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12巻
12-1
トリストヴィー公国が滅亡したという報告は、間諜の手を経てすぐにエウロパ教団の本拠地、ソルヴィディヴィアンにある教皇庁へともたらされた。
バルド率いる新生トリストヴィー王国軍のあまりに速い侵攻速度と、貴重な聖遺物を使用してもなんら成果を得られなかった公国の情けなさに、教団幹部は歯噛みした。
「貴様は何をやっていたのだ!」
公国に派遣されていた司教ロッホサイド・バーガッシェンは、糾弾されると消えてしまいそうなほど身体を縮めて、冷や汗を流した。
王門を持つバルドに対抗しうる聖遺物を管理する責任があったにもかかわらず、公国宰相ヴァレリーという、教団とは無関係な人物にその使用を任せた責任は重い。
「言い訳をするつもりはありません。しかしながら、あの獣人の王太子と直接相対するのは、ヴァレリー以外に不可能だと判断いたしました」
ロッホサイドに与えられていたのは、聖遺物とわずか二十名の兵士のみ。これでは到底、万を超す軍隊に守られたバルドに肉薄することなど夢のまた夢であった。
だからこそロッホサイドは、ヴァレリーによって説得されてしまうことになった。
武装を解除されたわずかな人物しか、バルドに近づく好機はない。自分が命を捨ててバルドを討ち果たすから聖遺物を譲ってくれ、と。
それはまったくの事実であり、断られた場合は実力行使も辞さないというヴァレリーに、反駁するだけの力がロッホサイドにはなかった。
対バルド強硬派のガハラッド大司教が、テーブルに拳を叩きつけ吼えるように言う。
「すべては結果だ。聖遺物を失い神敵の抹殺に失敗した卿は、断罪に値する!」
「無論、責任を避ける気は毛頭ありません」
そんなことは、ロッホサイド本人が誰よりよく知っていた。
自らの無能によって貴重な聖遺物を喪失してしまったのだ。教団を守る都合上、今後他国に聖遺物を貸し出すことは非常に難しくなるだろう。
それは、アンサラー王国との外交関係にまで影響を及ぼすに違いなかった。
「……ロッホサイドを罪に問うのは当然として、ここまで早く公国が滅亡するのを予見できなかったというのは問題ですぞ? 勝ち目がないなら早めに撤収して、聖遺物を温存するという選択肢もありえた」
信仰心だけでは乗り越えられない壁――強敵というのは当然存在する。
バルド暗殺が不可能となった時点で、教団の聖遺物と戦力を温存するべきではなかったか? 財務を統括するバリチェロ大司教はそう問いかけた。
「馬鹿な! 座して公国滅亡を容認するなどありえん!」
外務を司るマゼラ大司教が抗議する。
教団にも立場というものがある。負けそうだから見捨てましたというわけにはいかないのだ。
そんなことをするくらいなら最初から支援するべきではない。単なる専制国家ではなく、宗教組織であるエウロパ教団は、国家以上に名分にこだわる必要があった。
「先ほど結果がすべて、と言ったはず。現実に我々は、トリストヴィー王国に脅かされる立場となったのだ!」
「む、むう……」
長い教団の歴史でも例がない事態であった。
バルドが教団は敵であると宣言した事実はそれほどに重い。
これまで大陸最大の宗教組織として多大な影響力を保持してきた教団は、明確に国家と敵対したことがなく、それは獣人を重用するノルトランド帝国やガルトレイク王国に対しても同様だった。
にもかかわらず、よりにもよって国境を接するトリストヴィー王国と敵対してしまったのである。
君主たるバルドを幾度にもわたって暗殺しようとしたのだから当然かもしれないが、このままではトリストヴィー王国によって攻め滅ぼされる可能性も低くはなかった。
