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第一章 龍の料理人

第37話

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 そしてカミルの力に続き、ヴェルの風の力もなんとか制御できるようになった私は再び書庫を訪れていた。夢の中で邂逅したあの女神エルザについて調べるために……。

「さて……まずは探すところから始めないといけないんだな。」

 この膨大な量の本の中からあの一冊の本を探すのは骨が折れそうだが、やるしかない。なにせ情報を得る手段がそれしかないからな。

「ま、今日はもうカミルに料理も作ったしやることも特にない。時間はたっぷりとある。じっくり探そう。」

 題名は確か……ってカミルが言ってたよな。題名からして件のエルザっていう女神の他に二人女神がいるのか?まぁ、それも含めてその本を読んでみればわかることだ。

 私は見落とさないように本棚に並べてある本を一冊ずつ確認して回る。もちろん本棚に入りきらなくて重ねてある本も全て確認し、三人の女神様という本を探す。

 いろんな種族の言葉で書かれている本をたくさん眺めて頭がこんがらがってきた頃……ようやく。

「あっ……た。これだ。」

 本棚の一番端にそれはあった。本の背表紙には魔族の言葉で『三人の女神様』と書いてある。
 厚さはかなり薄い……簡単に読めてしまいそうだ。

「さて……早速読ませてもらおうか。」

 椅子に腰掛け本を開く……。

『遥か昔、アルフィニアには三人の美しい女神様がいた。生と死を司る女神エルザ様、理を司る女神セレーネ様、そして愛を司る女神レラ様。
 三人の女神様はある時まで協力してアルフィニアの平穏を保っていたのだが……ある時、愛を司る女神レラ様が下界の人間に恋をした。彼女は他の二人の女神様の反対を押し切り、下界の人間と結ばれた。やがて二人の間には特別な力を持った子供が産まれる。その子供を人々はと呼んだ。

 そして勇者によってアルフィニアの種の均衡が崩れてしまう。と、危ぶんだ理を司る女神セレーネ様は、女神レラ様が産んだ勇者に対抗するために、人間と対を成す種の魔族の子供に自分の力を分け与えた。その子供は後々魔族を統率し、勇者と対を成すとなる。

 これが最初の勇者と魔王の誕生であり、長きに渡る人間と魔族との争いの始まりだった。

 天界に残された生と死を司る女神エルザ様は二人の女神が争いを納め、戻ってくることを願っていることだろう。それかもしくは……自分の代わりに二人の女神様を連れ戻す役割を担える者を探しているのかもしれない。

 真意はまさに女神のみぞ知る。』

 その言葉を最後に本は終わっている。

「…………おおかた女神エルザっていうのがどんな存在なのかはわかった。が、このおとぎ話は真実なのか?それとも本当にただのおとぎ話なのか?」

 だが私は確かに女神エルザに……いや、でもあれは意識を失っていた時の夢の中のことだ。

 結局何も確証は得られなかったか。

 チラリと視界に入ったか本の最後の文章に、私はため息を隠せなかった。

。とは、本当に良く言ったものだ。」

 もし、仮にもう一度夢の中であの女神エルザに会えるのなら……何か確証を得られるのかもしれないな。
 だが、会いに行く方法が現実的ではないことに私は頭を悩ませた。

「また会いに行くとしたら、今わかっているやり方は一つだけ……カミルやヴェルのような強いドラゴンの生き血を取り込むこと。」

 いくらなんでも難易度がベリーハード過ぎる。どうしたものか……。

「何かまた別な方法でもあればこんなに頭を悩ます必要もないんだがな。」

 しかしながら、今のところそんな方法はわからない。

「だが、この本で確証は得られなかったが……一つの可能性は見いだせた。」

 それは、私をこの世界に呼んだ張本人が女神エルザという可能性だ。今のところ最有力候補だろう。まぁ、もしあの夢の中の出来事が本当だったらの話だがな。

 仮に女神エルザが本当に存在しているとして……私を呼んだ目的は何だ?この本に書いてある通りなら、他の二人の女神を連れ戻させることが目的なのか?もしそうだとしても、そんな重要なことをただの一般人の私に頼むか?

 …………。ダメだいくら考えてもわからない。考えれば考えるほど、次から次へと疑問が沸き上がってくる。

「止めだ。今は取りあえず私をこの世界に呼んだ人物の候補を見つけれただけ良しとしよう。」

 ふぅ……と一つ大きな息を吐き出し椅子に深く腰掛けると、突然書庫の大きな木製の扉がバン!!と音をたてて勢い良く開いた。

「ん?」

「ミノル!!ちょっと話があるわ!!」

 勢い良く扉を開けて入ってきたのはヴェルだった。どうやら私に話があるようで、ずんずんと大股で私の方に近づいてくる。

「は、話?」

「えぇ!!カミルから聞いたわよ!!」

 は……え?な、何を聞いたんだ?突然詰め寄ってきたヴェルに驚いていると……。

「サクサクの甘~いお菓子っ私にも作りなさいよ!!」

 彼女は私をビシッと指差しながら言った。思いもしなかった言葉に固まっていると、ヴェルの背中からひょっこりとカミルが顔を出す。

「ミノル!!もちろん妾にも作るんじゃぞ?」

 ……なるほど。おおかた状況が理解できたぞ。おそらく私が本を読んでいる間、カミルはヴェルにクッキーの事を話した。それを羨んだヴェルがここに突っ込んできたと……。

 そういうことなら話は早い。

「了解した。でもクッキーは昨日作ったから……今日はまた違うのを作るよ。」

「何を作ってくれるのかしら?」

「ぷるっぷるでとろっとろのお菓子だ。」

「「ぷるっぷるでとろっとろ?」」

 声を合わせ、二人は首をかしげる。

「まっ、出来てからのお楽しみってことで一つ……な?」

 パタン……と本を閉じ私は、書庫を後にして厨房へと向かう。さぁ、カミルとヴェルを虜にする物を作ってやろう。
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