出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

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67 混沌

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 お嬢様達の仕事を眺めて評価するけれど、上のお嬢様達は彼らの希望するような仕事をしているようには見えない。一番上よりもその下の人たちが頑張っているようにも見える。仕事ぶりを評価するだけで細かい人格とかは当人達の好みだろうし。私が嫁を決める話にこれ以上関わりたくない。

「ヘラルド伯父様にこんな素敵な(仕事上の)愛人がいるのにすぐに紹介してくださらないなんて酷いわ。」
「ティアラ様は詳細をご存知なんですよね…??」
「えぇ。余計なことを教えるなと伯父様に言われるほどには。」

 ティアラ様は隣国のお妃様になる予定として嫁いでいるらしく、結婚式も近いらしい。他国のお妃様が結婚式準備で帰ってきたが頻度としては帰ってこれないだろう。

「双子がとても別方向で紳士的で驚きました。何でもミカエラ様のおかげだとか。」
「私は何もしておりませんよ???」
「凄い宝飾師と聞いていますよ?」
「いえいえ、細かい仕事が得意なだけでまだまだ未熟ですよ。」

向かい合うのではなく隣に座られて手を握られた。フニフニと手を握られる。ティアラは興味ありげに触っている。

「騎士とも違いますね。」
「そうですね。面白いですか?」
「単純に興味がありますから。」

何が面白い???ティアラと世間話というより双子がアソコまで変わった理由を聞きたいと言われてもそれを言っていいか分からないので庶民流の最底辺の生活を教えた程度で留めておいた。

「何故貴方がいるのですか!?!?」

ティアラ様とお茶が終わったあと部屋に送ったあとにご令嬢達に囲まれた。今日はイザーク様だから強気に出られているのか。

「何故と言われましてもヘラルド様にどうしてもと請われましたので。私に言われましても困ります。」

「リンドブルム大公に囲われているにも関わらず…ふしだらにも程がありましてよ。」

何処をどうしたらふしだらになるのだろう。ヘラルド様は双子の嫁候補選ぶのに大義名分で汚名を被ってまで私を城において自分は忙しいからとしているのはともかく…仕事終わりに部屋に来て食事を取って城で借りてる自室で寝ているのにふしだらはないだろう。私がヘラルド様の部屋に1泊とかヘラルド様が部屋で1泊…してた。どうしても終わらないとか、物理的に距離がこっちの方が近いからと私の部屋に机置いて仕事持って帰ってた。明日は公休日で部下は帰らせたけれど終わってないからと。

「ミカエラ、心当たりでも?」
「ヘラルド様がお忙しいと仰りながら沢山(仕事を)抱えて部屋に何度か夜を明かすくらいには。私にお断りする権力も力もありませんのでヘラルド様に仰ってください。私も自分の仕事で多忙なので…私よりもご自分に与えられた任務を遂行すべきだと思いますけど。」

上手くいっていないのは明らかだし、侍従や女官達が愚痴をこぼしているのもよく聞く。その事を優先した方が良いと思う。

「私は呼ばれた理由を理解して実践して居ますが、こんな所で私なんかに油を売る暇があったのですね。吃驚です。イザーク様、ユーリ様経由でアトランタ伯爵令嬢は自信がお有のようです。と、ヘラルド様にお伝えください。この後交代でしたよね?」
「承りました。」

ティアラ様のお茶会だからレオンハルト様よりイザーク様の方が適しているというか、話の内容の報告があるらしい。身内でも他国の人間扱いだからだとか。仕事でイザークがついているのに噛み付くなんて考え無しすぎる。

部屋に戻る道中チラッ見上げると目が合った。動いた気配でもあったのか、気配察知が凄すぎる。

「どうしました?」
「……ユーリ様の護衛という点ではイザーク様って目立つと思うんですけど、あの方気付いてなかったのが不思議だと思って。」
「あぁ、それはあの方々はレオンハルト様やユーリ様の顔や衣装を中心に見ていますから。私も気配を消して控えてますから余計目立たないかと。騎士などであれば護衛まで目を配ります。何かあれば逃げるべきなのか打ち倒すのか。」
「なるほど。眼帯と言うだけで目立つというのは私が浅はかだったということですね。」
「…ミカエラは貴族と会った時どこを見ていますか?」

何処を見ているか。難しい質問だ。何を見ているだろう。
うーん。と、考えて足を止める。

「難しい質問でしたか?」
「正確に言うと何処も見てないです。なるべくその人を見て顔と名前を一致できるように印象的な部分を見るようにしてます。後は中身でしょうか…貴族の名前長いので瞬時に変な渾名付けて印象付けたりしています。だからどう答えるのが正解なんだろうと思いまして。」
「そんな難しい答えを求めてませんよ。さっきすぐにご令嬢の名前が出てたので。苦手でしょう?こういうのを覚えるの。」

貴族の礼儀作法マナー教室でそれなりに付きっきりで教師をしていたイザークにとって対応出来るとは思っていなかったらしい。

「ヘラルド様からご褒美取り上げられたくなかったらそれくらいしろって…脅されました。あと、貴族表現の甘ったるい言葉から庶民らしい直接的な表現に切り替わって甘ったるい言葉を聞きたくないので。頑張りました。」

「……あぁ、なるほど。自分なんかと何時も卑下されてますからね。」
「……長年卑下される事が当たり前でされ続けてきた平民ですよ。いきなり褒められたりされても困ると誰も理解していただけないというか…イザーク様くらいがとても楽です」

姿勢を崩さないように歩きながら見上げると意外だったのか表情が間に合っていなかった。

「楽ですか?」
「楽です。滅多に褒めない、褒めたとしても頻度が低いと精神衛生上とても楽です。レオンハルト様があの眩しい笑顔で大絶賛されるのが本当に面映ゆい通り越して…もうやめてと言いたくなる時もあるので。」
「…まぁ、私もどちらかと言うとミカエラ寄りの考えなので。」

それは意外だった。貴族の若様なんだから蝶よ花よとは行かないにしても怒られるとか人格否定とかはあまりないだろう。

「ユーリ様の護衛になるのに苦労はあったとおもいますけど…」
「そうですね。私もミカエラ同様特殊技能採用に近いですから。」

初耳だけど、聞いていいのだろうか。特殊技能採用なんて。そう思っていたら部屋の前についた。別の騎士が待っていた。

「では私は報告も兼ねて戻ります。」
「ありがとうございました。」

イザーク様が特殊技能採用というのは初耳だけど、私に何故言った。言わなくていい情報ですよね。そういう余計なこと知りたくなかったんですけど。というのも言うのはダメなんだろうけど。なぜ私に???
仕事として報告書をかきあげてから後宮のご令嬢達が打ち合わせ用にと与えられた部屋の控え室に顔を出すが険悪な空気だけが漂っていた。

どうすんのコレ。
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