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2日目

第46話 口元

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(シオン)
「つかさ、[念話]ならやるから
 聞きたい時に最適さんに聞きゃいいんだよ」

(最適さん)
『それでしたら、いつでも対応できます』

(ココル)
「ウチ専用が欲しいんだけどな~」

(シオン)
「ならココルも[最適]を修得りゃいい。
 もしかしたら変わるかもしんねぇ」

(ココル)
「うん、だからね?
 経験値足らないの!」

(シオン)
「あー、ガンバレ?」

(ココル)
「お父さん達みたいな傭兵が半生かけて
 1千万ちょいじゃん!?
 ウチはあんた見たいにズルしてないんだから
 無~理ぃ~」

(最適さん)
『上位種は個性にあった報酬項目が
 用意されていますので
 お父様達より貯まりやすいですよ』

(ココル)
「報酬項目?」

 この世界は倒した魔物が
 経験値をくれるわけでは無い。
 その者が起こした事柄をシステムが確認し、
 システムから経験値が振り込まれる。

 普通の方々、下位種と呼ぼう。
 下位種はその種族等により
 応じた報酬が用意されている。

 ヒューマンだと食器洗い等にも報酬がある上、
 段階報酬がある。
 1枚、5枚、10枚、20枚……。
 
 それ故、皿洗いだけの人生でも
 そこそこのレベルにはなりえる。
 
 報酬項目が増えるということは、
 経験値を貰える機会チャンスが増えるという事だ。

(ココル)
「へぇ~、なるほど~。
 どんな報酬な~の?」

(最適さん)
『わかりません』

(ココル)
「それじゃ意味な~い!」

(シオン)
「減るわけじゃないからいいだろ」

(ココル)
「ぶ~」

(ファル)
「ココル姉?
 ワガママもほどほどにね?」

(ココル)
「ファルちゃんのケチ~」

 ファルがとても爽やかな笑顔で

(ファル)
「お姉ちゃん」

 いつもの黒いオーラを出すが、
 顔は笑顔のままだ。

(ファル)
「旦那様と同じハイヒューマンと言う事だけでも
 妬ましく思っているんだ。
 これ以上旦那様を困らせるようなら……
 殺すよ?」

(ココル)
「恐い~
 でもね?
 ウチの耐久は14万あるの~。
 今のファルちゃんじゃ、
 残念だけど~、無~理ぃ~♪」

 と胸を張ったとたん、
 ココルの視界からファルが消える。
 ファルはココルの腕を後ろに回し、
 縄で縛り、足も拘束。
 口は布で猿轡をした。

(ココル)
ふむぐ? むぐぅ何なの~?」

(ファル)
「残念だったね。お姉ちゃん♪
 筋力値はボクの方が高いんだ。
 このまま飲まず食わずなら
 ハイヒューマンだろうと
 ……死ぬよね?」

 終止笑顔であるが故、逆に怖い。

(シオン)
「何も食わないと死んじまうのか?」

(ファル)
「そうなんだよ旦那様。
 この世界の生き物は何かを食べないと
 生きていけないし、
 行動する事も出来なくなる。
 何日くらいなのかはわからないけど……、
 お姉ちゃんで試してみようか?」

(最適さん)
『大変興味がありますが、
 ここはマスターの結界の中ですので
 飢え死ぬことはありません。
 やるのでしたら結界の外……、
 村の外の森に小屋でも作成し
 実行するのが良いかと』

 はじめはファルちゃんの悪ノリだと
 思っていたココルだが、
 だんだん冗談じゃないほどに
 皆が会話に参戦。
 且つ悪い方向に話を進めていく。

(ココル)
ふ~む~ぐ~い~や~だ~!!」

 上位種は思い浮かべれば、
 修得のパネルが表示される。
 だが、操作は指でタッチしなければならない。
 後手で拘束されているココルには
 操作は出来なかった。

(クロエ)
「小屋を建てるなら丁度いいスキルがあるのじゃ」

(ファル)
「建築系のスキルがあるのかい?
 女の子なのに珍しい」

(クロエ)
「見て驚くのじゃ」

(フランク)
「皆さん冗談はほどほどにお願いします」

 フランクが眼を向けた先には、
 完全に青ざめたココルが
 その瞳に涙を浮かべていた。

(ファル)
「え? 冗談じゃないよ?」

 真面目な顔で言い放つファルを見て、
 溜め込んでいた涙が滝の様に溢れだした。

(フランク)
「冗談……ですよね?」

(ファル)
「ボクは警告したんだよ?
 それなのに……お姉ちゃんは……。
 だから、お姉ちゃんが謝るまでは許さない」

 眼に涙を滲ませながら語る。

 謝るまで……。
 それを聞いた者達が
 ココルに眼を向ける。
 そう。
 猿轡である。
 腕も後ろで縛られている。
 これでどうやって謝れというのか……。

(ココル)
ふむぐふむぐ~謝るから~

(フランク)
「ほ、ほら何か言いたそうです。
 きっと、謝りたいんですよ」

(ココル)
ふんうん……ふんうん……」

 ココルはフランクの言葉に同意するかの様に
 しきりに首を縦に振る。

(ファル)
「フランクさん?
 "言いたそう"と"言う"では大きく違うよ。
 謝るならちゃんとその口から謝罪がなければ
 ボクは許さないよ」

 だから無理だろ。

(ファル)
「じゃあ、クロエ。
 森に行こうか」

(クロエ)
「心得たのじゃ」

 ファルはココルを担ぎ、
 村の外の森へと足を運びはじめた。

(フランク)
「あ、あの!」

(タートレー)
「大丈夫、大丈夫。
 あぁは言ってるがふざけてるだけさ。
 本当に殺したりなんかはしないよ」

 こんな場なのに
 テーブルで呑気にティータイム中の夫婦。

(フランク)
「何で言いきれるんですか」

 フランクは疑いの眼差しで問いかける。

(リアード)
「親だからと言っても納得はしなさそうだね。
 ……殺意が感じられないからだ」

(フランク)
「殺意ですか?」

(リアード)
「ファルはまだ未熟でね。
 魔物を狩る時も殺意がだだ漏れなんだ。
 それが全く感じられなかった。
 それにシオン君もついている。
 問題はないだろう。
 それにココルは
 ニートだったのにあの態度だ。
 少し痛い目を見て反省してもらわないと」

(タートレー)
「王都で暮らす為の
 予行練習だと思えばいいさ」

 そんなやりとりをしていた為、
 出遅れたフランクはシオン達を
 完全に見失っていた。
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