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第ニ章
影の獣
しおりを挟むミルタという行商人をハウスキットの中に招き入れた。内装に驚いている彼に、ドーナが声を掛ける。
「ん?あんたミルタじゃないか。」
「おぉ!!ドーナさんではないですか。」
どうやら二人は顔見知りのようだ。
「知り合いか?」
「ギルドのお得意様ってやつでね、何回も依頼をもらってたんだよ。」
なるほどな、そういうことだったか。
「んで、こんな時間にこんなところでなにしてんだい?」
「いやはや、強い魔物に襲われましてな。馬車は壊され、護衛には逃げられました。」
「ん~?この辺にそんなに強い魔物なんていなかったはずだけどねぇ。」
「はい、私もそう存じておりました。ですがあれは間違いなくシャドウタイガーでした。」
「なっ!?シャドウタイガーだって!?」
シャドウタイガー?魔物図鑑を引っ張りだしパラパラとページをめくる。
……こいつか。
災害指定魔物 シャドウタイガー
・影を操る魔法を使う。
・発見された場合金級以上の冒険者5名以上で対処にあたること。
・死の軍勢と共に現れたという報告あり。
ふむ、影を操るか……厄介そうな魔物だな。
図鑑を眺めながらそう思っていると、ハウスキットの外から嫌な感じの殺気を感じた。
「…………噂をすればか。」
多分、ミルタさんが後をつけられていたのだろう。
俺は一人立ち上がると、ドアに手をかけた。
「みんな、外に出るなよ?」
そう言い残して、ドアを開けた次の瞬間だった。
「ッ!!」
先程まで俺の首があった位置でガチンという音が聞こえた。
とっさにしゃがんだため怪我はない。
「ふぅ、危ない。」
音もない奇襲……しかも急所の首を狙ってくるか。恐らくは普段の狩りの方法も、こんな感じなのだろうな。
「姿が見えないな。足音も聞こえない。」
こういう暗闇での戦闘はあの時を思い出すな。
合気柔術の修行では目隠しをして組手をすることがある。
視界を封じることによって、自分の間合いの意識を引き上げる訓練なのだ。
「さて、どこから来る。」
構えを変え、左手を前にだし右手を完全に脱力させる。そして最後に目を閉じる……。
視覚を捨て、他の感覚を尖らせる。すると暗闇の中に1つの禍々しい気配を感じとることができた。
「後ろか。」
迫ってくる気配に左手を当て、迫り来る軌道をそらす。そして、脱力状態からの急加速による最速の拳を叩き込んだ。
「ギャウゥ!?」
「逃がさん。」
空中で体を回転させ、体勢を立て直そうとしている所に追い討ちをかける。
顎部分に手を当て、回転のエネルギーと俺のエネルギーをプラスして地面に頭を叩きつける。
「逆落としっ!!」
地面に叩きつけるとゴギャン!!と骨が折れる音が聞こえる。
いまので決まりだ。
少しの間ピクピクと動いていたシャドウタイガーだったが……すぐに動かなくなった。
周囲の安全を確認していると、コツン……と爪先に何かが当たった。
「ん?これは宝玉か、しまっておこう。」
またしても宝玉がドロップしてしまった。コレの使い道も後で考えよう。
周囲に危険がないことを改めてしっかりと確認した後、俺はハウスキットの中へと戻るのだった。
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