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第二章 平和の使者

第133話

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「じゃあミノル、後は任せたよ~。」

「あぁ、任せてもらおう。」

 アベルはポンと私の肩を叩き、この場を私に一任してくれた。

「良し……それじゃあ始めようか。」

「なっ、何をするでありんすか?」

 私はジュンコの目の前の椅子に座る。何が始まるのか予想がつかない彼女は少しビクついている。

「今から簡単な質問を幾つかする。それに全部答えることができたら……」

「できたら……何でありんすか?」

 私はインベントリから、ここに来る前に作ったきつねうどんを取り出した。

「ほあっ!?」

 それを見たジュンコは忙しなく耳と尻尾を動かし始めた。口元からは今にも涎が机にポタリ……と垂れそうになっている。

「全部答えられたら、こいつを食べていいぞ?ただ……もし、答えるのに手間取っていると……時間が経つにつれてこいつはどんどん美味しさを失っていくからな。気を付けるように。」

「うぅ~っ!!なっ、なら早く質問を始めるでありんす!!」

 彼女の眼中には、もう目の前に置いてあるきつねうどんしかない。
 なんだか、この光景は昔の警察の取り調べのような雰囲気だな。あのよくあるカツ丼を犯人の前に置くやつ。それと今の状況はとても似ている。

 さて、あんまり焦らしても料理が美味しくなくなる一方だからな。早いとこ質問を始めようか。

「では、一つ目の質問だ。人間の国王と直接交流するのであればどうすればいい?」

「……今は無理でありんす。」

「無理?どうしてだ?」

「今、人間の国は国王代理のシルヴェスターってやつが牛耳ってるでありんす。国王は勇者が現れた時から行方が分からなくなっているでありんす。」

 ほぅ?それはそれは……なかなか裏がありそうな話だな。勇者が現れたと同時に国王が姿を消した……そして今人間の国を牛耳ってるのは代理のシルヴェスターか。
 今回アベルに返答を返したのもそいつだったな。

「そうか、なら次の質問だ。人間はずいぶん積極的に攻め入ってくるが……なぜ勇者という存在を投入しない?アベルが最前線で戦ってるのはわかってるはずだろ?」

「それは……勇者が、シルヴェスターに監禁されているからでありんす。」

「は!?嘘でしょ!?」

 バン!!と机に手をついて、思わずアベルは席を立ち上がった。

「アベル、動揺するのもわかるが……一先ず落ち着け。先にまず詳しいことを聞かないと。」

「あ……ご、ゴメン。」

「で?何でまた勇者はシルヴェスターに監禁されてるんだ?」

「嘘か本当かはわからないでありんすが、勇者がアベル殿と同じく血生臭い戦いをしたくないと駄々をこねたから……って。」

「ほぅ?」

「へぇ?」

 それを聞いた瞬間に私とアベルはお互いに顔を見合わせた。

「これは……確かめてみる必要がありそうだねミノル?」

「あぁ、これは確かめないといけないな。」

 アベルと私が考えていることは、どうやらガッチリと噛み合ったらしい。
 二人して笑みを浮かべていると、ポツンと一人置き去りにされてしまっているジュンコが……。

「うぅ~!!もう質問はいいでありんすか!?早く食べさせてほしいでありんす~!!」

 激しく尻尾をブンブンと振り乱しながらジュンコは言った。もう我慢の限界のようだ。

「じゃあ最後に……人間の国の地図をくれ。」

「後で持ってこさせるでありんす!!だから早くあちきにそれを食べさせてほしいでありんす!!」

「言質はとった、よしもう食べてもいいぞ。」

「やったでありんす~!!で、ではでは早速……ズズッ……ズズズッ……。」

 飛び付くようにきつねうどんを食べ始めたジュンコは勢い良くうどんをすすり始めた。

「ん~~~っ!!美味しいでありんす!!久しぶりの美味しい料理でありんす~!!」

 すごい勢いでジュンコがうどんを啜るなか、私とアベルは件の勇者のことについて話し合う。

「まさか勇者が監禁されてるなんてね~。」

「嘘か本当かは分からないらしいがな。……でも確かめてみる価値はありそうだ。」

「もし本当に勇者が戦いを望んでないのであれば……こっち側に引きずり込めるかもしれないからね。」

 人間側の最大の戦力である勇者という存在をこちら側に取り込むことができれば……アベルの思想の実現に一気に王手をかけることができるだろう。

 ただ、一つ問題なのは……

「真実を確認するには……どちらにせよ人間の国に行かないといけないな。」

「それが問題だね~。」

「アベルの魔法で飛んで行けたりしないのか?」

「ちょ~っと無理かな~……一回行ったことがある場所なら問題なく行けるんだけど。行ったことがない場所に向かって転移するとどこに飛ぶのかボクでもわかんないや。」

 ふむ、なるほど……。じゃあ考え方を少し変えてみよう。

「例えばだが……座標を指定して飛ぶことはできないのか?」

「やったことない。」

「なら試してみる価値はありそうだな。アベル、この世界の全体の地図って持ってるよな?」

「うん、あるよ?」

「じゃあ帰ったらちょっとそれを練習してみよう。」

「そうだね。」

 座標で飛べるようになれば今後なにかと役に立つだろう。一先ず帰ったらアベルのその練習に付き合ってやらないといけなさそうだ。
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