27 / 35
君が望まぬとも、我は君を望むだろう
君は素晴らしいよ
しおりを挟む
神である弥彦が優斗に放った言葉は、優斗の妹達の生殺与奪に関する脅しにしか聞こえないものである。
優斗は声にならない悲鳴を上げた。
我らは優斗の為に動けなくなった。
みきとゆきのために。
それは妹思いの優斗が呪文のように唱える口癖なのだ。
「まって!俺はどこにも行きません!だから、待って!」
「いやだ!」
優斗を制止するべく大声を上げたのは、我でも日高でもなく、すぐりだった。
黒い翼を畳んだ彼は、変化しかけた鴉天狗の装束も打ち消した。
彼は優斗が選んで買ったらしい派手な色合いの安っぽい生地の服装に戻ると、人間の子供がするようにして優斗の首に両腕を巻き付けてしがみ付き直した。
「母さんがいなくなるのは嫌だ。母さんはオレはみきとゆきと同じだいった。母さんはみきとゆきを選ぶの?だったらオレが消える。オレは母さんがいないのは嫌だ!選んで貰えないのは嫌だ!」
今度は我と日高こそ言葉にならない叫びをあげていた。
お前こそ何を言い出すんだ!と。
しかし、そこで優斗こそが笑い出した。
やけっぱちとしか思えない、優斗が出すとは考えもしなかった笑い声だ。
彼の笑い声に唖然としたのは我も日高も同じであるが、優斗は動けなくなった日高の後ろから日高を押しのけるようにして前に出て来たではないか。
それから彼は、自分の持っていた紙袋を日高に押し付けたのである。
優斗の振る舞いに驚きながらも反射的に紙袋を受け取った日高であるが、彼は優斗を抑えようと紙袋から外した左腕を優斗に伸ばした。そこで彼の動きが止まったのは、空手になった優斗が自分の背中のすぐりを自分の胸に抱き直したからである。
すぐりが叫んだ言葉の証明のようにして、優斗がすぐりを抱く姿は母親像そのものといえる姿だった。
そしてすぐりを抱く優斗は、押しつぶされた被害者の顔などしていなかった。
それどころか凛とした佇まいで顎を上げ、彼への脅迫者となった神を見返していたのである。
「優斗よ、覚悟は決まったのか?」
「覚悟?あなたの望みは俺がこの地に留まることだ。俺はこの地に留まっても外に出るように周囲に応援されるでしょう。東京にある大学に行くようにと。あなたはそんな俺の応援者達全ての生活を破壊するおつもりですか?」
「邪魔をするならば。」
「では、俺はその期間だけ身を隠します。誰にも東京へ進学する事を薦められなくなった時期になったら戻ってきます。よろしいですね?」
「だが、お前は。」
「他県に旅行も出来ない奴隷なのか!俺は!」
弥彦は目を丸くして優斗を見返し、我と日高はそこで吹き出した。
神を怒鳴りつけたとは、さすが我等が吾子。
それだけでも我ら天狗の尊敬に値するのに、優斗はさらに偉そうにして神に対して言葉を続けるではないか。
「俺はこの大事な子供の家に行きます。ちゃんと戻ってきますから、俺が戻って来てもちゃんと生活できるように、俺の家族への庇護をお願いします。ってか、てめえがぶち壊した俺の家族の生活、ちゃんと修正しとけや!」
優斗は最後の怒鳴り声の後、右手を伸ばして日高の左腕を掴んだ。
我は今こそだと、三人を妖力で掴むや我が地に引っ張りこんだ。
大笑いをしながら。
我だけでは無いだろう。
ボロボロの日高も、優斗の腕の中のすぐりも、笑い声を上げていた。
神様に命令してしまった人間など、優斗がきっと初めてだろう。
「君は凄いな。素晴らしいよ。」
我は優斗を抱きしめていた。
腕の中の優斗は今更の脅えで震えているからと、我は彼を宥めるつもりで彼の額に口づけた。口づけてしまっていた。
優斗は声にならない悲鳴を上げた。
我らは優斗の為に動けなくなった。
みきとゆきのために。
それは妹思いの優斗が呪文のように唱える口癖なのだ。
「まって!俺はどこにも行きません!だから、待って!」
「いやだ!」
優斗を制止するべく大声を上げたのは、我でも日高でもなく、すぐりだった。
黒い翼を畳んだ彼は、変化しかけた鴉天狗の装束も打ち消した。
彼は優斗が選んで買ったらしい派手な色合いの安っぽい生地の服装に戻ると、人間の子供がするようにして優斗の首に両腕を巻き付けてしがみ付き直した。
「母さんがいなくなるのは嫌だ。母さんはオレはみきとゆきと同じだいった。母さんはみきとゆきを選ぶの?だったらオレが消える。オレは母さんがいないのは嫌だ!選んで貰えないのは嫌だ!」
今度は我と日高こそ言葉にならない叫びをあげていた。
お前こそ何を言い出すんだ!と。
しかし、そこで優斗こそが笑い出した。
やけっぱちとしか思えない、優斗が出すとは考えもしなかった笑い声だ。
彼の笑い声に唖然としたのは我も日高も同じであるが、優斗は動けなくなった日高の後ろから日高を押しのけるようにして前に出て来たではないか。
それから彼は、自分の持っていた紙袋を日高に押し付けたのである。
優斗の振る舞いに驚きながらも反射的に紙袋を受け取った日高であるが、彼は優斗を抑えようと紙袋から外した左腕を優斗に伸ばした。そこで彼の動きが止まったのは、空手になった優斗が自分の背中のすぐりを自分の胸に抱き直したからである。
すぐりが叫んだ言葉の証明のようにして、優斗がすぐりを抱く姿は母親像そのものといえる姿だった。
そしてすぐりを抱く優斗は、押しつぶされた被害者の顔などしていなかった。
それどころか凛とした佇まいで顎を上げ、彼への脅迫者となった神を見返していたのである。
「優斗よ、覚悟は決まったのか?」
「覚悟?あなたの望みは俺がこの地に留まることだ。俺はこの地に留まっても外に出るように周囲に応援されるでしょう。東京にある大学に行くようにと。あなたはそんな俺の応援者達全ての生活を破壊するおつもりですか?」
「邪魔をするならば。」
「では、俺はその期間だけ身を隠します。誰にも東京へ進学する事を薦められなくなった時期になったら戻ってきます。よろしいですね?」
「だが、お前は。」
「他県に旅行も出来ない奴隷なのか!俺は!」
弥彦は目を丸くして優斗を見返し、我と日高はそこで吹き出した。
神を怒鳴りつけたとは、さすが我等が吾子。
それだけでも我ら天狗の尊敬に値するのに、優斗はさらに偉そうにして神に対して言葉を続けるではないか。
「俺はこの大事な子供の家に行きます。ちゃんと戻ってきますから、俺が戻って来てもちゃんと生活できるように、俺の家族への庇護をお願いします。ってか、てめえがぶち壊した俺の家族の生活、ちゃんと修正しとけや!」
優斗は最後の怒鳴り声の後、右手を伸ばして日高の左腕を掴んだ。
我は今こそだと、三人を妖力で掴むや我が地に引っ張りこんだ。
大笑いをしながら。
我だけでは無いだろう。
ボロボロの日高も、優斗の腕の中のすぐりも、笑い声を上げていた。
神様に命令してしまった人間など、優斗がきっと初めてだろう。
「君は凄いな。素晴らしいよ。」
我は優斗を抱きしめていた。
腕の中の優斗は今更の脅えで震えているからと、我は彼を宥めるつもりで彼の額に口づけた。口づけてしまっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
15
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる