16 / 35
3話
3話 ③
「まあ、結構前の事だし、覚えてなくても仕方ないかな。二年前にさ、二人でクラブのイベントに行ったのは覚えてる? 確か、ハロウィンイベント」
琴音さんはまっすぐ私を見つめる。その視線が、私の記憶の蓋をゆっくりと開けて行った。
二年前の十月、私は琴音さんに誘われるまま、仕事帰りにクラブに遊びに行った。琴音さんが今イチオシだというDJが参加するというハロウィンイベント。クラブの中はごった返していて、はしゃぐ琴音さんから目を話すと、あっという間に離れてしまいそうだった。お酒を飲んでいた私はどうしてもトイレに行きたくなって、琴音さんにそれを告げようとした。でも、音楽の音量がとても大きくて、会話をするものままならない。それに、琴音さんはDJに夢中で私の話に耳を傾けることもなかった。私は諦めて、お手洗いに向かった。
(……やっぱり慣れないなぁ、クラブって)
琴音さんに連れられて何度か遊びに来ているけれど、この大音量の音楽と人混みに慣れることはなさそう。私はため息をつきながらトイレに向かい、用を足して手を洗っていると、とある違和感に気づいた。
先ほどまでガンガンと鳴り響いていた音楽が消えていて、人々の囁くような喧騒が聞こえてきたからだ。
(……何かあったのかな?)
フロアからお手洗いの通路には、何やら怯えている表情の人が多くなっている。私はそれを掻き分けて、琴音さんのいるダンスフロアに向かう。
先ほどまであんなに人がいたダンスフロアの真ん中は大きな空洞が出来上がっていた。怯えている人々の間からそこを覗き込むと、唇から血を流した男の人と、数人がかりで押さえつけられている男の人が見えた。男性はその流れる血はそのままに、キッと取り押さえられている男の人を睨みつける。
それはまるで、獲物を狙う獰猛な獣そのものだった。
流れる血がポタリと落ちていく。それが合図のように、取り押さえられていた男の人は引きずられるように連れていかれていく。フロアにはホッと一安心したような空気が流れ始め、再び音楽が鳴り、固まっていた人たちはゆっくりと動き出していた。
あの男性は、血を流したまま壁にもたれかかる。そして、瞳の色を暗くさせて、長くため息をついていた。私はその鮮やかな赤色に引き寄せられたのか、少しずつ彼に近づく。
「……あの」
思い返せば、大胆な事をしたものだと思う。見ず知らずの、明らかに【カタギ】ではない人に声をかけるなんて。でも私の体は動きを止めることなく、ポケットの中からハンカチを取り出していた。
「これ、どうぞ」
彼は小首をかしげる。私が唇辺りを指さすと、指先でそっと傷に触れていた。彼の指先が鮮血で染まる。
「血、出てるので。良かったら使ってください」
「……悪いな」
そして彼は困ったように笑みを浮かべ、私の手からハンカチを抜き、そのまま早足でクラブの出口に向かっていった。私が呆然と立ち尽くしていると、誰かが私の背中を強く叩く。
「莉乃! 良かった、どこに行ったのかと……」
「琴音さん!?」
「今日はもう帰ろうか。物騒だし、何か白けちゃった」
私はそれに頷く。クラブを出た時、あの男性の姿はどこにもなかった
「……全く、あんたも何してるんだか。あの人、何者なのか分かってんの?」
「いいえ、知らないです……」
「でしょうね! もう、知らない人に話しかけたらダメだからね! 危険なオトコなんてこの世界には山ほどいるんだから」
琴音さんはまっすぐ私を見つめる。その視線が、私の記憶の蓋をゆっくりと開けて行った。
二年前の十月、私は琴音さんに誘われるまま、仕事帰りにクラブに遊びに行った。琴音さんが今イチオシだというDJが参加するというハロウィンイベント。クラブの中はごった返していて、はしゃぐ琴音さんから目を話すと、あっという間に離れてしまいそうだった。お酒を飲んでいた私はどうしてもトイレに行きたくなって、琴音さんにそれを告げようとした。でも、音楽の音量がとても大きくて、会話をするものままならない。それに、琴音さんはDJに夢中で私の話に耳を傾けることもなかった。私は諦めて、お手洗いに向かった。
(……やっぱり慣れないなぁ、クラブって)
琴音さんに連れられて何度か遊びに来ているけれど、この大音量の音楽と人混みに慣れることはなさそう。私はため息をつきながらトイレに向かい、用を足して手を洗っていると、とある違和感に気づいた。
先ほどまでガンガンと鳴り響いていた音楽が消えていて、人々の囁くような喧騒が聞こえてきたからだ。
(……何かあったのかな?)
フロアからお手洗いの通路には、何やら怯えている表情の人が多くなっている。私はそれを掻き分けて、琴音さんのいるダンスフロアに向かう。
先ほどまであんなに人がいたダンスフロアの真ん中は大きな空洞が出来上がっていた。怯えている人々の間からそこを覗き込むと、唇から血を流した男の人と、数人がかりで押さえつけられている男の人が見えた。男性はその流れる血はそのままに、キッと取り押さえられている男の人を睨みつける。
それはまるで、獲物を狙う獰猛な獣そのものだった。
流れる血がポタリと落ちていく。それが合図のように、取り押さえられていた男の人は引きずられるように連れていかれていく。フロアにはホッと一安心したような空気が流れ始め、再び音楽が鳴り、固まっていた人たちはゆっくりと動き出していた。
あの男性は、血を流したまま壁にもたれかかる。そして、瞳の色を暗くさせて、長くため息をついていた。私はその鮮やかな赤色に引き寄せられたのか、少しずつ彼に近づく。
「……あの」
思い返せば、大胆な事をしたものだと思う。見ず知らずの、明らかに【カタギ】ではない人に声をかけるなんて。でも私の体は動きを止めることなく、ポケットの中からハンカチを取り出していた。
「これ、どうぞ」
彼は小首をかしげる。私が唇辺りを指さすと、指先でそっと傷に触れていた。彼の指先が鮮血で染まる。
「血、出てるので。良かったら使ってください」
「……悪いな」
そして彼は困ったように笑みを浮かべ、私の手からハンカチを抜き、そのまま早足でクラブの出口に向かっていった。私が呆然と立ち尽くしていると、誰かが私の背中を強く叩く。
「莉乃! 良かった、どこに行ったのかと……」
「琴音さん!?」
「今日はもう帰ろうか。物騒だし、何か白けちゃった」
私はそれに頷く。クラブを出た時、あの男性の姿はどこにもなかった
「……全く、あんたも何してるんだか。あの人、何者なのか分かってんの?」
「いいえ、知らないです……」
「でしょうね! もう、知らない人に話しかけたらダメだからね! 危険なオトコなんてこの世界には山ほどいるんだから」
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。