出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

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前を開けていたのは、ただ隠すほどの胸もないしというだけなのだが…堪能しないでくれ。顔を埋めて離れない。毛玉な姿の時に上半身裸で毛皮を堪能したことあるから抵抗はそんなにないのだが、顔を埋めて固まらないで欲しい。包むほどの胸なんてないですよ。

「あの、イザーク様…」

髪を撫でながら堪能するのをそろそろやめて欲しいと思いつつ名前を呼ぶが全く微動だにしない。密着度合いと拘束が強くて眠れない。プスプスと頬をつつくと指を噛まれた。何故噛む。

「ミカエラ、抱いていいですか?」
「聞く時点で断られるのわかっているでしょう…嫌です。」

押し倒されて足の間に彼の身体があるのだが…当たっている気がするけれど…無視だ。

「何が嫌なのですか?」
「先入観。」
「痛そうとかですか?」
「…私、娼婦じゃないので。」

したくない理由はハッキリと何が嫌だとか明言できなくて、大切にされているのは分かっているし、嫌じゃないのかもしれない。けれど聞かれたら嫌だとなる。脳裏によぎるのは使い捨てられた、孤児院を先に出た姉たちだ。

「分かりました。」

頭を撫でられた。ミカエラは服をちゃんと着て眠りについた。シャワーを浴びてくるのだろうけれど…なぜ嫌かと言われたらあの姿が脳裏を過ぎるし、そんなことは無いと、この人なら大丈夫だと思えるけれど嫌なものは嫌だ。




「ミカエラ様、リビングでイチャイチャしても良いのですよ?」

アリアに言われて笑顔が固まった。

「えーとアリア???」
「むしろ家主なのですからメイドを気にしてどうするのです?あ。でも、一線超えるなら部屋にしてくださいね。それ以外は気にしませんから。」
「…嘘だぁ…」
「メイドですから。」

と言うよりイザーク様が普通にお使いやら侯爵家へのお使いにアリアを使いまくっている。お小遣いという名の賄賂を握らせている。堂々と。

「一応私の家に貸し出されてるメイドを買収しないでください。」
「何を言っているのです。私の仕事の一部を依頼しているので手間賃です。」
「では、夕食は温めたら終わりなので明日の昼近くに戻ります。ミカエラ様、私ロズウェル侯爵家に仕えてますので。」
「知ってるよバカぁ。」

仕事には文句言ってないけれど、目の前で買収されないでほしい。買収じゃないかも知れないけれど。
アリアが出かけると様子を見て仕事を終わらせる。イザークは家の中の掃除や雑務を当たり前のようにしてから工房に降りてくる。ミカエラはため息をつかないようにする。後は仕事を終えて納品するだけで、それはアリアに任せておけばいい。それよりも新たな課題として外国語を覚えなければならなくなった。

「ちんぷんかんぷん…」
「第二言語選択しなかったのですか?」
「実技しか取ってないので。だって庶民が外国語して使う機会なんてないでしょう。しかも商人じゃなくて職人なんですけど。」
『愛していますよ。』

急に勉強中の言葉で言われた。何を言われたかさっぱり分からない。耳で聞いた言葉を辞書で引いてみるが自信が無い。

「難しいこと仰ったのですか?」
「いつも言っていることですよ。」
「えぇ…さっぱり聞き取れなかったです。」
『間違えたらキスしますね。』

耳で筆記をして辞書を引くが全然聞き取れず首を傾げて見上げると当たり前のように唇を重ねられた。

「んー!!!」
「間違えたらキスすると言ったでしょう。」
「卑怯っ…」

バシバシと叩いて離れるまで長時間口付けをされて勉強どころではない。

「勉強が進まないじゃないですか…」
「教えますから。」

むぐっ。また口を塞がれる。
「嫌なら覚える事ですね。」
「な…教える気ないですよね!?」
『私が通訳をしますし、こっちの方が大切です。』
「何言っ…」

翻訳間違えてもキスされるし、聞き間違えてもダメ、発音の間違いだけまだ許されているけれど全然進まない。口付けをする理由が欲しいだけじゃないの!?!?

「勉強が進みません…」
「付きっきりで教えますよ。真面目に。」
「今までのは…」
「欲を優先しました。」
「キチンと教えてくれないなら毛玉でも部屋に入れません。」

外国語を流暢に話しながら教えてくれるがさっぱり分からない。聞き取れないし、発音も結構特殊だ。文法も微妙に違う。教え方は丁寧なのだけど、私の頭が追いついていない。

「とりあえず、発音と単語の数を覚えるのが手っ取り早いのですが…次に貴族の言い回しがありますね。」
「な…」

無理だ。覚えきれない。というかしゃべれる人が傍にいてくれたら良いのに。

「私以外に喋れない人いますよね?」
「さっぱりの人は誰もいませんよ。最低でも少しは出来ますから。」
「1人だけさっぱり…」
「そうですね。教養として覚える必要がありますし。」

詰んだ…
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