42 / 51
7 魔王城の波乱。そして……
7 魔王城の波乱。そして…… ②
しおりを挟む
「……アレクセイ?」
そのドラゴンの背中には、人影が見えた。ミサキは思わず大きな声をあげその名を呼んだ。
「アレクセイ!」
この騒がしい中、そのミサキの声に気が付いたのか……アレクセイが乗っているドラゴンが降りてきた。その上には、ミサキの思った通りアレクセイが乗っている……頬には切り傷がついていて、そこから一筋の血が流れている。ミサキはアレクセイの傷に手を伸ばそうとするが……それよりも先に、アレクセイが声を張り上げた。
「お前、どうしてここに?! 部屋から出るなと言っただろう!」
「あの、その……」
その勢いに押され、ミサキはどんどん小さくなっていく。まさか、これからミハイルの部屋に行くつもりだったとは言い出せない剣幕だった。
「図られたか……」
「アレクセイ?」
「ミサキ、こっちに来い」
アレクセイはミサキの腕を掴み、そのままドラゴンの背中まで引き上げていく。腰を強く抱いて自らに引き寄せ、そのまま空に飛び立った。
「ったく……どうしてこんなことに」
「何かあったの……?」
「……ああ、お前にも関係ある話になるんだろうな。安全な場所に着いたら話す」
ドラゴンは大きく羽根を動かし、風を切って進んでいく。ミサキは思わず目を閉じて、アレクセイにぎゅっと抱きついた。アレクセイも優しく、ミサキを包み込むように抱きしめた。
そして、羽根の動きは急にゆっくりとなって……そのまま下に落ちていくような独特の浮遊感を感じ、ミサキは目を閉じた。
「ここ……」
いつか二人で来た天文台だ。見渡すと、あちらこちらでドラゴンが飛び交っている。
「一先ず、ここで落ち着こう。何かあればすぐに空に逃げられる」
「うん……」
「それで、ミサキ。お前、どうして外を出歩いてたりしていたんだ」
「それは、その、あの……」
「危険だから出るなと言ったよな、俺は。人の話を聞いていなかったのか?」
「あの、そういう訳じゃなくって……」
アレクセイの立場を守るために、ミハイルの元に向かったなんて言いにくい。ミサキが言葉を選んでいると、アレクセイは大きくため息をついた。
「いい、別に……お前のやることに、俺がいちいち口を出す権限はないのだからな」
「あの、アレクセイは?」
「ん?」
「怪我しているから……何かあったんでしょ?」
「……父上が倒れた」
「え……?」
アレクセイの父親には、まだ会ったことはない。知っている事と言えばただ一つ、この世界の『魔王』であるという事だけだ。
「命に別状はないらしいが……もう高齢だからな、いつ死んでもおかしくはない」
「そう、なんだ……」
「だからこそ、早く次の魔王が決まる必要がある」
その言葉を聞いて、ミサキは押し黙るほかなかった。それを決めることが出来るのはこの世界でただ一人、ミサキだけなのに……ミサキにはいつまで経ってもその役割を果たすことが出来ずにいた。
表情を曇らせるミサキを案じたのか、アレクセイは優しくミサキに声をかけた。
「別に、お前だけのせいではない。俺たちの相性というのもあるのだろう? ……しかし、俺が良くても、そう思わない連中はこの城に山ほどいるってわけだ」
アレクセイは頬にできた傷に触れた。血は止まっているが、見れば見る程痛々しい。
「……例えお前に子どもができないままでも、どちらかの王子が死ねば、自動的に生き残った方が魔王になれる。連中がそう騒ぎ出してもおかしくはない」
「まさか……」
自嘲するアレクセイの手を、ミサキは両の手できゅっと握る。その手は冷たく、そして……小さく震えていた。
「俺は大丈夫だ。そこらへんの刺客に殺されるほど、やわな鍛え方はしていない。俺が心配しているのは、お前だ」
「私?」
「ああ……俺も兄上も殺すことが出来ない、ならば……王の決定を遅らせる必要がある。そのために奴らが何をするのか、お前でも分かるだろう」
「私を、狙う?」
「そうだ。兄上に抱かれた後は俺の派閥に、俺に抱かれた後は兄上の手の者に……子どもを身籠らせないためだ、そう狙われてもおかしくはない」
「そんな……」
「だから、落ち着くまで出るなと言ったのに。どうしてあんな夜遅く、供も付けずに出歩いたりしたんだ」
「……それは、あなたをおびき寄せるためですわ。アレクセイ様」
真上から、切り裂くように鋭い女の声が響いた。二人は仰ぎみる、そしてその影の正体を確認した。
「……シャルロッテ、さん?」
ミサキの声は震えていた。その姿は、この世界に来てから最も優しくしてくれたシャルロッテそのものだったからだ。
「どうせ、今宵もミサキ様の元に来るつもりだったのでしょう? それなら……ミサキ様をもっとも安全な所に誘導して、あなたはミサキ様をだしに使って別の所におびき寄せる。それが、私たちの計画でしたから」
「ふん、それが失敗したから……ここで俺を消そうとしているってわけか」
「ご明察」
シャルロッテは、手に持っていた短刀を大きく振り上げる。その刃先には、血がついているようにも見えた。
「だめ!」
ミサキは、アレクセイの前に立ちはだかる。大きく腕を広げ、まるでアレクセイを守るように。
「おい、お前何してる!」
「……シャルロッテさん、お願い。考え直して!」
「ミサキ様……」
