妖精管理官という見習いドルイドは今日も貧乏くじを引かされる

蔵前

文字の大きさ
2 / 6
序章

あんたは最低な人ですね?

しおりを挟む
 新人班目は人が良いというよりは権力に弱い男であった。

 着ているスーツが上等な生地であり、立ち居振る舞いがとても偉そうに見えたことから、トイレに駆け込んだ男がエリートキャリアだと班目は見越した。
 そこで班目は、自分に見下した目線を向けた男であったにもかかわらず、その男の介抱に向かったのである。
 男は三つ並ぶ個室の一番手前にて、便器にかがんで盛大に吐いていた。

「大丈夫ですか!」

「大丈夫じゃねえよ。ちくしょう、あの豆名まめなめ。今度俺にふざけたことしやがったら、次は娘のあそこに指を突っ込んでやる。」

 この人はエリートじゃなかった。
 一瞬で班目は察知したが、警察庁で豆名と言えば有名な警視であり、そんな偉い人の娘に無体な事をしようとする男を見逃せないと逃げ出さなかった。
 出世願望の強い彼は、目の前の男の物言いを全て聞き取り、豆名警視にご注進申し上げようと考えたのである。

「全くよ。あのちっこい豆狸の癖に俺よりも酒が強いってどういうことだ?ちくしょう、大事な娘か何だか知らねえが、俺の指に指輪なんか嵌めやがって。俺はあいつにまだ何も嵌め込んでいないって言うのによ。まずは突っ込ませろよ、というか、認めたんだったら娘とやらせろよ、たく!」

 再び便器に吐きだした男の左手の薬指には銀色の指輪が嵌っており、班目はここでどうすればいいのか悩んでしまった。
 目の前の男は、あの豆名警視の娘の婚約者らしい。
 下手な注進で婚約破棄となったら、自分の進退はどうなるのであろうか、と。
 だが班目に一つだけ絶対的に確信できたのは、目の前の男が外見に反比例した屑同然だろうと言う事だった。

「手を出していないのでしたら、婚約破棄をなさったらいかがですか?」

 吐いていた男は無言で体を起こすとトイレの水を流し、静かに振り向いて班目を睨みつけた。
 それからその男は背広のポケットからスマートフォンを取り出して、スマートフォンに映る画像を見せつけてきたのだ。

 黒髪は丸い形になるようなショートヘアで、顔周りにはシャギーを入れた髪の毛が可愛らしく跳ねている。
 人形のような繊細な顔立ちには大き過ぎるぐらいの瞳が輝いていて、そのせいで彼女の風貌は妖精のように美しく可愛らしいものだった。

 男は無言ですぐにスマートフォンをポケットに片付け、班目は彼が何も言わなくとも全て理解したという風に頭を下げた。

 こいつとやれるんだったら、何があっても婚約破棄なんぞしないよな?

 班目こそそんな気持ちだったからだ。

 班目はトイレの洗面台の鏡に自分を映してしみじみ眺めた。
 色白で髪の色も目の色も琥珀色で色素が薄く、顔形だって童顔でトイレに籠る男と比べれば印象なんて無いに等しい。

 良い男には幸運ばかりなんだなあ、と班目は虚しく思い、再び吐き出した男を見捨てて自分の貧乏くじでしかない部署にトボトボと戻って行った。
 廊下を歩きながら、確かに自分は魔法使いになれそうだ、そんな風に考えながら彼は鬱々と歩くしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...