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第三章 終焉を呼ぶ七大天使
第232話 霧の旅館と鎌鼬の女将
しおりを挟む由良に手を引かれながら霧に包まれた朱色の橋を渡るルア。
「すごい霧……。」
「わしの手をしっかり握っておるのだぞ?」
「うん。」
そしてゆっくりと橋を渡っていたルアだったが、ふとあることを疑問に思う。
(あれ?こんなに長い橋……なのかな?)
ルアが疑問に思うのも当然で、歩けど歩けど橋の終わりがこない。
そんな風にルアが疑問に思っていると……
「ふふふ、もう少しで見えてきますよ。」
「ふぇっ!?だ、誰!?」
おっとりとした口調で聞こえてきた声は、ルアが知っている誰でもない何者かの声だった。
「これはこれは、失礼しました……。」
誰とも知れない声の人物がそう言うと、突然一瞬にしてバッ……と周囲を覆っていた霧が晴れ、握っていた手の先に由良ではない女の人がルアの手を握って立っていた。
「私はこちらの旅館の女将を務めております。鎌鼬の寧々と申します。」
「え、あ……えぇっ!?」
大人しい色の着物に身を包んだ女性は鎌鼬の寧々と名乗り、彼女の背後には自然に溶け込むようにして古風な旅館が建っていた。
「お、お母さんたちは!?それにみんなはどこに!?」
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。皆様方はお先に当旅館の方でおもてなしを受けていただいておりますから。」
旅館の女将を名乗った鎌鼬の寧々という女性はそう言うとルアを旅館の中へと誘うべく手を優しく引いた。
「え、で、でも……。」
「あなた様のお母さまから、あなた様には極上のおもてなしを……と申し遣っておりますので。あなた様にはこれから当旅館で受けられるおもてなしの中で、最も極楽と言われているおもてなしを…………。」
「それは単に貴様が楽しみたいだけだろう……がっ!!」
「あいたぁっ!?」
妖艶に微笑みながらルアの手を引いていた寧々という女性の頭に、どこからか突然現れた東雲が拳骨を落とした。
それと同時に、ルアの視界に映っていた景色が、まるでヒビが入って崩れ落ちるガラスのように崩れ落ち、今度ルアの目の前には東雲たちと頭にたんこぶを作ってうずくまっている寧々の姿があった。皆の立っている先にはルアが目にしていた古風の旅館が建っている。
「まったく、相も変わらず油断ならないやつだなお前というやつは。」
「あはははは~……久方ぶりに可愛い子が来たものですから、ついつい。って、それよりも、東雲さん生きていらっしゃったんですね?風邪の噂で天使に殺されてしまったと聞き及んでおりましたが……どうやらあの噂は眉唾物だったようですね。」
どうやら東雲の知り合いらしい彼女は、東雲が天使に殺されたという噂は知っていたらしい。その噂話は事実であるが、彼女の物言いに東雲はクスリと笑う。
「妾が天使如きに殺されるはずなかろう?逆に仕留めてやったのだ。しかも天使の中でも上位の存在を……な。」
「さすがは東雲さんですね。」
東雲の言葉を疑うことなく彼女は信じたようだ。実際、一度殺されて生き返りラグエルを打ち倒した……というなんとも現実味がない話をしても受け入れ難いだろう。
「さぁ、妾達がここに来た目的はもちろん察しているだろう?さっさと部屋に案内しろ。無論一番良い部屋しか認めんぞ?」
「もちろんです。最高のお部屋をご用意させていただきますよ。というか、来るお客様がいないので、常に最高のお部屋しかご用意できないんですけどね。」
「そこも昔から変わらずだな。客をもっと入れたいのなら、もっと世にここの存在を広めればよいだろう?」
「それはできないんですよ~。そこは東雲さんもわかってらっしゃるでしょう?」
「くくく、まぁな。」
「それでは皆様、お部屋の方にご案内させていただきますので……どうぞ中へお入りください。」
そして一行は彼女に迎え入れられるがまま旅館の中へと入っていくのだった。
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