我らが行くはガチャポンな戦場

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オレンジは嫌い

リンリンと女子高生とほんまもんの怪人様

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「いいから!真後ろにリンリンがいらっしゃいましたわよ!」

 もぞっと俺の真後ろに存在感という圧力が押し寄せた。
 俺こそ犬のようにびくっとすると、地面を蹴って宙へと飛び上がり、そのままベルトの制御装置のスイッチを入れた。
 空中で半回転に体を捩じって着地した時には、俺の姿はぬるんとした質感の恥ずかしいオレンジ色の全身タイツな姿で、殆どやけくそ気味にヒーロー風のポーズだけは取った。

 この恥ずかしい格好で、やあこんにちは、と普通に登場したら、単なる変な人にしか受け取られないのだ。
 ヒーローは、無駄にハイテンションであってこそ。

「ぎゅわああああん。」

 犬は変な雄たけびを上げると、再び俺に向かって両腕を広げた。
 俺はその腕に入り、ぬいぐるみの首元を掴んで腰をかがめ、そのまま自分の身体を跳ね上げた。
 ぬいぐるみ怪人の身体は宙に舞い、そのまま地面に落ち、ずうううんと地響きを近隣に伝わるぐらいに響かせた。

「っしゃ!背負い一本!」

 よし止めだと、地面に転がる怪人に踵落としを見舞おうとしたその時、俺は真後ろに引っ張られた。
 片足一本立った所に、美々霧という怪人様の腕力だ。
 俺は情けない片足一本持ち上げた格好のまま仰向けに転がった。
 ふわっと黒髪が広がり、真っ黒な瞳が俺を見下ろした。

「殺しては駄目ですわ。中身は単なる女子高生です。どうしてか怪人化なさいましたけど。ええと、まあ、とにかく、縛っちゃって。」

「どうして途中で素に戻る?」

「お嬢様ごっこしている場合じゃないって。いいから縛っちゃって。そんで、こっちの女の子達は私が説教するから。」

「?」

 美々霧は俺にかがんでいた上半身をひょいと元に戻すと、俺が辿り着く前に痛めつけていた少女達へと向いた。
 少女達は、おや、なんと、顔が爛れてパンパンに腫れていた。

 視線をグランドの上に向ければ,薄茶色の大群の虫たちが帯のようになってグルグルと渦巻きを空に作っている。
 恐るべし、毒蛾様。
 その気になればお仲間様を呼べるのだ。
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