「――聖戦を発動する」
静かな決意とともに教皇が発した言葉に、大司教たちは一様に息を呑んだ。
教団が組織されてより、聖戦が発動されたことは一度もない。
言わば伝家の宝刀であって、いったん抜かれてしまっては取り返しがつかないことになるからだ。
要するに聖戦とは、国王よりも信仰に従え、場合によってはその国王を倒せという、専制君主の権力の否定である。
しかしいかにエウロパ教徒といっても人々には日々の生活がある。
命を捨ててまで信仰のために生きる者などごくわずかだ。というよりもそこまで信仰心の厚い人間なら普通は聖職者となる道を歩む。
果たして庶民がどこまで教団のために動いてくれるかは未知数と言えた。
加えてあまりにも大きな問題がある。
それはトリストヴィー王国の国民が教団の指示に従う可能性は皆無ということだ。
彼らにとってバルドは、長く続いた内戦と貴族の横暴から解放してくれた救世主であって、今さら再びつらい戦いに戻るなど思いも寄らなかった。
もし教団の聖職者が彼らを、王国に対して反逆するよう煽動すれば、たちまちつるし上げを食らい拘束されるのが関の山であろう。
教団の幹部たちはあずかり知らぬところだが、これも最初からヴァレリーの計画のうちであった。
「……アンサラー王国に支援を要請するという手もありますが……」
最長老のロワノール大司教が遠慮がちに教皇に尋ねた。
「それでは他国が黙っていまい。公国が滅亡した今、マウリシア王国やハウレリア王国がトリストヴィー寄りとなる可能性は高い」
すでにしてサンファン王国とマジョルカ王国は新生トリストヴィーの戦友である。
マウリシア王国も本腰を入れてはいないが、ランドルフ侯爵軍が参戦しており、あちら側なことは言うまでもない。
彼らの力が統合されれば、大陸最大のアンサラー王国の国力すら上回る。
そうなればもはや、新生トリストヴィー王国を滅ぼすことは事実上不可能となるはずだった。
――それだけは認められない。
たとえ教団が滅ぼうとも、獣人の血を引くバルドが王として世界を変革してしまうことだけは避けなければならぬ。避けねばならぬ理由があるのだ。
(まったく、せっかく教皇となったのにこれでは栄華も味わえぬ)
過酷な権力闘争の末、ようやく教皇の座を射止めたというのに、自分の代でこんな降って湧いたような災難にぶち当たるとは運がない。
そうは思ってみても、現実逃避するつもりは微塵もなかった。
まさにこの事態のためにこそ、歴代の教皇は存在し続けてきたのだから。
「聖戦の発動で少なからず各国は揺れる。そこで時間を稼ぎ、アンサラー王国と協力して奴らを滅ぼすのだ。アンサラー王国には、信仰の擁護者の地位を送ってもよいと伝えよ」
「そ、それは――本当によろしいので?」
信仰の擁護者の地位を与えることは、すなわちエウロパ教を国教と定めていた統一王朝の後継者としてアンサラー王国を認めることに他ならない。
そんなことをすれば、他国をすべて敵に回しかねなかった。
「トリストヴィーを滅ぼした国がこの大陸の覇権を握る。アンサラー王国が再び大陸を統一するか、トリストヴィーを中心に連合的な政体が取られるか。我が教団の存続の道がどちらにあるかは言うまでもあるまい」
すでに賽子は投げられている。今さら新生トリストヴィー王国と和解する選択肢はないのだから、アンサラー王国に賭けるしか教団に残された道はないと教皇は言っているのだった。
もちろん政治的な揺さぶりとして、マウリシア王国やハウレリア王国への働きかけは必要だろうが。
