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第一章・墓標を立てる者
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Ⅳ
翌日、勇三は四人の友人と駅前のゲームセンターに行くことになった。
男子高校生はつねに暇を持て余しているもんだ、そう主張する啓二のもちかけだった。
とはいえ昨夜、見ず知らずの少女に手持ちの有り金をすべて盗まれていたので、学校帰りに預金をおろしてからの合流となった。
さいわい銀行のキャッシュカードは自宅に保管していたので無事だったが、稼いだアルバイト代が口座に残っていなかったことを考えるとぞっとした。最悪の場合、養父母から金の無心をしなければならないところだったからだ。
財布を盗まれたことには腹が立ったが、少女を恨む気持ちは不思議と大きくはなかった。もちろん身分証を含めて盗まれたものを取り返したくはあったが、それ以上に、あの夜の街に超然と佇む少女に抱いた興味のほうが強かった。
あの妙に大人びた態度、盗みに手馴れた様子、そして人間離れした身のこなし。
もしかしたら、少女の人間離れしたところにもっとも共感を抱いているのかもしれない。
自分もまた、同じようなものだからだ。
「また負けた!」
遅れてゲームセンターに足を踏み入れた勇三は、騒音から抜けるような啓二の賑やかな声にさっそく出迎えられた。
入り口にほど近い格闘ゲーム用の筐体に啓二が、向かいあったもう一台に輝彦が座っていた。画面の中では侍のキャラクター同士が刀を振りまわしている。
『修羅の煉獄』という時代劇漫画をゲームにしたもので、最近の啓二はこれに熱をあげていた。もっとも輝彦を相手に、その戦績はあまり芳しくはないようだ。
勇三も原作を古本屋で立ち読みしたことがあるが、江戸時代初期の小難しい歴史背景と、主人公たちに襲いかかる気味の悪い妖怪が登場するこの作品をあまり好きにはなれなかった。
啓二たちから視線をよそにやると、広基がクレーンゲームにいそしんでいるのが見えた。
よほど熱中しているのだろう、大きな背中を目いっぱい折り曲げ、移動するクレーンを一心に見つめている。
勇三は広基の後ろまで近づいたが、声をかけることはしなかった。
アクリルガラスで囲まれた筐体の中には猫のぬいぐるみが敷きつめられている。広基は巧みな操作でぬいぐるみの紐にクレーンの爪を器用に引っかけ、隅の落とし口まで上手に運んだ。
転がりだしたぬいぐるみを広基が拾い上げる。その顔が嬉しさにほころんだが、勇三の視線に気づいてすぐにばつの悪そうな苦笑に変わった。
「弟と妹にあげるんだ」
広基に歳の離れた双子の兄妹がいるのを知っていた勇三は笑みを返しながら頷いてみせた。
が、すでに広基のカバンに大量のぬいぐるみが詰め込まれていたのを見て、少しぎょっとさせられた。
ゲームセンターの入り口のほうを振り向いたのは、うなじにぴりつくような気配を感じたからだった。それはまるでぼんやりとした予感や直感が、実体のある針になって身体を刺してきたような感覚だった。
広基が新たな戦利品をカバンに入れながら首をかしげたが、勇三はそんな友人にも頓着しなかった。
はたして、店に入ってきたのはあの少女だった。
勇三は不思議そうにこちらを見る広基の身体を盾に身を潜め、様子を窺った。
小振りなバックパックを背負った少女はどのゲーム機にも目もくれず、店の奥へとまっすぐ進んでいった。
「おれ、ちょっとトイレ」
広基が呼びかけるのも聞かず、勇三は少女の後ろ姿を追った。
勇三がトイレとは違う方向へ足を進めているのを、輝彦も格闘ゲームの筐体ごしに見ていた。その時点で彼の連勝記録は十二を数えており、負けのこんだ啓二は勝利をもぎとろうと、余計に熱くなっていた。
輝彦が振り返ると、背後には順番待ちやらギャラリーやらの人だかりができている。
輝彦は椅子から立ち上がり、最前列にいた小学校高学年くらいの男の子二人組に対戦中の台をただで譲った。
「あれ? 輝彦、さっきと動きが……いや、これはこれで強い!」
