ツクモ!〜俺以外は剣とか魔法とかツクモとかいう異能力で戦ってるけど、それでも拳で戦う〜

コガイ

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第二章 異次元の魔術師

英雄の敵

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 リルと善明を家の中に残したルディアとソフィ。その二人は外で『客』を出迎える。待っていた客は三人だった。

「久しぶりね、ルディア」
「ええ、久しぶり……なんていう呑気な挨拶、私もしたかったわ。そんな殺気混じりの魔力を向けなければね」
「あら、ごめんあそばせ」

 先に挨拶をしたのは客の内の一人、三人の真ん中にいる女性であった。妖美な雰囲気と大人の色気を醸し出しており、ソフィと同じ金髪を腰まで揺らす。そして、普通の人よりも少し長く尖った耳は人外の物か。
 背は女性にしては高く、ルディアやソフィはもちろん、リル、さらには善明以上か。さらに、黒いドレスと三角帽子が彼女を古典的な魔法使いだと物語る。

「さあ、あなた達も挨拶して」
「はい。メティス様」
「なんでアチキが……」

 彼女が挨拶を促したのは残りの二人。

「久しぶりだな、ルディア。といってもメティス様とは違って三ヶ月前に会っているが」
「そうね、前はに来たわね。カリュ」

 一人は背の高い女性。カリュと呼ばれた彼女は、メティスと呼ばれた黒い女性と同じくらいの身長を持っており、武人らしい立ち振る舞いや強い志を持つような顔つきなどは、メティスとは違うベクトルで魅力があると言えるだろう。
 また、光に反射して輝く銀髪や犬のような耳と尻尾を持ち、和服をベースに動きやすさを重視して改良されたような衣装は、まさに武闘家そのものだ。

「……」
「ピテーコス、お前も挨拶をしろ。メティス様の顔に泥を塗るつもりか」

 残りのもう一人、不機嫌そうに顔を逸らす少女は再度挨拶を促される。
 大きな猿耳と中華風の服、それに茶色のツンツンで短めな髪が特徴の彼女は、ルディアやソフィ達と同じぐらいの背丈で、メティスら二人と比べると二回りほど小さく見え、まるで格下のように見える。
 美しいというよりは可愛らしい感じの顔立ちで、威圧感が全くない。

「うるさいカリューオン! メティス様にちょっと気に入られたからって調子に乗りやがって!」
「私は命令通りにしているだけだ。お前もそうすれば良いだろう?」
「ぐぬぬ……」
「そもそもお前の方こそ……」
「はいはい、二人とも。喧嘩はそこまでよ」
「う、申し訳ありません……」
「す、すみませんでした……」

 カリューオンとピテーコスと呼ばれる二人を制し、メティスは再びルディアとソフィへと目を向ける。
 喧嘩していた二人はまだ不満げであったが、メティスの言葉のみで口を止め命令にすんなり従う。おそらく、関係性としては主人と従者のようだ。

「ごめんなさいね、見苦しいところ見せちゃって」
「そこの二人は相変わらずのようね」
「ええ。ひっきりなしに互いに吹っかけるのよ」

 メティスと名乗った彼女はただ微笑む。そこに悩み事なと一切なく、余裕の風格を表す。

「ところで自己紹介は必要かしら? 直接会うのは初めての人もいるみたいですけど?」
「必要はないぜ、『異次元の魔術師アドヴァ・ウィザード』さん。お前の噂は耳にタコができるくらいからな」

 不敵にソフィは笑ってみせる。別に愉快なわけではない。彼女はメティスの事をよく知っており、その内では確かに恐怖が渦巻いている。
 だが、そうそれはエンプトが見せた笑顔に近い。あの追い詰められた時の氷の魔人の表情に。

「あら、これは野暮でしたわね。腐っても彼の子ですもの。自己紹介は不要だと判断するべきでした。……と言ってもどちらにせよ後でする事になるかしら」
「メティス、前置きはいいからさっさと用件を言いなさい。先に言っておくけど、エンプトの事はカリュに全て話した。それ以上の事は知らない」
「今回はそんな事じゃないわ。話ももうついたし。
 ……そうね、そろそろ本題に入りましょうか」

