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君が望まぬとも、我は君を望むだろう
いい人だと君は言う
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我の口づけを受けた優斗は我の腕の中でびくりと震え、小さな喘ぎ声を出した。
我は優斗の頬に手を当てて、顔を上向かせて、……そこで右腕に痛みを受けた。
我の右腕は日高の拳を受けたのである。
「鬼のように小狡い事する前に、吾らをお主の家に連れて行こうや。吾はボロボロやないの。吾の介抱をするのがまず先やろ。」
「ああ、助けていただいたのに!すいません。大丈夫ですか!」
「ひだか~!いたい~?」
我の腕から優斗が飛び出した。
その瞬間、我を残して三人だけで我の家へと勝手に消えた、とは。
すぐりは父親である我が何でもできると思っているのかもしれないが、たまには移動術に我も一緒と組み込んで欲しいものだ。
「すぐり、移動術は自分以外に対しては掴まなきゃ移動できないものでもないんだよ。教えなかった我も悪いが、いや、教えてもっと気軽に移動されても困るか。」
我は大きく溜息を吐くと、自分の家へと一人寂しく移動した。
移動しながら、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。
そうであろう?
初めて口づけた優斗の額は赤ん坊のような肌の質感で、我の腕の中で震えた優斗は、脅えではなく我の唇の感触に刺激を受けたという体の反応だったのだ。
更なる先に進みたいと望む我では、優斗の危険にしかならないではないか。
「あの、平埜さん。すごく俺の為にご迷惑をかけているみたいで、あの。」
自宅に戻ってすぐ、優斗の方から我の方へと話しかけてきた。
しかし、優斗の両手には水が入ったタライが抱えられており、そのタライが意味する事は優斗が日高の看病をしようとしている状況だということである。
「我に迷惑など無い。日高の具合は悪いのか?」
「えっと、あの、こちらに戻ってすぐにお怪我も治られたのですけど、あの、人間みたいに看病を受けてみたいっておっしゃられて。ふふ、面白い方ですね。俺を助けてくれたのは、俺が彼の子供だからって。ほんと、屋久島の白谷雲水狭を守る天狗様って聞いて、本当にその通りの方だなって。素敵な方ですよね。」
我は、そうだな、と答えていた。
そうだ、我と日高は全く違うのだと。
優斗の煌く瞳は語っているじゃないか。
ひと目で日高の素晴らしさを知りました、と。
「あれは世慣れている。我のように押し付けがましくなどないし、自分本位ではないからな。ああ、素晴らしい男だよ。」
「平埜さんは押しつけがましくなど無いですよ。自分本位?そんなこと一度だって思った事はありません。あの、すごく、いい人だって、俺は、ずっと。」
我は優斗の左肩に右手を乗せていた。
普通の男性、それも年上の男が年下の男にするだけの行為のようにして。
我の手の平は優斗の温かな肩の感触を感じて胸にジンと来るものがあったが、優斗が我に望むのが「いい人」でしかないのならば、我は己が恋心など押し殺して踏み留まらねばならないのだ。
「日高の看病を頼むな。我儘を言い過ぎの時は教えてくれ。」
はい、と答えた優斗から我は手を剥がせなくなった。
彼は我の顔を見上げて答えたのではなく、頬を赤らめさせたはにかんだ表情で顔を俯けての返事なのである。
我に言われるまでもなく、優斗は献身的に日高に尽くすだろう。
さあ、失恋したならば愛する者から手を離すのだ。
愛したとしても、彼は我が地に留めておけない神に愛された人ではないか。
神に愛されるからこそ、優斗は無防備で我には残酷な存在となれるのだろうか。
翌日の早朝、我は眠れなかった頭をはっきりさせようと洗面室に向い、そこで下履きを洗おうとしていた優斗とかち合ってしまったのである。
寝起きの寝ぐせのある乱れた髪に白地に紺模様のある浴衣姿の彼はしどけないどころではなく、優斗を襲いたい自分の性欲を抑えるだけで必死となった我は、これは優斗による自分への何かの罰か悪戯なのかと訝しんだほどだ。
すぐに我の不徳、いいや、我のその場限りしか考えない鈍い脳みそのせいだと思い直し、不埒な気持ちを追い出すために自分の顔を叩く様にして拭った。
優斗の為の洗濯機は、我こそが我の部屋に近い洗面室に設置したのだ。
少しでも優斗との接点を増やすために。
「君も早いな。」
「起こしてしまったようで、すいません。」
優斗の声は友好的どころか他人行儀すぎる固いものだった。
我が自分本位に不機嫌な声を出したばかりに!
