たいして好みでは無い、と言われたので婚約解消した令嬢は、伯爵様と交渉する。

らりささ

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5.仕事編

18.ルーシ

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「“騎士団の慣例”の説明をする前に、ひとつだけ弁明させてくれませんか?」
アスラン様がすがるような目で言った。
「もちろん!大丈夫です」
私は夢見心地だった。
そんな私の様子を見たアスラン様は、少しホッとしたようだった。

「ルシンダに縁談を申し込んだ時、僕は、本当にローレンとあなたの婚約が解消されていると思っていたんです。だから…その、故意ではないというか」
「でも、そもそもどうしてアスラン様は、私とローレンの婚約が解消されていたと思っていらっしゃったのですか?」
「そ、それは…その…立ち聞きしていたんですよ。あの夜会の日に、あなた達の会話を…」
アスラン様が恥ずかしそうに言った。
「え?!あれ、見られてたんですか?!」
「僕は人目を避けて、テラスの影になるところで休んでいたんですよ。夜会が面倒くさくなってしまって。そしたら、ルシンダとローレンがやってきて、僕に気づかないまま、婚約解消の話をローレンが切り出したんです」
「やだ…あんな醜態を…」
「だから、てっきり、あなたはフリーだと思っていたのですよ。そう、決して奪うとかそういうつもりではなかったのです…」
アスラン様が、シュンとなった。

「もう、いいんですよ。私は、結果的に良かったと思っているんです。反対に、ありがとうございました!」
「ええ?!」
アスラン様にとっては、想定外であろう。
 
私とローレンは、完全なる家同士の都合による婚約だった。
だから、私にとっては、相手がローレンからアスラン様に代わったというだけのことであった。
しかも、アスラン様はとても優しく、魅力的な方である。それだけで、私はラッキーだったと思えるのだ。

 その上、こんなに美形…
 役得すぎるでしょ。

「それよりも、“騎士団の慣例”ってなんなんですか?」
私は、そちらよりこちらのほうに興味が強かった。
あのライト様の強気な姿勢。ただ事とは思えない。
「あの方、ライト様は、一体どういうおつもりであんなこと言われたのでしょうか?」
私には理解し難いことばかりだった。

「“己の欲するものを自らの力で掴め”というのは、騎士団での地位のことだけではなく、ほぼ横恋慕のことをいうんですよ。騎士団は昔から、そういう色恋に自分達の力比べを兼ねていたんです。だから、まともな騎士は、絶対に婚約者や意中のひとを騎士団の元に連れてくることはありません」
「…!!?」
「初耳でしょ?世間に知られている騎士団のことなんて、ほんの一握りの情報だし、印象操作もされていますしね。大したものじゃないんですよ、王立騎士団なんて」
「えーーー!そ、そんなぁ…」
私は半泣きになった。

あんなに、心動かされた騎士団の話が眉唾ものだったとは…

「あ、ごめんね。ルシンダの夢を壊す気は全然なかったんですけど…」
アスラン様は、困ってしまわれた。

「じゃぁ、ライト様のあの態度は?横恋慕ってことですか?…え?まさか!?…私に!?」
「わぁ…気づいていなかったんですね…さすがというか…」
アスラン様が呆れている。
「いや、気づかないですよ。信じられない。全くの他人なのに…」
「(ライト、ある意味、可哀想なやつ…)」
アスラン様は苦笑いだった。

「ねぇ、ライトとは前から顔見知りではなかったの?いくら横恋慕を騎士団が黙認すると言っても、既婚者に手を出すものはそうそういないんですよね」
突然、アスラン様が真顔になった。
「いや、先日、サウザンムーンで出会ったのが初めてだと思うんですけど。あ!あの時、アスラン様はあの方がサザーン侯爵家のライト様だって分かってたんですか?!」
「ええ、まぁ」
「教えてくださいよ!私、あんな態度とってしまって、たぶん、その仕返しですよ!」
「しかし、ライトの方はそんな感じではなかったですけどね?あなたのこと“ルーシ”と呼んだじゃないですか?あれはどういう意味ですか?」
アスラン様が、じっと私の目を見た。

そうなのだ。

私を“ルーシ”と呼んだ男性。いや、男の子と言うべきか。
それは、おおよそ5年ほど前に一度出会っただけのひとだ。
なんならついさっきまで、私は彼のことをすっかり忘れていたのだ。
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