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第一章 龍の料理人

第60話

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 ……さて、どうしてこうなってしまったのだろうか。

 というのも、今私は魔王の城の厨房に立たされているのだ。そして私のとなりでは魔王専属の料理人がこちらを睨み付けている。
 更に私の後ろでは魔王とシグルド、カミル、そしてヴェルが観客兼審査員として待機していた。

 そう、状況から察することができると思うが……あの後魔王に専属の料理人とをすることになってしまったのだ。
 ことの発端と言えば私のあの言葉。

。」

「それじゃあ君なら……これより美味しい料理を作れるってことかな??」

「自分の実力を過信しているわけではありませんが……間違いなくと呼べるものは提供できるかと。」

「じゃあ……決まりだねっ。」

 パン!!と魔王が部屋の中に響き渡るように手を叩くと、魔王の影から執事のシグルドが姿を現した。

「シグルド、今からこのカミル達の従者ミノルとボクの専属の料理人ダスティのを始めるから準備してくれる?」

「仰せのままに。」

 シグルドが魔王に向かってペコリと御辞儀をすると、彼は再び闇に溶けるように消えていった。
 それを満足そうに見送った魔王に私は問いかけた。

……というのはどういうことですか?」

「ふふふっ、いいかい?君は恐れ多くもボクの料理人が作った料理を料理じゃない……と言った。それはつまり……と受け取ったよ?」

「ッ!!ま、魔王様っみ、ミノルは決してそのような……」

 焦ったようにカミルが私の弁明をしようとするが……。

「カミルは黙ってて。大丈夫、もし君が本当にダスティよりも美味しい料理を作れたら……この無礼は無かったことにしてあげる。ただし、そんだけ大見得を切っておいてダスティに負けたら……どうなるかはわかってるよね?」

 ただし……と口にした瞬間に魔王からどす黒い何かが溢れだし、私の肌を撫でる。凍るように冷たいそれは、私に一瞬で死を悟らせた。
 魔王から放たれたそれに死を予感していると、再び魔王の影からシグルドが現れた。

「失礼致します魔王様。」

「ん、準備できた?」

「はい。」

 一瞬シグルドに視線を向け、大きく頷いた魔王は再び私に視線を向けて言った。

「さぁ、準備ができたみたいだから勝負の会場に行こっか?あぁ!!もちろんカミル達も一緒にね?カミル達にはボクとシグルドと一緒に審査員として参加してもらうから。」

「「……っわかりました。」」











 そんな一連の流れを経て今に至る……というわけだ。

 今の今までの一連の流れを思いだしながらも、私はインベントリからコックコートを取り出し、着替えた。やはりこれを着ると気合いが入る。いくら魔王の前だろうが、強制的に……な。
 きゅっと前掛けを締めコックコートに着替え終えると、私のことを睨み付けていたダスティ……という名の魔王の料理人が口を開いた。

「へっ、カミル様の料理人だかなんだか知らねぇが……流れの野郎になんざ負けるわけねぇな。」

「…………。」

 口が減らないヤツだな。こういうやつほど腕がないのに自信家なんだよな。
 こういうやつの挑発的な口車に乗るよりかは、無視していた方が余程効果的だ。

 私が黙っているのをいいことに散々煽り散らして来るダスティをひたすらに無視し続けていると、ようやく魔王が口を開いた。

「それじゃあ二人とも、ここにある食材と調味料はぜ~んぶ使っていいから……ボクを満足させる物を作ってね?」

「お任せくだせぇ!!」

 意気揚々と魔王に返事するダスティの傍らで私はコクリと小さく頷いた。

「それじゃあ料理勝負~始め~ッ!!」

「おっしゃあ!!」

 魔王の勝負開始の号令と共にダスティは動き始めた。食材を吟味し使用するものをかき集めている。

 ……さて、私はまず設備の確認からさせてもらおうか。初めて来た現場ではまずこれから始めないと話にならない。

 ダスティが早速調理に移っている最中私は一人厨房の中を歩き回り、設備の確認を始めた。そんな私の姿を見た魔王達審査員の方から声が聞こえる。

「あれ?ミノル君まだ料理始めてないけど……大丈夫かな?」

「あわわわわわ……み、ミノル何をしておるのじゃ~……。」

 不安そうな声が審査員の間で飛び交う中、ようやく私はここの調理設備の確認を終えた。

「…………なるほどな。」

 設備的にはカミルの城の厨房とほとんど変わらない。だから普通に料理ができる環境なのだが……一つ問題がある。その問題はどの設備にも共通していることだった。

「とにかく汚いな。」

 オーブンの中は滴った脂でギトギトだし、火口の周りも焦げや飛び散った何かの炭が至るところに転がっている。
 こんな環境で料理を作るなんて言語道断……これはまず掃除から始めねばなるまい。この厨房全部を掃除するとなったら丸一日かかるだろうから、取りあえず自分が使うところだけでも……。
 そう思っていたとき、ふと私の頭にある考えが浮かんできた。

 汚れってできないのか?

 ふと思い付いた考えを試してみるために私は汚れている場所に手をかざし、口ずさむ。

「抽出……。」

 そう、口ずさむと調理設備に飛び散っていた脂や焦げ、炭などの汚れが吸い寄せられるように私の目の前に集まり、どす黒い球体になった。
 そして汚れを抽出された調理設備は新品同様に光り輝いている。

「なっ……何だぁ!?」

 突然周りが綺麗になったことにダスティは驚き、調理の手を止めた。

「何って……この厨房に溜まっていた汚れをしただけだ。こんな汚いところで料理なんてできないからな。」

 まさか本当に抽出できるなんて思ってなかったけどな。案外この抽出の魔法は融通が効くらしい。

 集まった汚れを風の力を使ってゴミ箱に放り込む。風の扱いにもだいぶ慣れてきた。

「さて……始めるか。」

 いろいろやっていたから、だいぶ遅れをとったが……勝負はこれからだ。
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