「教団に忠誠心の厚い人間を選抜しておけ。聖遺物の量産と供給だけは決して他国に譲るわけにはいかないのだから、な」
効率だけを考えるのであれば、聖遺物の知識をアンサラー王国あたりに移転してしまえばよい。
だがそれは教団の存在意義に関わる。聖遺物は教団によって、どこまでも管理監督されなくてはならなかった。
そうした意味では、アンサラー王国をも脅威として認識し、難しい交渉を成立させていかなくてはならない。
(本当に、教皇になどなるのではなかった)
教皇になる道を選ばなかったロワノール大司教は、さすがに賢人である。自分でなく、老齢をおして彼が教皇の地位に就いていれば、残り少ない寿命を吸い尽くされていただろう。
不退転の決意を固めながらも、教皇は深い深いため息をつくのであった。
ベッドに横たわり、朝日が窓から差し込むのを眺めていたトリストヴィー公国大公ジャックは、キン、という甲高い耳鳴りに頭を抱えた。
とうとうこの日が来てしまった。
ベッドや調度品こそ大公に相応しい豪奢なものだが、所詮は宮殿の一画にある監禁部屋でしかない。
内乱の責任を一身に背負い、公開処刑されるために彼は今日まで生かされてきた。
もはや忠臣だったオルテンもフィオレンティーナ侯スピノザもいない。
国内に残された貴族たちが、ジャックを救い出すような胆力を持つとは到底思えなかった。むしろバルドにおもねり、積極的にジャックを害しようとするに違いない。
(あのときヴァレリーは間違いなく、予定通り、と言った)
ジャックは恐怖に震えていたため記憶が途切れ途切れではあるが、自分を捕らえたときのヴァレリーの言葉はしっかりと覚えていた。
ところが、ヴァレリーはバルドを殺すために蛮勇を振るい、敗れてその命を散らした。
ジャックはいまだに、ヴァレリーが公国を建国したときから、英雄にトリストヴィーを譲り渡すためずっと裏で画策していたことに気づいていない。
その思考が理解力の埒外にあるからだ。
ジャックにとって疑問なのは、どうしてヴァレリーが裏切ったのか、そして裏切ったにもかかわらず、なぜバルドに逆らって殺されたのか、ということだった。
「――殿下、お着替えを」
「ひぃっっ!」
いかつい侍従武官が扉を開けて訪れると、ジャックは情けなく悲鳴を上げて硬直した。
覚悟はしていたが、できればこの現実から逃げ出したい。
「ご心配なく。大公殿下に見苦しい格好はさせませぬ」
そのどこに心配しない要素があるのだ。要するに殺すためではないか!
がちがちと歯の根が合わず、声にならない声を発してジャックは後ずさる。
バルドに国を奪われるくらいなら、死んだほうがましだと思ったこともあるが、あれは嘘だった。
死にたくない。
公国などいくらでも譲るから自分を生かして欲しかった。
「――どうか大公殿下の名に恥じぬようお覚悟をなされませ」
半刻ほどで半ば無理やり礼服に着替えさせられ、髪を油で整えられたジャックは、かつての公国に君臨していたころの姿を取り戻した。
あくまでも外見だけである。これから向かうところは処刑場なのだから。
神よ。どうかあなたの忠実なしもべを救ってくれ。そのためなら私は千回でも獣人どもを絶滅させてみせよう――。
そう願いはしたものの、実際には抵抗もせず、ジャックは侍従武官に促されるまま馬車に乗り込んだ。
齢七十を超えた身体で屈強な兵士に対抗できないことは、自分が誰よりよく知っていた。
もしジャックを救うものがあるとすれば、それは天祐以外にはありえなかった。
「大公だ! 大公が来るぞ!」
「よくも俺の家族を殺しやがって! 奴の死に顔を拝んでやるぜ!」
「ああ、やっとこの国も平穏が訪れる……」
あれが余の国民か?
ジャックは初めて生の国民の声を聞いて戦慄した。
彼らは決してバルドという新国王に媚びているわけではない。
ジャックと貴族に対する憎悪を自発的に抱いているのが明確にわかったのに。
「――なぜだ?」
選良たる貴族に統治されてこそ平民は安全が保障されるのである。
平民の自由に任せていては国家は混沌と化し、弱い平民はたちまち土地と財産を奪われてしまう。
貴族という秩序こそが国家を国家たらしめてきたのだ。
ジャックにはこれほど平民から呪詛を浴びせられる理由が理解できなかった。
「――到着です。おいでくださいませ殿下」
処刑場は磔台を中心に三百メートル四方を柵で囲まれ、選りすぐりの騎士三百名ほどによって守備されていた。
その数が多いのか少ないのかジャックにはわからない。
ただ見物に訪れた平民たちが軽く数万に上ることに、心の底から驚いていた。
ミリアーナの人口の大部分がこの処刑場に集結しているかに思われた。
――それほどに余が憎かったのか。
こんな国民を抱えて公国を守り切ることなどできるはずがない。
あまりの理不尽さに失望を抱えて、ジャックは目を閉じた。
そのときである。
「コンティネッリの虐殺に報いを!」
誰かがそう叫んだ。親類がコンティネッリにいたのかもしれない。
しかしたった一人の上げた声は、次第に大きな波となって群衆の間に広がっていった。
「俺は虐殺で母を殺された!」
「私はこの間の焼き討ちで焼け出されたわ!」
「よくも我々の血を吸って肥え太ってくれたものだな! この寄生虫め!」
平民たちが絶叫する怨嗟と不満の声を浴びたジャックは、先ほどまでまったくわからなかった答えを唐突に得た。
まさにこの光景を作り上げることこそがヴァレリーの目的であったのだ、と。
「ふははははははははははははは!」
なぜか痛烈に愉快であった。
してやられたとも思うし、愚かしいことだとも思う。
磔台に両手足を固定されながらも、ジャックは高らかに嗤い続けた。
これほどおかしいと感じるのは、兄に謀反し公国を建国して以来、初めてのことかもしれなかった。
「何もかもすべてが貴様の手のひらの上であったわけか! しかし人の思惑であらゆることを操ることなどできぬ!」
人であるからには誤算があり、時として天は冷酷に人を裏切る。
神でもないヴァレリーがその轍を踏まぬはずがないのだ。
轟々たる呪詛の怒号に、ジャックは悪びれずに胸を張った。
「ああ、見事、見事だ! 誰がこんな真似を想像できる? だが忘れているぞヴァレリー。貴様の選んだ男は獣人の血を引くが、我がトリストヴィー王家の血も引いているのだ。我が血族は永遠に生き続ける!」
バルドが死するまで名君である保証などどこにある?
人の理想など儚い。
それはかつて公国を建国し、新たな理想に燃えていたジャックこそが誰よりもよく知っていた。
「束の間の栄華を誇るがいい。貴様の人生を懸けた策もやはり虚しく潰えるのだ」
二人の騎士が槍を構える。
腋の下から槍に貫かれるその瞬間まで、ジャックは愉快そうに嗤い続けた。
教団がいよいよ聖戦を決断しようとしていたころ、バルドはアウグストやシルクとともにオスト侯爵領を訪ねていた。
屋敷に向かう馬車の中でアウグストが呟く。
「……まあ、あの男が何も残していないはずはないんですよ」
もちろん反逆者であるオスト侯ヴァレリーは領地も財産も没収となり、アウグストを実子として公には認められない以上、王室が直轄管理することになる。
バルドとしてはアウグストが望むなら、内戦の功績に対する褒美としてそれらを与えても良かったのだが、アウグストはこれを固辞した。
「私にとっては必要のない土地です」
母イズンに抱かれ、父ヴァレリー、すなわちガリバルディとともに海へと漕ぎ出した思い出の地はマルベリーであって、ここではない。
かといってその管理を他人に委ねるのは問題がある、とアウグストは考えていた。
ヴァレリーが掌握していた諜報組織の情報や、公国の知られざる闇が一般に拡散することは、決してあってはならないからだ。
あのヴァレリーのことだ。それこそ国がひっくり返るようなネタをいくつ隠し持っているか知れたものではなかった。
バルドもそれを危惧したからこそ、この忙しい時期にアウグストを連れて訪れることにしたのである。
「……バルドもアウグストも、宰相をすごく評価しているのね」
男たちの並々ならぬ真剣さを感じ取ったシルクは意外そうに目を瞬かせた。
傍目から見ればヴァレリーは、公国の滅亡に際し宰相としてなんら有効な手を打てなかった愚か者に思える。
実はバルドから真実を打ち明けられた後も、シルクはまだ半信半疑であった。
彼女にとってヴァレリーは、母の祖国を滅ぼした憎い敵であり、死を迎えるそのときまでバルドの命を狙った相手である。どう考えても公国側の忠臣だろう。
それが公国を裏から操り、この内戦の脚本をほぼ完全に描き切ったと言われてもピンとこなかった。
逆に言えば、それほどに途方もないことをヴァレリーはやり遂げたのだ。
もし同じことをやれと言われれば、バルドもアウグストも即座に自分には無理と判断するだろう。
「正直いくら評価しても評価したりないと思うね」
満腔の力を込めて、バルドはそう呟く。
果たして本当にヴァレリーが敵であったら、今こうして生きていられたかどうか。考えるだけで背筋が寒くなるバルドであった。
辿り着いてみると、公国の裏を支配していたという割には、オスト侯爵家の邸宅は小さく感じられた。
ただ貴族の屋敷としては十分に豪華であり、庭やイズンを住まわせた離れのような付属物は充実している。
穏やかな佇まいとしっかり清められた見事な玄関は、ヴァレリーに仕える使用人たちの質と忠誠心の高さを窺わせた。
「――陛下の行幸である。謹んで出迎えよ」
コンティネッリ攻防戦でバルドが重傷を負うのを止められず、ミリアーナ攻略でもいいところのなかったギッツェは、無理やり一兵士としてバルドの護衛を買って出ていた。
そうでもしないといても立ってもいられないらしい。
妹であるイズンがヴァレリーの後を追ったという心の傷も少なからず影響しているのだろう。
ギッツェの声に反応してオスト家の正門の扉が開いていく。
「――お待ちしておりました陛下」
カリラ亡きあとオスト家の家令の座を引き継いだのが、出迎えたブルイックである。
その物腰と洗練された礼式はカリラに勝るとも劣らない。
いったいヴァレリーはどれほど豊富な人材を抱えていたのか、とバルドは軽く目を見張った。
「亡き主君より、オスト家のすべてを余さず陛下にお伝えするよう申しつかっておりました」
「準備万端というわけか。さすがだな」
頷くバルドの横で、シルクも驚きを露わにした。
死ぬ遥か以前から、ヴァレリーが今日このときを予想していたとわかったからだ。
ようやくシルクのなかでヴァレリーに対する認識が変わろうとしていた。
「こちらの者は諜報部門を統括する責任者となります」
そう言ってブルイックは太い眉が印象的な壮年の巨躯の男を紹介した。
「タリスカと申します。以後アウグスト様の指揮下に入らせていただきます」
「ええっ? どうして私なんだっ!」
「諜報部門はオスト家の管轄ではなく、ガリバルディ商会の非公然部門ですので。資金もそちらから出ていました」
「あの糞親父! いつの間に!」
ガリバルディ商会の会頭の座を継いだはずのアウグストも把握していなかった。
勝手に人に仕事を振っておきながら、今日この日まで内緒にしていやがった――。
どこまでも父の手のひらの上で転がされている気がして、アウグストは顔を赤くして憤慨した。
「……やれやれ、最後の最後まで驚かせてくれる」
これにはバルドも苦笑せざるをえない。
よくよく考えれば、ヴァレリーは海運ギルドの七元老を務めた大商人で、諜報員を送り込むためのルートも資金も十分すぎるほど保有していた。
けだし、バルドの諜報組織が局所的に出し抜かれるのも無理はなかった。
「我々の組織、ガリバルディ商会特別部の別班は、今回の陛下と公国の交戦に伴い、戦力のほぼ三分の一を喪失いたしましたが、運用能力はいまだ十分であると自負いたします」
「君は敵であった僕に協力することに抵抗はないのか?」
「私は敵だと考えたことは一度もありませんよ? 任務を果たすのに手強い障害ではありましたが」
「……褒められたと思っておこう」
彼らもまた、ヴァレリーと理想を共有していたのだ。
トリストヴィーの未来のために、陰で汚れ仕事を行い、英雄の帰還を待ち続けた。
彼らにとってバルドに協力するのは何ら憚りのないことなのだろう。
「教団とネドラス王国に対する浸透は継続中です。必ずやお役に立てるものと」
「そこまでか……!」
バルドの次の敵は旗幟を鮮明にしたエウロパ教団である。またその擁護者で明確に敵対したアンサラー王国の戦力を分断するためには、混乱したネドラス王国が重要となることをヴァレリーはすでに見越していた。
バルドは改めてその慧眼に寒気を覚えた。
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