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3話
3話 ③
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「まあ、結構前の事だし、覚えてなくても仕方ないかな。二年前にさ、二人でクラブのイベントに行ったのは覚えてる? 確か、ハロウィンイベント」
琴音さんはまっすぐ私を見つめる。その視線が、私の記憶の蓋をゆっくりと開けて行った。
二年前の十月、私は琴音さんに誘われるまま、仕事帰りにクラブに遊びに行った。琴音さんが今イチオシだというDJが参加するというハロウィンイベント。クラブの中はごった返していて、はしゃぐ琴音さんから目を話すと、あっという間に離れてしまいそうだった。お酒を飲んでいた私はどうしてもトイレに行きたくなって、琴音さんにそれを告げようとした。でも、音楽の音量がとても大きくて、会話をするものままならない。それに、琴音さんはDJに夢中で私の話に耳を傾けることもなかった。私は諦めて、お手洗いに向かった。
(……やっぱり慣れないなぁ、クラブって)
琴音さんに連れられて何度か遊びに来ているけれど、この大音量の音楽と人混みに慣れることはなさそう。私はため息をつきながらトイレに向かい、用を足して手を洗っていると、とある違和感に気づいた。
先ほどまでガンガンと鳴り響いていた音楽が消えていて、人々の囁くような喧騒が聞こえてきたからだ。
(……何かあったのかな?)
フロアからお手洗いの通路には、何やら怯えている表情の人が多くなっている。私はそれを掻き分けて、琴音さんのいるダンスフロアに向かう。
先ほどまであんなに人がいたダンスフロアの真ん中は大きな空洞が出来上がっていた。怯えている人々の間からそこを覗き込むと、唇から血を流した男の人と、数人がかりで押さえつけられている男の人が見えた。男性はその流れる血はそのままに、キッと取り押さえられている男の人を睨みつける。
それはまるで、獲物を狙う獰猛な獣そのものだった。
流れる血がポタリと落ちていく。それが合図のように、取り押さえられていた男の人は引きずられるように連れていかれていく。フロアにはホッと一安心したような空気が流れ始め、再び音楽が鳴り、固まっていた人たちはゆっくりと動き出していた。
あの男性は、血を流したまま壁にもたれかかる。そして、瞳の色を暗くさせて、長くため息をついていた。私はその鮮やかな赤色に引き寄せられたのか、少しずつ彼に近づく。
「……あの」
思い返せば、大胆な事をしたものだと思う。見ず知らずの、明らかに【カタギ】ではない人に声をかけるなんて。でも私の体は動きを止めることなく、ポケットの中からハンカチを取り出していた。
「これ、どうぞ」
彼は小首をかしげる。私が唇辺りを指さすと、指先でそっと傷に触れていた。彼の指先が鮮血で染まる。
「血、出てるので。良かったら使ってください」
「……悪いな」
そして彼は困ったように笑みを浮かべ、私の手からハンカチを抜き、そのまま早足でクラブの出口に向かっていった。私が呆然と立ち尽くしていると、誰かが私の背中を強く叩く。
「莉乃! 良かった、どこに行ったのかと……」
「琴音さん!?」
「今日はもう帰ろうか。物騒だし、何か白けちゃった」
私はそれに頷く。クラブを出た時、あの男性の姿はどこにもなかった
「……全く、あんたも何してるんだか。あの人、何者なのか分かってんの?」
「いいえ、知らないです……」
「でしょうね! もう、知らない人に話しかけたらダメだからね! 危険なオトコなんてこの世界には山ほどいるんだから」
琴音さんはまっすぐ私を見つめる。その視線が、私の記憶の蓋をゆっくりと開けて行った。
二年前の十月、私は琴音さんに誘われるまま、仕事帰りにクラブに遊びに行った。琴音さんが今イチオシだというDJが参加するというハロウィンイベント。クラブの中はごった返していて、はしゃぐ琴音さんから目を話すと、あっという間に離れてしまいそうだった。お酒を飲んでいた私はどうしてもトイレに行きたくなって、琴音さんにそれを告げようとした。でも、音楽の音量がとても大きくて、会話をするものままならない。それに、琴音さんはDJに夢中で私の話に耳を傾けることもなかった。私は諦めて、お手洗いに向かった。
(……やっぱり慣れないなぁ、クラブって)
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(……何かあったのかな?)
フロアからお手洗いの通路には、何やら怯えている表情の人が多くなっている。私はそれを掻き分けて、琴音さんのいるダンスフロアに向かう。
先ほどまであんなに人がいたダンスフロアの真ん中は大きな空洞が出来上がっていた。怯えている人々の間からそこを覗き込むと、唇から血を流した男の人と、数人がかりで押さえつけられている男の人が見えた。男性はその流れる血はそのままに、キッと取り押さえられている男の人を睨みつける。
それはまるで、獲物を狙う獰猛な獣そのものだった。
流れる血がポタリと落ちていく。それが合図のように、取り押さえられていた男の人は引きずられるように連れていかれていく。フロアにはホッと一安心したような空気が流れ始め、再び音楽が鳴り、固まっていた人たちはゆっくりと動き出していた。
あの男性は、血を流したまま壁にもたれかかる。そして、瞳の色を暗くさせて、長くため息をついていた。私はその鮮やかな赤色に引き寄せられたのか、少しずつ彼に近づく。
「……あの」
思い返せば、大胆な事をしたものだと思う。見ず知らずの、明らかに【カタギ】ではない人に声をかけるなんて。でも私の体は動きを止めることなく、ポケットの中からハンカチを取り出していた。
「これ、どうぞ」
彼は小首をかしげる。私が唇辺りを指さすと、指先でそっと傷に触れていた。彼の指先が鮮血で染まる。
「血、出てるので。良かったら使ってください」
「……悪いな」
そして彼は困ったように笑みを浮かべ、私の手からハンカチを抜き、そのまま早足でクラブの出口に向かっていった。私が呆然と立ち尽くしていると、誰かが私の背中を強く叩く。
「莉乃! 良かった、どこに行ったのかと……」
「琴音さん!?」
「今日はもう帰ろうか。物騒だし、何か白けちゃった」
私はそれに頷く。クラブを出た時、あの男性の姿はどこにもなかった
「……全く、あんたも何してるんだか。あの人、何者なのか分かってんの?」
「いいえ、知らないです……」
「でしょうね! もう、知らない人に話しかけたらダメだからね! 危険なオトコなんてこの世界には山ほどいるんだから」
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