 メティスが一呼吸をする。その瞬間にルディア達を取り囲む空気が張り詰める。ピリピリなどという生やさしい擬音ではない。肌をごうごうと焼かれているかのような重圧プレッシャー、それが彼女らを容赦なく襲い掛かる。

 メティスの表情が一変しただけで、その場が豹変する。それを可能としているのは彼女の目か。先ほどまでの微笑みは消え、体を突き刺すかのような表情でルディア達を見つめる。

 ——だが、敵意がない事にルディアは違和感を感じていた。

「ここに男が一人いるはずです。その男を出しなさい」

 圧倒的な迫力、ルディアはそれに耐え、辛うじて口だけでも動かす。

「……いない、わ。ここにアンタの目的の『男』はいない」
「へぇ、三ヶ月前に貴方達が戦ったエンプト雪鬼は『二人の少女と一人の少年をもってして倒された』なんて言っていたけれど、あれは嘘だったのかしら?」
「さあ? 少なくとも私があいつと戦ったとき、ソフィこいつ以外はいなかった」

 息苦しいこの状況で、真実を伝えることさえも気圧されてできないかもしれなかったというのに、ルディアはあえて嘘をつく。
 嘘だとバレてしまった場合、どうなってしまうか。しかし、それを踏まえた上で下した彼女の判断だ。

「そう。なら、そこの貴方……ソフィアネストだったかしら?」
「っ……!」

 話しかけられたソフィは肩をびくっとさせ、驚く。緊張されたこの空間でまさか自身に話が振られると思わなかったからか、それともその名が出たからか。

「……ああ、そうだけど?」

 声を震わせながらも、なんとか応える彼女。しかし、先ほどの軽々しい口調は抑えれ、ただ質疑応答をするだけの機械と化してしまう。

「貴方もその場にいたのでしょう? ならば答えられるはずよ。三ヶ月前、エンプトとルディア以外にも誰かいたのかしら?」
「それは……」

 だが、その質問にソフィは一瞬考える。
 正直に答えれば、からすればソフィは殺されないだろう。だが、それをルディアが許すかどうか。しかし、言わないならばは起こらない。
『男』の命運自体はソフィからすれば、どうなろうとも構わないが……

「知らないな。三ヶ月前のことなんて忘れた」

 悩んだ末、彼女が出した答えは嘘をつくことだ。
 しかし、これはルディアのついた嘘とは種類が違う。『男』を助けるためではなく、どうにも転ぶ嘘だ。これでは彼女の証言があてにならない。

「そう、ならしょうがないかしら」

 その一言にルディアは安堵のため息を無意識に漏らす。このまま帰ってくれるだろうと、そう思ったからだ。
 だが、現実は非情だ。

「家の中にいるか、確認させてもらってもいいわよね?」

 心臓を掴まれたかのような衝撃、それをルディアは身をもって体感する。背筋を流れる汗は明確に感じられ、気持ち息も荒くなってきたか。
 しかし、『まだ慌てるな』『勝手に期待していただけ』『はかけてある』などと自身を落ち着かせるような言葉を並べる。

「ルディア、少し顔色悪いわよ? 大丈夫、私は疑ってなんかいないわ。ただ念の為よ」
「……そう。いくらでも調べても構わないわ」

 平常心を取り戻しながらも、彼女は祈る。バレないようにと、彼がメティスの目に触れないようにと。
 だが、それとは別にメティスに関して怪しいとルディアは感じている。直感ではあるけれども、彼女は諭すような言葉を口にしながらも全てを見透かしいるような気がした。

「ならばメティス様、私たちにお任せください」
「だからカリューオン! そういうでしゃばるところが……!」
「ピティ、これ以上場を乱さないで。そんなに暴れたいのなら後で……ね?」
「ひっ……」

