托卵された公爵

はまち

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ドレスが届いてトルソーにかけて見るがとても豪奢なドレスだ。私、フルフェイスの仮面をつけて参加するのだけれども。悩んでいると公爵領に仕える画家がやってきた。聞きたくないけれど、聞かなければならないのだろう。

「夜会の前に是非ともドレスを着た姫様の絵が欲しいとのことなので。」
「……頂いたので断れないからって……わかりました。仮面をつけたままなのをご理解ください。アンジュ、エメル手伝って。着た感じどっちが良いか決めて。」

 別室に移動して仮面を外してドレスを着用してそれに合うように髪を結いあげて宝石を身につける。成長すると母に似てきて国を傾けかねない。と、真面目に里帰りをした兄たちに言われた。家の騎士たちにも笑顔をするだけで男が勝手に勘違いをして犯罪に手を染めてでも貢ぎそう。と言われるほどの顔面である。中身は変わらないのに見た目だけの評判が顔で男を手玉に取る悪女のような評価である。

「仮面をつけている方が楽。人付き合いがめんどくさい。魔道具だし。」
「素顔の方が一番ですよ。」
「素顔も出せない環境に歯痒い思いをしていることもお忘れなく。」

 エメルにそう言われてどうしたものかと考える。主人が顔を隠すことになっていることを不遇と思っているのか。利点を説明するにしても納得しなさそう。どう説明したらこの2人は納得するだろう。

「私の顔を知っているのは家族の特権だよ?それを赤の他人にも無償で渡す?」

 幼少期からこの屋敷で仕えている使用人と家族だけの特権である。これでも無駄に美人だと周りから言われているし、騎士団でも移動してきたり新入りは私の顔を知らない。仮面をつけた公女ということになっているし、上層部が自分たちがわかっているから問題ないと断言し、エメルとアンジュ2人の人造人間が主人と仰ぎ見るのはヴェロニカしかいない。

 着替えて椅子に座って絵のモデルになる。おじ様たちが揉めなければそれでいい。顔有りの方がいいかも知れないが、おじ様たちには仮面のままでも頭の中で私の顔が嵌め込まれているようで問題はないらしい。椅子に座っているだけだと暇だから読書をして側にある机に仕事の書類を置いてもらって目を通していく。今日はこちらのドレス。明日は着替えてもう一枚。プレゼントを頂いた手前お返しを何もしないわけにはいかない。


 選ばれたのは動きやすさ、武器の隠しやすさ、走りやすさを優先した機能美が備わっている黒のドレスにした。布地が軽く、蹴り上げしやすい。エメルたちが私を横抱きにして移動する際でも布が邪魔にならない。父は警備などを気にしないといけないから仕事でもあるので常に付き添いは出来ない。護衛としてエメルを連れて行く。エメルも貴族の従僕に見えるように少しおしゃれをしつつ、色目を使われないように目元をレースで隠しておく。ドレスとお揃いの黒のレースだ。

「見える?」
「問題ありません。何かあれば外しても?」
「とりあえず世間知らずの御令嬢を寄せ付けないためだから必要に応じて外して。」

 ウチの騎士団の衣装を着せて剣を持たせて夜会用に装飾品もつけていく。

「アンジュは私の留守を任せるね。」
「はい。八つ当たりから入浴まで対応できるよう準備いたします。」

 なぜ八つ当たりが一番最初に出るのだろう。私が王族大嫌いだが、そこまで過激なことや話題にしたことないのだが、どこで覚えてきたのだろう。そう思いながら馬車で移動をする。

「ダンスがあっても踊れるの?エメル。」
「一通り対応できます。楽器の演奏も素人ですが大体。」
「よく覚えられるわね。」
「……製造した後は何もない状態ですから読書した知識などを吸収しやすい。ということもありますが、魔道士が覚えるべきことを製造段階で教育されますので知識だけはある状況です。」
「そうなんだ。」

 隣に座り手に触れたり顔を撫でる。主人が仮面をして表情を読めなくても雰囲気や態度で感情を読み取れる。仮面も美しい彩色を彩られているが笑っているように見えなくもない。ヴェロニカは頼りにしていると微笑んで王城に入る。

 王城に入ると公女だからと真っ先に通される。父の姿を探す。王族の傍にいるのか会場警備で既に中にいるのか。

「姫様?」
「お父様を探したのだけど見当たらない……」
「仕事をなさっているからでは?」
「分かっているけれど、プレゼント貰ったって見せてないから。」

   裾を摘んでドレスの事だと伝える。彼は納得して探すが会場近くには居ないようだと報告する。

「分かるの?」
「交代で同胞を連れていますので魔力感知で居場所は概ね。」
「便利な物だね。」

  そう思っていると四侯家も入ってきた。フルフェイスの仮面で来ると思っていなかったのか仰天しているようだ。笑顔を取り付きえない?失礼な。扇で口元を隠すような態度をする。不愉快だと伝われば言いけれど。ウチが引きこもって研究優先の運営をして政に関与しないようにしているのをいいことに四侯が王家の直下だと勘違いをしている。
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