そこで我は優斗に取り直そうと一歩近づき、優斗が我から一歩下がる振る舞いをした事で、ようやく鈍い我でも気が付いたのである。
我とかち合った事で真っ赤になってしまった優斗が持つ下履き、まだ洗い終わったわけではない下履きの状態から、なぜ彼が下洗いをしていたのか、を。
彼は健康で若い男性だったのだ。
我は優斗の頬に手を当てて、顔を上向かせて、……そこで右腕に痛みを受けた。
我の右腕は日高の拳を受けたのである。
「鬼のように小狡い事する前に、吾らをお主の家に連れて行こうや。吾はボロボロやないの。吾の介抱をするのがまず先やろ。」
「ああ、助けていただいたのに!すいません。大丈夫ですか!」
「ひだか~!いたい~?」
我の腕から優斗が飛び出した。
その瞬間、我を残して三人だけで我の家へと勝手に消えた、とは。
すぐりは父親である我が何でもできると思っているのかもしれないが、たまには移動術に我も一緒と組み込んで欲しいものだ。
「すぐり、移動術は自分以外に対しては掴まなきゃ移動できないものでもないんだよ。教えなかった我も悪いが、いや、教えてもっと気軽に移動されても困るか。」
我は大きく溜息を吐くと、自分の家へと一人寂しく移動した。
移動しながら、これで良かったのだと自分に言い聞かせた。
そうであろう?
初めて口づけた優斗の額は赤ん坊のような肌の質感で、我の腕の中で震えた優斗は、脅えではなく我の唇の感触に刺激を受けたという体の反応だったのだ。
更なる先に進みたいと望む我では、優斗の危険にしかならないではないか。
「あの、平埜さん。すごく俺の為にご迷惑をかけているみたいで、あの。」
自宅に戻ってすぐ、優斗の方から我の方へと話しかけてきた。
しかし、優斗の両手には水が入ったタライが抱えられており、そのタライが意味する事は優斗が日高の看病をしようとしている状況だということである。
「我に迷惑など無い。日高の具合は悪いのか?」
「えっと、あの、こちらに戻ってすぐにお怪我も治られたのですけど、あの、人間みたいに看病を受けてみたいっておっしゃられて。ふふ、面白い方ですね。俺を助けてくれたのは、俺が彼の子供だからって。ほんと、屋久島の白谷雲水狭を守る天狗様って聞いて、本当にその通りの方だなって。素敵な方ですよね。」
我は、そうだな、と答えていた。
そうだ、我と日高は全く違うのだと。
優斗の煌く瞳は語っているじゃないか。
ひと目で日高の素晴らしさを知りました、と。
「あれは世慣れている。我のように押し付けがましくなどないし、自分本位ではないからな。ああ、素晴らしい男だよ。」
「平埜さんは押しつけがましくなど無いですよ。自分本位?そんなこと一度だって思った事はありません。あの、すごく、いい人だって、俺は、ずっと。」
我は優斗の左肩に右手を乗せていた。
普通の男性、それも年上の男が年下の男にするだけの行為のようにして。
我の手の平は優斗の温かな肩の感触を感じて胸にジンと来るものがあったが、優斗が我に望むのが「いい人」でしかないのならば、我は己が恋心など押し殺して踏み留まらねばならないのだ。
「日高の看病を頼むな。我儘を言い過ぎの時は教えてくれ。」
はい、と答えた優斗から我は手を剥がせなくなった。
彼は我の顔を見上げて答えたのではなく、頬を赤らめさせたはにかんだ表情で顔を俯けての返事なのである。
我に言われるまでもなく、優斗は献身的に日高に尽くすだろう。
さあ、失恋したならば愛する者から手を離すのだ。
愛したとしても、彼は我が地に留めておけない神に愛された人ではないか。
神に愛されるからこそ、優斗は無防備で我には残酷な存在となれるのだろうか。
翌日の早朝、我は眠れなかった頭をはっきりさせようと洗面室に向い、そこで下履きを洗おうとしていた優斗とかち合ってしまったのである。
寝起きの寝ぐせのある乱れた髪に白地に紺模様のある浴衣姿の彼はしどけないどころではなく、優斗を襲いたい自分の性欲を抑えるだけで必死となった我は、これは優斗による自分への何かの罰か悪戯なのかと訝しんだほどだ。
すぐに我の不徳、いいや、我のその場限りしか考えない鈍い脳みそのせいだと思い直し、不埒な気持ちを追い出すために自分の顔を叩く様にして拭った。
優斗の為の洗濯機は、我こそが我の部屋に近い洗面室に設置したのだ。
少しでも優斗との接点を増やすために。
「君も早いな。」
「起こしてしまったようで、すいません。」
優斗の声は友好的どころか他人行儀すぎる固いものだった。
我が自分本位に不機嫌な声を出したばかりに!
そこで我は優斗に取り直そうと一歩近づき、優斗が我から一歩下がる振る舞いをした事で、ようやく鈍い我でも気が付いたのである。
我とかち合った事で真っ赤になってしまった優斗が持つ下履き、まだ洗い終わったわけではない下履きの状態から、なぜ彼が下洗いをしていたのか、を。
彼は健康で若い男性だったのだ。
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