出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

文字の大きさ
93 / 194

93 リハビリ

しおりを挟む
 リハビリがそれなりに大変だが、神官による治癒魔術の効果は高い。手が動くようになっていたが、足はしばらく杖必須のようだ。ユーリ様が部屋に来た。

「どう?身体の具合。」
「回復はしたのですけれど、歩くのにしばらく杖がいるようです。」
「それは生活に支障が出るね。貴族の犯人がまだ目処ついてない。でも家に帰りたいミカエラの要望を叶えるには手練れの護衛が必要だ。同じことが起きても大変だからね。」
「そ、そうですね。」
「だから、家に帰って良いけれど、犯人の目星がつくまで護衛にイザークをつけるからイザークも持ち帰るように。」
「え…」
「防犯上の都合としばらく足が不自由なんだから男手があった方がアリアも助かるだろう?」

そうですけれど。アリアもイザーク様も侯爵家の人で私から何か言えるような立場でもないわけだし。それに侯爵家に長居するのも気不味という感じで色々考えていたわけで・・・人が多すぎて疲れる。家に帰るか、ここで過ごすかになると、ある程度歩けるようになったから家に帰りたい。

「犯人目星ついてないのが珍しいですね。」
「あぁ、ちょっと喋れ無くなったからね。回復したらしゃべるだろうけれど・・・」
「イザーク様がフルボッコにしたとかですか?」

 本人がいないから聞いてみた。

「フルボッコ?まぁ話を聞くのがイザークの仕事だし、私怨が8割かもしれないけれど。やりすぎるから適度に持ち帰って欲しいんだ。」
「わかりました。」




「ミカエラ、どうしました。」
「ユーリ様に私怨8割で仕事して進捗微妙だから持ち帰って欲しいって言われました。」
「あぁ、そういうことですか。部屋は余っていましたよね。適当に借ります」

 断定だった。ミカエラは帰るときにアリアを先に帰らせてセシルさんのことを任せて私はイザーク様にエスコートをされて帰ることになる。アリアに伝えると客間の準備すぐに始めてくれた。アリアがいるから大丈夫だと思いたい。いや、大丈夫なはずだ。家に戻りセシルの核石に触れる。

「戻りましたよ。細かいことはアリアに言ってくださいね。」

 さてと、杖をついて歩くけれど、工房に降りるのも大変だ。階段が辛い。それでも元に戻さないと生活と仕事に支障を来たす。そう思いながら杖をつきながら仕事をする。手はゆっくりではあるけれど、品質が維持できるようになりつつある。ただ集中力が必要でいつもより品質に自信がない。数を作るしかない。クズ石だから材料費を気にしなくて良いけれど。

「ミカエラ、作業場でないといけないのですか?」
「階段の登り降りで足を使いたいんです。」
「わかりました。ですが、足元が不安ですので私も付き合いますのでご理解ください。」

 工房に降りて仕事をするのだけれども階段を降りるときに彼が先に降りる。私が転倒して階段から落ちても良いためということらしい。慣れなくて落ちそうになった時は数歩で飛んできて身体を支えてきた。

「ミカエラ少しはましになりましたね。」
「そうなのでしょうか。」
「私の直感ですけれど。」

 工房の仮眠用の長椅子にイザークが座っているのだが寛ぐならゴロンとくつろいでおけば良いのに。
休憩がてらミカエラはそばに座る。見上げると彼の方が首を傾げた。

「ミカエラ?」
「私怨8割でお仕事はダメですよ。」
「…善処いたします。」
 そっと触れて髪に触れてみるとなでろと差し出してきた。そのまま頭を撫でると身体を寄せてきた。のだが、なぜか膝の上に移動させられた。膝の上である必要ないと思うのだけれども。そう思いながらも抱きしめてくるのでよしよしと頭を撫でる。安堵したように息を吐き出されたので私の過失が大きいらしい。

「何かしたいことでも?」
「貴方が無事で良かったです。」
「あ、はい…イザーク様…」

腕の中に収め直された。恥ずかしいけれど嫌ではない。困った。ここが嫌じゃないになってる。

「取り敢えず同衾してもいいですか?」
「犬の姿なら良いです。」

もふもふに飢えているのか言ってしまった。手に口を当てて失言。と、思いながら見上げるも表情が明るくなっていた。

「本当ですか???」
「ベッドからはみ出します。」
「大きさ調整します。」

出来るのか。大きさ調整出来るのか。それはそれで気になる。見上げると頬に唇を寄せられた。

「いい匂いですね。せめて恋人とか婚約とかダメですか?」
「なんでそうなるのですか。」
「こういうのを友人や知人には許しませんから。」

ミカエラが顔を赤くして見上げるとイザークはスっと躊躇いなく口付けをした。嫌じゃないけど…どうしたらいいか分からない。

「おや?」
「…バカスカ殴られてる時に出血してるしイザーク様が来るかもと思ってたので…」
「では結婚を前提に恋人から始めましょう。」
「…」
「こういうことあの男たちと出来ますか?」
「無理。」
「ヘラルド様は仕事だからと割り切れるでしょうが…元職場の職人は?」
「嫌です。」
「少なくとも私は拒まれていないと自惚れていますので、ミカエラが意地でも結婚したい相手が出るまで恋人とか婚約ではダメですか?内縁で良いので。護衛以外に堂々と傍にいれる理由を下さい。」

こくり。小さく頷く。これは折れるしかない。すごく悲しげな顔をされてしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...