出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

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94 頷いた

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怖かったからなのか、彼の悲しげて心配した顔がそういう気持ちになったのか…頷いてしまっていた。眼帯を外した彼は先程と打って変わってホワンと嬉しそうにしていた。やけくそだと思いながら自分から触れるだけの口付けをする。好きか嫌いとかではなくそうした方がいい気がしたからだ。

「ミカエラ、私の忍耐力を試しているのですか?」
「????」

何を言っているのだろう。いつものように膝に乗せられているだけだ。と、思っていたが膝から下ろされてしまった。いいけど。
口付けが長いから首に腕を回して抱き着く。これなら口付けも出来まい。狼の姿ならもっともふもふだったんだろうなぁ。残念だ。

「可愛いですね。浮かれても良いのですか?浮かれますよ?」
「いつも通りのイザーク様が好ましいです。浮かれるなら犬の姿にしてください。それなら私ももふもふ出来るので。」

何を葛藤したのだろう。ミカエラは変にアプローチばかりされるなら程よい距離のために自分も少し折れる必要があるのでは?と、思っていた。のだけど、思ってる以上に喜んでいるような気がする。

「ミカエラ私からは手放しませんから…」
「いえ、手放していただいても構いません。」
「嫌です。」

 嫌です???嫌ですってなんだろう。そんな選択肢ありなのだろうか。私が手を話すしかないのだろうか。でも人を好きになるというのがわからないし、イザーク様がここまで執着する理由がわからないし、共感もできない。この選択が正しいものだったのか今でもわからない。



 ゆっくりと仕事を再開するがアリアがイザーク様の部屋を作ってしまって長期滞在できるようにという形らしい。全て無視をして仕事をする。
 怪我の治療は終わっているから後は私がすべきことは手足を元通りにすること。職人なわけだし。アリアの手を使って絵付けの練習をしてみたり杖なしで歩くために散歩に出るのだが、家の守りをセシルさんにお任せしているのでイザーク様が平民に近い装いで付き添ってくる。

「イザーク様…」
「まだすべてが解決したわけでもないですからね。」
「難航しているのですか?」
「そうですね。実行犯とあの場所を提供した貴族だけでは理由が判明していませんし、目的が不明瞭でヘラルド様やユーリ様の直感で納得できない、気持ち悪い状態なんです。」

 説明を受けてもそういうものなのかと。思うしかない。所謂トカゲの尻尾きりだと私の警備を上げ続ける必要もあり、そのほうが負担が大きくなるし、私への精神的負担もあるからだと説明を受けた。侯爵家で生活はなるべく避けたい。息苦しいというより分不相応だというのがいまだに思っているし、慣れていない。
 イザークは何かあるわけでもないが当然のように横にいるだけだ。荷物持ちはしてくれるけれど・・・それで護衛ができるのかどうかは聞くのはおかしいし、それよりも護衛としているのか私情でいるのかもわからない。こちらから何かいうことは特にないのだけれども…目が合うと穏やかに微笑むので困る。どう返せば良いんだ。ふぃっと顔をそらす。

「ヘラルド様の時も顔を逸らしていたのですか?」
「・・・顔を逸らしたり笑顔を貼り付けていました。仕事ですからバリエーションは欲しいと言われていましたから。」
 買い物をしていると視線が刺さる。

「なんですか?」
「いえ。いつもこんな感じなのですか?」
「そうですね。何を期待しているのですか?」

 期待されても困る。そう思って見上げると少し考えた素振りを見せてそうですね。と自分なりに何か納得したのだろうか。独占欲的なものはそこまでないのか、それなりに折り合いがついているのかわからないけれど、平穏に過ごせるならそれで構わない。
 久しぶりに商業ギルドに顔を出す。

「ミカエラさん、杖をつかれてどうしたのですか?」
「階段から落ちて神殿に行くほどの怪我だった。それで治りが遅いというか、歩く練習中」
「それは大変ですね。ショールームを見られますか??他の工房も新作を並べていますし。」
「あ、はい。」

 商業ギルドに並んでいる他の職人が出している作品を見て流行を確かめるが全体的に小ぶりなものや大振りの中に小ぶりのものがあるように見える。金や銀もふんだんに使っている。どういうのにしようか。ウケ狙いより自分の可愛いものをとりあえず作ろうかな。

「ミカエラの作品にだけ納期未定と記載していますね。」
「安全策です。1人ですし。」
「なるほど。こうして見るとミカエラの技術の違いが分かりますね。」
「ありがとうございます。」

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