出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

はまち

文字の大きさ
154 / 194

154 買い出し

しおりを挟む
ローズ嬢のアクセサリの案はデザインをいくつか考えていた。店にある材料でも少し変わるかもしれない。普段着に着替えて護衛を連れて市場に出る。イザーク様はいつもの楽な服装に剣を下げている。私も適当にしているけれど眉間に皺が寄っている。

「ミカエラ、アリアがしたのですか??」
「自分でしましたけれど。」
「やり直しますので座ってください。」

 座ると手櫛で髪をまとめられた。早い。私が適当すぎたからなのか。一緒に出かける。身長差があるのはいつものこと。馬で買い物に出ることはなく徒歩。歩調は私に合わせられて隣の大通り側を彼が当たり前のように歩く。恋愛小説を参考にすべきだろうか。そう思いながら腕を掴む。ピタッと彼は足を止めてこちらを見下ろす。驚いた顔をしている。

「?????」
「腕をくむか手をつなぐ方が良いのでしょうか。」
「積極的ですね。」
「小説の受け売りです。護衛の仕事に影響を及ぼすな…」

 手を取られた。目元が穏やかだが手を取るのがとても早かった。手が硬い。手を握る方が良いのか。

「貴族らしさ皆無ですね。」
「私は気にしないことをご理解いただいていると思っていたのですが?足りませんでしたか?」
「…あのボール投げとかしたことありますか?」
「無いですがどういうものなのかは分かってますよ。」

   直ぐに市場に入る。会話が聞き取りにくいかもしれない。けれど結婚を命令されるようになった。勝手に外堀を埋められて帰り道を消していく。絶っていく。今こういう話をすべきなのか、そうじゃないのかも分からないけれど。

「イザーク様、私が1個しか持てないのを知ってか知らずか様々な大きさで…それは全部大きいボールを受け止めきれない速度で投げつけてくるんです。取り敢えずぶつけられて地面に落ちたものを拾って処理してますけど…この速度で返すのが精一杯です。」

   恋愛感情、好意を豪速球で投げつけられてそれは柔らかいけれど当たると痛くて投げ返す前に次々と投げつけられて取り敢えず拾って抱えて箱に収めて理解しようとしているつもりだ。ちゃんと見ようと思っている。物腰柔らかいし、呪いのことを聞いてから押しかけて来るなり甲斐甲斐しく世話をする貴族の男性。成る可く返せるように真似をするというか、恋愛小説参考でしてきたけれど…

「家で聞いた方が良さそうですか?何時でも時間を作りますよ。」
「強制される前に自分で決めたいです。たとえ結果が同じだとしても…」

   1つ言えるのは…スカルラッティ伯爵家…実家に返してしまうとあのワガママ令嬢と結婚させられてしまうくらいなら私の押し付けられる仕事を手伝って欲しい。

「愛の告白ならちゃんと目を見て言ってください。」
「…????///////ただの決意表明れす!!!!!」

  噛んだ///////握った手を振り払おうとしたのにビクともしない。顔が熱い。

「買い出し、別日にしますか。」

   ヒョイッと抱き上げられて家ではなく彼はかなりいいお宿に飛び込んだ。現金で1泊いくらするんだ!?!?ここ!!!

「家に帰ればいいでしょう/////」
「休憩です。期待しました???応えても良いのですが、まともに買い出しも出来ないでしょう??」

   頬をモチモチと撫でられる。顔が熱い/////水を貰う…恥ずかしい/////氷水…美味しい。家に帰りたい////

「視線が痛いです」

   凝視されている。

「ぬいぐるみにするかなりましょうか???」

   恥ずかしいが膝に乗り抱き着いて顔を埋める。頭を撫でられる。視線が刺さるにしても顔を見られたくない。

「嫌じゃないですか?」
「このくらいは嫌じゃないですし…腕の中は慣れました。最近のアンバース子爵令嬢の振る舞いとかが頭に来たというか…それに合わせてあのお手紙だったので…ちょっと思うところがあったというか…忘れてください。」
「お断りします。」
「…うぅ…」
「キスもしないで押し倒していない私のことを考えてくださいね。」

   顔を埋めて返事も拒否。


   落ち着くまでそれなりに時間がかかってしまった。

   目的は買い出しなのに気になるものもなかったのでアリアにお菓子を買って帰宅するだけになってしまった。

「なんのために外に出たんだ私…」
「私の投げたボールに対する返球でしょう?アリア」

   イザークが呼ぶと返事をしてやってくる。

「精神的にとても疲れたようだから入浴でマッサージとかしてあげなさい。」
「承知致しました。ミカエラ様どこまで遠出したのですか???」
「ヴ…」
「お風呂の準備は出来てるので入りましょうねー。」


   お風呂でも特に愚痴を漏らすわけでもなくマッサージで溶けて寝ただけだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

処理中です...