そのドラゴンの背中には、人影が見えた。ミサキは思わず大きな声をあげその名を呼んだ。
「アレクセイ!」
この騒がしい中、そのミサキの声に気が付いたのか……アレクセイが乗っているドラゴンが降りてきた。その上には、ミサキの思った通りアレクセイが乗っている……頬には切り傷がついていて、そこから一筋の血が流れている。ミサキはアレクセイの傷に手を伸ばそうとするが……それよりも先に、アレクセイが声を張り上げた。
「お前、どうしてここに?! 部屋から出るなと言っただろう!」
「あの、その……」
その勢いに押され、ミサキはどんどん小さくなっていく。まさか、これからミハイルの部屋に行くつもりだったとは言い出せない剣幕だった。
「図られたか……」
「アレクセイ?」
「ミサキ、こっちに来い」
アレクセイはミサキの腕を掴み、そのままドラゴンの背中まで引き上げていく。腰を強く抱いて自らに引き寄せ、そのまま空に飛び立った。
「ったく……どうしてこんなことに」
「何かあったの……?」
「……ああ、お前にも関係ある話になるんだろうな。安全な場所に着いたら話す」
ドラゴンは大きく羽根を動かし、風を切って進んでいく。ミサキは思わず目を閉じて、アレクセイにぎゅっと抱きついた。アレクセイも優しく、ミサキを包み込むように抱きしめた。
そして、羽根の動きは急にゆっくりとなって……そのまま下に落ちていくような独特の浮遊感を感じ、ミサキは目を閉じた。
「ここ……」
いつか二人で来た天文台だ。見渡すと、あちらこちらでドラゴンが飛び交っている。
「一先ず、ここで落ち着こう。何かあればすぐに空に逃げられる」
「うん……」
「それで、ミサキ。お前、どうして外を出歩いてたりしていたんだ」
「それは、その、あの……」
「危険だから出るなと言ったよな、俺は。人の話を聞いていなかったのか?」
「あの、そういう訳じゃなくって……」
アレクセイの立場を守るために、ミハイルの元に向かったなんて言いにくい。ミサキが言葉を選んでいると、アレクセイは大きくため息をついた。
「いい、別に……お前のやることに、俺がいちいち口を出す権限はないのだからな」
「あの、アレクセイは?」
「ん?」
「怪我しているから……何かあったんでしょ?」
「……父上が倒れた」
「え……?」
アレクセイの父親には、まだ会ったことはない。知っている事と言えばただ一つ、この世界の『魔王』であるという事だけだ。
「命に別状はないらしいが……もう高齢だからな、いつ死んでもおかしくはない」
「そう、なんだ……」
「だからこそ、早く次の魔王が決まる必要がある」
その言葉を聞いて、ミサキは押し黙るほかなかった。それを決めることが出来るのはこの世界でただ一人、ミサキだけなのに……ミサキにはいつまで経ってもその役割を果たすことが出来ずにいた。
表情を曇らせるミサキを案じたのか、アレクセイは優しくミサキに声をかけた。
「別に、お前だけのせいではない。俺たちの相性というのもあるのだろう? ……しかし、俺が良くても、そう思わない連中はこの城に山ほどいるってわけだ」
アレクセイは頬にできた傷に触れた。血は止まっているが、見れば見る程痛々しい。
「……例えお前に子どもができないままでも、どちらかの王子が死ねば、自動的に生き残った方が魔王になれる。連中がそう騒ぎ出してもおかしくはない」
「まさか……」
自嘲するアレクセイの手を、ミサキは両の手できゅっと握る。その手は冷たく、そして……小さく震えていた。
「俺は大丈夫だ。そこらへんの刺客に殺されるほど、やわな鍛え方はしていない。俺が心配しているのは、お前だ」
「私?」
「ああ……俺も兄上も殺すことが出来ない、ならば……王の決定を遅らせる必要がある。そのために奴らが何をするのか、お前でも分かるだろう」
「私を、狙う?」
「そうだ。兄上に抱かれた後は俺の派閥に、俺に抱かれた後は兄上の手の者に……子どもを身籠らせないためだ、そう狙われてもおかしくはない」
「そんな……」
「だから、落ち着くまで出るなと言ったのに。どうしてあんな夜遅く、供も付けずに出歩いたりしたんだ」
「……それは、あなたをおびき寄せるためですわ。アレクセイ様」
真上から、切り裂くように鋭い女の声が響いた。二人は仰ぎみる、そしてその影の正体を確認した。
「……シャルロッテ、さん?」
ミサキの声は震えていた。その姿は、この世界に来てから最も優しくしてくれたシャルロッテそのものだったからだ。
「どうせ、今宵もミサキ様の元に来るつもりだったのでしょう? それなら……ミサキ様をもっとも安全な所に誘導して、あなたはミサキ様をだしに使って別の所におびき寄せる。それが、私たちの計画でしたから」
「ふん、それが失敗したから……ここで俺を消そうとしているってわけか」
「ご明察」
シャルロッテは、手に持っていた短刀を大きく振り上げる。その刃先には、血がついているようにも見えた。
「だめ!」
ミサキは、アレクセイの前に立ちはだかる。大きく腕を広げ、まるでアレクセイを守るように。
「おい、お前何してる!」
「……シャルロッテさん、お願い。考え直して!」
「ミサキ様……」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる