出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

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118 醜聞

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 私の拙い説明で納得するのかどうか。それ以前に典型的なお貴族様だと話を聞いてくれないんだよな。急いでユーリ様を呼びに行ってもらったけれど、少し遠いし、会議とかで捕まらなかったらどうにかして時間を繋いで傷口を広げないようにしないといけない。変な勘違いをされたらずれたお説教が始まってしまう。お説教で済めばいいんだけれども。済むかな…

「何故黙る。」
「私の話を聞いてくださるのですよね?」

 確認は大事だけれども、後ろの護衛がすごく睨んできたので目を逸らす。怖い。お貴族様の沸点がどこにあるかわからないし思った以上に沸点低い人が多い。ユーリ様や侯爵から、貴族の沸点は低い又は身分が下と決めつけた相手の話を聞かない、と対貴族講義で習った。時間稼ぎではないけれど、相手がこちらの話を聞いてくれるかを確認することが大事だ。私の話を聞いてくれなければ何を言っても無駄だ。

「平民上がりが何を言っている。私の問いに答えろと言っているのが理解できないのか。」

 あ、これは自分が集めた情報が一番と判断して何を言っても無駄なタイプだ。自分より上の人又は同等の貴族の話しか聞いてくれない。さて、どうしたものか。ミカエラはフゥッと息を吐き出して見上げる。貴族対応は侯爵家の領分で私が何かするとポカするに決まっている。礼儀作法や言い回し全てつけ焼刃で勉強の頻度を落としている。自信がない。

「私の話を聞く気がないなら無意味だと思い確認をしたのです。お貴族様は庶民の訴えを聞いてくださる方と平民だから従えと人の話を聞かない方ときっぱり別れるもので。」

 ミカエラはきっぱりと言い切った。ここを分かり合えないと話をするだけ無駄だ。そう思って見上げた瞬間痛みが走った。杖で腕を殴られた。職人の腕を殴るっていきなり何????短気すぎる。

「図に乗るな。平民。直答を許しているだけ感謝しろ。」
「めんどくさ…少なくともイザーク様は人の話を聞いてくださる方ですよ。」

 杖から剣が出てきた。武器持ち込み制限があったりするのに仕込み剣とかズルっ!!!!!!剣を向けられてムカついた私は素手で刃を握り込む。少し手を動かすだけで手が切れて血が滴り落ちる。片腕は打撲又は骨折で反対の手は裂傷。危ないからこっちに向けないで欲しい。

「人の話聞く気ない人に何言っても無駄だからめんどくさいってだけですよ。」

 扉が開けられた。ユーリ様と侯爵様とイザーク様…剣を握っている手をパッと離す。手のひらがざっくりと切れて血が滴り落ちるのが見えてしまう。

「ミカエラ、何があったのですか。」

 イザークに抱き寄せられた。

「いっ!!!!!!!」

 手を離された。痛いのに腕もひっくるめて抱き寄せられた。激痛が走ったのでろくな怪我ではない。頭突きをする。

「裂傷だけではないのですか…」
「…先に杖で思いっきり殴打されたんです。腕触らないでください。」
「…何があったのです…?」

 馬鹿正直に言われたまま、されたことを報告する。されたまま、言われたままで殴られるし、剣を向けられたからわざと刃を握って手を怪我したと。

「ミカエラ、なぜわざと怪我をしたのです。」
「…出血すると飛んでくると思ったので。」

 目を逸らしてイザークを利用したことを仄めかす。ユーリや侯爵はいい笑顔で頷いて伯爵をみる。爵位を見てもロズウェル侯爵家が前に出るなら私は問題ない。イザークがハンカチを取り出して裂いて手を巻きつけて止血をする。

「後で治療しましょう。」

 それよりも殴打された腕のほうが気になる。少し指先が痺れている。

「ミカエラ、大丈夫かい???」
「殴られたほうが痺れてるので不味いかも…」
「イザーク、作業部屋にいる神官に治療させてきなさい。腕が使えなくなるのは問題だ。」

 ひょいと抱き上げられて部屋からでた。肩に担がれて荷物扱いだ。



「さて、伯爵、私が話をしようか。」

 疑問を払拭できたかどうかはわからないが、腑に落ちない。そういう顔にしかならなかった。ユーリは何を言っても意味がないかと少し諦めたけれども伯爵は少し違うようだ。

「ミカエラの醜聞と言ってもリンドブルム大公の件は虫除けの契約だし、弟は護衛だ。イザークを私の護衛から外したのは彼女が色々と人気があるからだ。彼女の技術はまだこの国の手元に置いておきたいからこちらが嫌がる彼女に無理やり爵位を押し付けてこの国に縛り付けている。自力で子爵までなろうとしている技術者に無礼を働いたのはそちらなんだが…謝る気はないようだな。それなら放っておけばいいだろう。イザークの婚姻もこちらの繋がりを使って父に一任だとそういう話をしていたのではないですか。」
「それで未婚の男が平民の未婚の未成年の家に入り浸るなど外聞が悪すぎると思いませんか。」

「外聞も何も、私の周りは誰も言っていませんが???どこの外聞でしょう。」
「まさか、ロズウェル侯爵家は伯爵家の令息を平民の爵位持ちと縁付かせるおつもりか。」
「30になったいい大人が全て周りに決められることもないでしょう。それに呪い持ちだから好きにしてくれていいと昔言い切ったのはそちらでは???」

 伯爵はイザークに呪い持ちの出来損ないだと見切りをつけていた。呪いを解呪することもできないからと。だから自分の家族として護衛、従者として仕事に困らないようにした。それを今になって横入りしてくるのはとてもいい性格をしている。だからそれならこちらも徹底的に対抗させてもらおう。大切な技術講師の腕を物理で傷つけた代償は大きいと言うことを理解してもらおうか。
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