我らが行くはガチャポンな戦場

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オレンジは嫌い

人権と大人の事情

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 リンリンには制御プラグなど無かった。
 あるわけ無いのだ。

「探し方が悪いんじゃないの?確かに毛むくじゃらで見つけ辛いのかも、だけどね。でもね、この子が十六歳の女の子で全裸な姿、と考えたらあなたの好物でしょう!ぶよんぶよんな私にだって触れるあなたよ、頑張って。」

 美々霧は俺の耳に囁いた。
 子供達は校内に戻っており俺達二人しか、いや、しくしく泣いているプードル型怪人の三人なのだが、とりあえず美々霧が怪人だという事はトップシークレットでもある。
 ただし、美々霧の囁きの内容には俺はカッチーンときた。

「君は俺を誤解しているね。でもって、DNAを弄って変化させている怪人に、制御プラグなんてあるわけ無いでしょう!」

「声が大きい!でもね、だって、私はあなたに腰の部分を探られて制御プラグにUSBみたいなのを差し込まれたじゃないの!」

「あ。」

 俺はそこでしまったと額に手をやった。
 強制的隷属装置、何処でもスイッチ(※正式名称別にあり)を、あの日の美々霧にスタンプしてしまったとは、今更に彼女に伝えることなど出来ない。

 何処でもスイッチ。

 それは増え続ける怪人に対して、怪人と戦える人造人間の数が少なすぎる事から政府が編みだした最終(採集?)対抗手段だ。
 一応は正義の味方を名乗っている政府である以上、非人道的ともいえる戦闘機能付帯手術を人体に施すためには、人権保護の観点から数々の柵がある。

 俺が勝手に手術された事情は、完全に左足と左手が潰されており、全身も60パーセントを越える大やけどという有様だ。
 その怪我を治療できるかどうかが、俺の生死を左右していたからであろう。

 さて、人材不足の政府は人材確保のために何を考えたか?
 人権派が人造手術反対の立場を取り始めたのは、内部に反政府の悪の組織の構成員がひしめくようになったからであり、よって、ここと妥協し合うなんてことは大人の事情で無理である。
 ならば、将棋の駒のように、怪人を寝返らせてはどうかと考えたのだ。

 俺は、白い陶器のような肌をした、横顔も美しい美々霧を見つめた。
 俺が作りあげた、俺の理想の女の顔。
 彼女は俺の視線に振り返り、なんと、俺を頼みにするような視線を投げかけて来たのである。

「ねえ、もしかして、あの機械は使用料が高かったりするの?」

 命を懸けて働いているというのに、戦闘で使用された機械や攻撃補助用具について不必要な使用と見做されると自腹を要求されるという、金欠な政府による非人道的な部署でもあるのだ。
 俺の懐を心配してくれたとは!
 俺は美々霧に微笑んで見せた。

「取りあえず、基地に帰ろうか。」

「じゃあ、リンリンに首輪はつけなきゃね。」

「え、首輪?」

 美々霧は俺ににっこりと微笑むと、それはどこで作って来た!という頑丈そうな紐をプードル型怪人に結び付けた。
 まさか、その紐はお尻から出したんじゃないよね?
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