があるとはいえ、その精神はまだ幼い少女のままにすぎない。
限界は唐突に訪れた。
当然のように大人の訓練に混じっていたサツキは、ある日突然、階段を移動中に身体が自分の意思で動かないことに困惑した。そして次の瞬間には、ふわりと宙に投げ出されていた。
あとで医師に聞いた話では、自分の身体が限界を迎えているのに、精神力で無理やり動いた反動だったらしい。
運悪く階段から転がり落ちたサツキは、四か所もの骨折と全身打撲、そして頭を強く打ったことによる意識障害で危篤状態に陥った。
サツキの訓練を指揮していた隊長などは、死を覚悟した、というより、むしろ自ら死を望んだという。
それほどにサツキの存在は、ガルトレイクの獣人族になくてはならない存在になっていた。
一週間ほども生死の境をさまよった末に、サツキが意識を取り戻したときには、ガルトレイク中の獣人族が歓呼の声を上げたらしい。
「それからすぐのことですにゃ。母様から私が王門を持っていると言われたのは」
「そうかい……バルドもそうだが、みんなよく命があったもんだね」
まともな生活を営む庶民ならばともなく、ジーナやバルドのように武に生きる者にとって、危険は身近に存在する。
あとほんの少しで死んでいた、そんな瞬間は武人の多くが経験すると言ってよい。
そして、そこで死なないことが天運である。
天運のない人間は風邪をひいただけでも、食事の卵にあたっただけでも死んでしまう。
だが、本気で生死の境をさまよった経験のある人間は存外少ない。
死ぬかと思ったという主観と、死ぬかもしれないという客観は天と地ほども違うのだ。
そこでふと、ジーナの脳裏に閃くものがあった。
(死にかける、あるいは死の間際までいくことが条件なのか?)
考えてみればジーナもマゴットもバルドも、そして先ほど聞いたかぎりではミハイルも、危うく死ぬ状況からギリギリで生還した経験を持つ。
もし死にかけることが王門の鍵となるのなら、確かにその確率は非常に低いはずだった。
(いや、だが足りない)
獣王以来、ほとんど出現することのなかった王門。
その出現条件が人間と獣人の混血であることと、死にかけた経験のあることだけではやはり足りない。
足りないピースがいったい何なのか、ジーナには思いつくことができなかった。
翌朝、ミハイルは意気揚々とマルベリーを出立しようとしていた。
「バルド殿下、次に会うのを心待ちにしているぞ!」
「今度は戦場で決着をつけることといたしましょう。正直戦わずに済むなら、それに越したことはないのですが」
ガハハ、とミハイルは大口を開けて豪快に笑った。
「それは無理というものだ。俺はたとえアンサラー王国の将軍でなくとも、殿下と戦うことを決して諦めないからな!」
これからバルドの敵に回るということを隠そうともしない。
バルドが少しでも目先を優先する人物であれば、あるいはミハイルを過大に評価していたならば、この瞬間に殺されても不思議はなかった。
現に副官は胃が痛そうにお腹を押さえて俯いている。この男の無茶に付き合っていたら生きた心地がしないであろうと、ラミリーズは密かに同情した。
「やれやれ、世の中には隠れた強者がほかにもいると思うのですけどね」
「残念だが、俺は殿下ほどの強者を知らん。できれば昨晩聞いた、殿下の母上にも手合わせ願いたかったがな」
「アレと戦うのはやめておいたほうがいいでしょう」
マゴットは、バルドですら切り札なしには勝ち目が薄い、根っからの戦闘民族である。
たとえミハイルであっても、隠された何かなしでは蹂躙されて終わるはずだった。
あるいはそのほうが、バルドにとってはありがたいかもしれないが。
「オルテンに、くれぐれもよろしくお伝えください」
ラミリーズはミハイルに向け、堂々と胸を張って笑った。
「殿下はよき騎士をお持ちのようだな」
個人戦闘力ではミハイルの圧勝でも、軍の指揮力ではラミリーズが二枚も三枚も上であろう。
しかも、経験を己の血肉にする術を心得ている男の目だ。
この手の男を敵に回すと非常に厄介であることを、ミハイルは経験的に知っている。
「自慢の騎士ですよ――その騎士を捨てるような国は滅んで当然。そう思う程度には」
「がっはっはっ! 確かにこう言ってはなんだが、公国の太子は殿下の爪の垢を煎じて飲むべきだな!」
トリストヴィー公国の公太子ベルナルディは、小賢しいだけで知力も胆力も合格点は出せない、というのがアンサラー王国宰相の意見であったという。
海千山千の宰相マラートを疑うという選択肢はミハイルにはない。
あの宰相は、ミハイルが頭の上がらぬ数少ない人物の一人なのだ。
「俺はその馬鹿に手助けして、殿下と戦わねばならぬらしい。実に喜ばしい。まさしく男の本懐である!」
敵意の欠片もない明るい笑顔で、ミハイルはぐっと右手のひらを差し出した。
どこまでも困った戦馬鹿である。
しかしどうやら自分もその戦馬鹿の仲間のようだ、とバルドも笑ってミハイルの手を握った。
二人はお互いに、近い将来命を懸けて戦うことになるだろう好敵手の顔を見つめる。
ほとんど無意識のうちに口端が吊り上がり、今すぐにも戦いたいという欲求が湧き上がるのを二人は互いに察した。
「なるほど、殿下は俺と同じ病にかかっているな」
「僕はいたって常識人ですよ? ただ負けず嫌いなだけで」
「とんだ負けず嫌いもあったものだ!」
負けず嫌いの度合いについては、ミハイルも決してバルドに劣らない。
「ならばどちらの負けず嫌いが勝つか、お楽しみというところだな」
「受けて立ちましょう」
そして人騒がせな戦好きの将軍は、ご機嫌で鼻歌を歌いながら帰途に就いたのであった。
「今度という今度は本当に愛想が尽きました! 転属願いを出しますからね! もう将軍の気ままに付き合わされるのは勘弁です!」
ようやくマルベリーの人々の姿が地平線の彼方に消えたころ、副官は憤然と抗議した。
ある意味残念だが、当然の言い分でもあった。
「といっても、公国遠征の途中で転属が受理されるはずがないだろう!」
「ぎゃふん!」
こちらも至極当然の道理である。
平時であれば、出世には影響するとしても、転属はそれほど難しいことではない。
しかし戦時に、しかも他国にいて容易に転属などできるはずがないのだ。
「そこは協力してくださいよ! 私がどれだけ死にそうな目に遭ったかわかってるでしょう!」
「生きてるじゃないか」
「死んだら文句も言えないじゃないですか!」
副官は涙目でミハイルに食ってかかる。
「もう嫌だ! これから戦う相手と模擬戦とか、暗殺犯が狙いやすい酒場で朝まで痛飲するとか! 巻き込まれる身にもなってください!」
「だから付き合わなくていいと何度も言っているだろう?」
それがミハイルには不思議で、副官を気に入っている理由でもあった。
これまでの歴代の副官は、ミハイルの自殺行為に仲良く付き合うような殊勝さは持ち合わせていなかった。
応援ありがとうございます!
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