啓二の叫びを背中で受けながら、輝彦もまた勇三のあとを追った。
翌日、勇三は四人の友人と駅前のゲームセンターに行くことになった。
男子高校生はつねに暇を持て余しているもんだ、そう主張する啓二のもちかけだった。
とはいえ昨夜、見ず知らずの少女に手持ちの有り金をすべて盗まれていたので、学校帰りに預金をおろしてからの合流となった。
さいわい銀行のキャッシュカードは自宅に保管していたので無事だったが、稼いだアルバイト代が口座に残っていなかったことを考えるとぞっとした。最悪の場合、養父母から金の無心をしなければならないところだったからだ。
財布を盗まれたことには腹が立ったが、少女を恨む気持ちは不思議と大きくはなかった。もちろん身分証を含めて盗まれたものを取り返したくはあったが、それ以上に、あの夜の街に超然と佇む少女に抱いた興味のほうが強かった。
あの妙に大人びた態度、盗みに手馴れた様子、そして人間離れした身のこなし。
もしかしたら、少女の人間離れしたところにもっとも共感を抱いているのかもしれない。
自分もまた、同じようなものだからだ。
「また負けた!」
遅れてゲームセンターに足を踏み入れた勇三は、騒音から抜けるような啓二の賑やかな声にさっそく出迎えられた。
入り口にほど近い格闘ゲーム用の筐体に啓二が、向かいあったもう一台に輝彦が座っていた。画面の中では侍のキャラクター同士が刀を振りまわしている。
『修羅の煉獄』という時代劇漫画をゲームにしたもので、最近の啓二はこれに熱をあげていた。もっとも輝彦を相手に、その戦績はあまり芳しくはないようだ。
勇三も原作を古本屋で立ち読みしたことがあるが、江戸時代初期の小難しい歴史背景と、主人公たちに襲いかかる気味の悪い妖怪が登場するこの作品をあまり好きにはなれなかった。
啓二たちから視線をよそにやると、広基がクレーンゲームにいそしんでいるのが見えた。
よほど熱中しているのだろう、大きな背中を目いっぱい折り曲げ、移動するクレーンを一心に見つめている。
勇三は広基の後ろまで近づいたが、声をかけることはしなかった。
アクリルガラスで囲まれた筐体の中には猫のぬいぐるみが敷きつめられている。広基は巧みな操作でぬいぐるみの紐にクレーンの爪を器用に引っかけ、隅の落とし口まで上手に運んだ。
転がりだしたぬいぐるみを広基が拾い上げる。その顔が嬉しさにほころんだが、勇三の視線に気づいてすぐにばつの悪そうな苦笑に変わった。
「弟と妹にあげるんだ」
広基に歳の離れた双子の兄妹がいるのを知っていた勇三は笑みを返しながら頷いてみせた。
が、すでに広基のカバンに大量のぬいぐるみが詰め込まれていたのを見て、少しぎょっとさせられた。
ゲームセンターの入り口のほうを振り向いたのは、うなじにぴりつくような気配を感じたからだった。それはまるでぼんやりとした予感や直感が、実体のある針になって身体を刺してきたような感覚だった。
広基が新たな戦利品をカバンに入れながら首をかしげたが、勇三はそんな友人にも頓着しなかった。
はたして、店に入ってきたのはあの少女だった。
勇三は不思議そうにこちらを見る広基の身体を盾に身を潜め、様子を窺った。
小振りなバックパックを背負った少女はどのゲーム機にも目もくれず、店の奥へとまっすぐ進んでいった。
「おれ、ちょっとトイレ」
広基が呼びかけるのも聞かず、勇三は少女の後ろ姿を追った。
勇三がトイレとは違う方向へ足を進めているのを、輝彦も格闘ゲームの筐体ごしに見ていた。その時点で彼の連勝記録は十二を数えており、負けのこんだ啓二は勝利をもぎとろうと、余計に熱くなっていた。
輝彦が振り返ると、背後には順番待ちやらギャラリーやらの人だかりができている。
輝彦は椅子から立ち上がり、最前列にいた小学校高学年くらいの男の子二人組に対戦中の台をただで譲った。
「あれ? 輝彦、さっきと動きが……いや、これはこれで強い!」
啓二の叫びを背中で受けながら、輝彦もまた勇三のあとを追った。
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