 その一瞥でピテーコスは氷のように固まる。先ほどのような謝罪の言葉すら出てこない。
 冷たい目線、そして『後で』の内容、それは彼女にとっての恐怖トラウマか。

「……でもまあ、今回はピティの言う通りになるかしら」

 メティスは腕をそっと前に伸ばし、それと同時にルディアとソフィの斜め上前方に何か黒い物体が現れる。形は円盤状で直径八十センチほどだろうか。
 それが何であるかをソフィが考えていたその次に

「なっ……!」
「うわっ! ……いっつつ」

 その円盤状の物体から人が落ちてくる。しかも、その人をよくよく見れば、先ほどまで話題となっていたではないか。

「ふふっ、やはりここにいましたね」

 最初から居場所が分かっていたような物言いに、ルディアは戦慄する。
 本当に最初からなのか、それとも何処かのタイミングで知ったのか。どちらにせよ、メティスの話し方を思い出してみると手のひらを踊らされたようだった。
 彼女はする。やはり、目の前にいる魔法使いは底が知れないと。

「アンタ、いつから分かってたの?」
「さあ、いつからかしら? けど、私が十年間貴方を見守ってきたのは確かよ。だから、嘘も簡単に見破れるかもしれないわね」
「その十年間で私はあなたのこと、一切理解できなかったけど」

 苦し紛れに悪態をついてみるものの、メティスの思考は一切分からずじまいだ。掴み所のない喋り方、場を作り出すような覇気、そしてリルを一瞬にして移動させたあの能力。どれをとっても厄介がすぎる物だらけだ。

「さて、そこの貴方」
「俺、か……?」

 呼び掛けられたリルは、まだ状況を読み込めていない中でメティスへと目線を釘付けにされる。
 家の中から外へ出され、更には見知らぬ者が三人がおり、しかも周りは緊迫の雰囲気となっている。この状況ではうろたえてしまうのが当然ではあるが、彼は何故か落ち着いていた。エンプトと目を合わせたときは恐怖におののいていたが、今は違う。
 初対面ではあるが、彼女とは話し合いでなんとかなるのではないのかと、そう思えた。

「確かリルーフ・ルフェン、だったかしら?」
「あ、ああ。そうだが、なんで俺の名前を?」
「三ヶ月前、ここにやってきた魔物から聞きました。
 さて、まずは自己紹介をさせていただきましょう。私の名はメティス・アドヴァ・ウィザード、世間では『異次元の魔術師』とも呼ばれています」

 丁寧でそれでいて上品な佇まい。さきほどまで緊張感を作り出していた人物とはとうてい思えない。

「そこのルディアとは……まあ、知り合いと言えばいいのかしら」
「ルディア、本当なのか?」
「ええ。彼女、両親とは友人だったの。その繋がりでね。
 あいつ、基本的には良い奴だけれど……言ってる事は信用できないわ」

 良い奴で信用できない。その二つの特徴が両立する事に疑問を持つリル。しかし、今重要なのはそこではない。
 ルディアはメティスから目を逸らさず、ずっと視界に捉え続けている。しかも、その顔には敵意が見える。そこで、彼はこの状況が普通ではないということに気づき始める。

「ついでに言っておくと、十六年前の英雄サマでもあるぜ」
「英雄⁉︎なんでそんな人が……」
「さあな、こっちが聞きたいくらいだ。お前、記憶を失う前に何かやらかしたんじゃないか?」

 ソフィの補足から衝撃の情報が出てくる。英雄と呼ばれるまでの人が自身を狙う目的、それはまるでリルが世界の敵だと言わんばかりだ。

「こっちの二人はカリューオンとピテーコス、私の使い魔よ」
「はじめまして、リルーフ・ルフェン。メティス様に紹介を預からせてもらったカリューオン・ファアドヴァだ」
「ふん、ピテーコス・ファアドヴァ。名乗るだけ名乗ってやる」

 二人は対極の挨拶をする。片方は懇切丁寧に、もう片方は嫌々仕方なしに。
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