出勤したら解雇と言われました -宝石工房から独立します-

153 生贄に相談

　ローズ嬢は突然お茶会に呼ばれて、呼ばれた先がロズウェル侯爵家でドレスコード指定という訳のわからないお手紙だったので本人は訳もわからず言われた通りに来たのだろうけれど、ガッチガチに固まっていたのを気取られないようにしながら侯爵家にやってきた。客間であり、他に呼ばれたのが私だけなので余計に混乱していた。

「ローズ嬢、肩の力を抜いて。ミカエラなんて慣れているわよ。今日は貴方が主役なんだから。」
「わ、私ですか？？？」

　基本的にエリザベスが話をする。というよりも王妃様がこういう本に今ハマっていて見目を整えて衣装を着せたら気に入られるはず。甘い言葉をかけていた。私はデザイン画を作っただけでもし何かを着飾らせるなら何が良いだろう。ローズを引き立てる衣装とそれに合わせるデザインを考える。

「それで流行のデザインが変わるかもしれないわよ？」
「何故私なのでしょうか…」
「ミカエラの自己満足？創作意欲が燻っているからぶつけるマネキンが欲しいと言う感じよ？どうかししら？？」
「あの、私は何をしたら良いのでしょうか？」
「騎士らしい所作ができればいいわ。」

　断れるわけもなく、首を傾げながら彼女は了承し、エリザベスはニコッと微笑んでドドンと本を積み上げた。

「とりあえず、セリフを覚えて場面場面でさらっと出てきたら合格。」

　学生にそれを命じられるのか。私は別に良いけれど、趣味の発散だし、事前にある程度詰め込みをされたから平気だけれども、彼女は現役の学生なのにそれをサラっと言ってしまう。それができる人なのか力量を見定めるためなのか。

「とりあえず採寸ね。ローズ嬢、ミカエラの作品のためにマネキンになってちょうだいな。」

　ローズ嬢はメイドに別室に連行されてしまった。エリザベス様の視線が私に…

「王妃様が気に入ったら取られるわよ？」
「騎士を数人も抱えるなんて分不相応ですから。それで彼女が良い環境に行けるならそれはそれで良いのでは？？？と、思っています。」
「あら、そうなの？？？アンバース子爵令嬢はまだイザークと会えてないようだけれど引き止めているの？」
「本人が手紙が届いたら破って燃やしてゴミに出しているので…私は何も。アリアがしているように自由に休暇も取れますし、私自身が何かを命じる権限もありません。」
「さっさと婿にしてしまえば良いのに。嫌いなの？」
「…のっぴきならない体質の都合上ですし。体質改善されたら逆に迷惑かと。」

　ミカエラは無理してそうする必要もない気がする。ローズとデザイナーが戻ってきた。ローズ嬢はげっそりとしていた。デザイナーも同じテーブルについて私のデザインを見て目を輝かせていた。

「ミカエラ様もこのような衣装を？？？」
「私の体格だと合わないですよ。どうしましょう。」
「そうですね…少々お待ちください。」

　デザイナーがノートを取り出してデザインをたくさん書き上げていく。エリザベス様はそれを見て、布の色や刺繍の模様など細かく指示をしてく。私はそれに合うアクセサリー原案を考えて書いていく。納期も決めて仮縫いの日まで決めた。

　それで帰る時間になったらイザーク様がいつもの護衛騎士の衣装に眼帯をつけて迎えにきた。

「話はまとまりましたか？」
「仕事になりましたので明日買い出しに付き合っていただけます？」

　快諾。即答。帰りの馬車で買い出しをしても良いけれど、装いがお茶会用の貴族衣装だからそれで工房や材料屋に入りたくない。汚れる。

「私の服装だけで気づかないものでしょうか。気づかれないように雰囲気や眼帯の方向を変えていますけれど。」
「平民の従僕の衣装を着るとは誰も思わないのでしょう。ユーリ様からは何も？？」
「何もというわけではないですが、学園からあなたの成績を問い合わせているようですね。そういう話ばかりでしたよ。」
「…聞きたくなかった話題ですね。」
「優秀だと聞いております。土地を得たら婚姻してくださいね。」

　さらっと婚姻を織り交ぜてきた。

「しません。」
「領地運営しながら仕事をするのですか？？」
「ゔぇ…」
「直ぐにとはならないでしょうが、当然でしょう？そのための教育でもあるのですから。」
「嫌だぁ…」
「とりあえず婚姻だけしましょうか。土地を得たら。そうしたら領地運営は多少でほとんど私がしますから。」

　そうではなく・・・って言ってもダメなんだろうな。言い返そうとしたら紙を渡された。嫌だが開く。

「……イザーク様、どう見ても婚姻しないと命令して婚姻させるぞ。と、書いてるように見えるのですが。なんですか？この脅迫文。」
「主人としての勤めとか言っていましたね。長年の奉公に対する褒美ともおっしゃっていましたからね。長い物には巻かれろと言うでしょう。……望まぬ婚姻するくらいなら離縁して転がり込んだほうがマシなんですが、理想はキチンと婚姻をして領地運営を手伝いたいです。」
「…考えておきます。ちゃんと答えは出しますから。」

　ミカエラは脅迫文を返す。イザークは手紙を受け取り自分の懐にしまった。