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第二章・墓標に刻む者
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「昨夜のこと、どこまで覚えてる?」
「化け物が出てきて、それから先はどうなったっけ……」
思い出そうとしたものの、頭の中にもやがかかったようになり、こめかみもきりきりと痛み出す。
「ハロルドくん」
トリガーがそう声をかけると、忠実なロボットはカウンターの裏から端末を取り出し、主人である犬の前に開いて置いた。
端末にはタッチパッドがつながっており、トリガーは前足を乗せて画面上のカーソルを操作すると、デスクトップのアイコンを起動させた。
「昨日の作戦の映像記録だ。任務にあたった<グレイヴァー>が希望すればデータを受け取ることができる。その作戦の報酬が妥当であるかどうか、無闇なトラブルを避けるために設けられた一種の保険のようなものだ」
「犬がパソコン使うのか……」なかば呆れたように勇三が呟く。
「ちなみにわたしは全然使えない」霧子はなぜか自慢げだ。
だが映像が再生されるなり、あたりを包んでいた和やかな雰囲気はどこかへ消え去ってしまった。
映像は三分弱の短いものだった。
しばしばアングルが変わることからトリガーか、あるいは彼が受け取る前にあらかじめ編集されたものなのだろうか。色彩は藻のような深い緑がかっており、全体的にざらついた質感でもあった。
俯瞰のアングルから人影があらわれる。それが自身の姿であると気づいた直後、画面の中の勇三が巨大な物影に吹き飛ばされた。音声がないことがかえって不気味だった。
ふたたび場面が変わり、今度は地面に投げ出された勇三が画面いっぱいの接写で映し出された。監視カメラの映像にしてはアングルが不自然だ。
「ここだ」トリガーが呟く。
その声に反応するように、画面の中の勇三がふらつきながらゆっくりと立ち上がった。
カメラが被写体から少しずつ離れていくと、後ずさる怪物の姿がフレームの内側に入ってきた。
突進する怪物。勇三がそれを迎え撃つように、巨大な顔面に拳を叩きつける。
両者はしばし動きを止めたあと、まず怪物が、それから勇三が順に倒れていった。
倒れた勇三に向かってひとりの少女が駆け寄っていく。霧子だ。
だが彼女が勇三に辿りつく前に、映像は終わった。
勇三はカップを口元に運んだものの、コーヒーを飲みはしなかった。
「思い出したか?」霧子が訊ねる。その態度はどこか気遣わしげだった。
勇三は一点だけを見据えたまま頷きもしなかったが、脳裏では今朝まで抜け落ちていた記憶のかたまりが急浮上していた。
夢のように曖昧だった部分が、厳然たる事実としてはっきりとした形を取り戻す。しかし、それを勇三が受け入れられるかどうかはまた別問題だった。
映像の中の自分が自分でないようだ。熱にうかされたように我を忘れた状態で、あの巨大な怪物を殺したというのか……それも素手で。
「少なくともおれは、トラックにはねられたって死にそうにはないな。ちょっと自信がついたよ」わざと茶化すように言った勇三だったが、その口調に余裕は無かった。「おかげでいろいろ思い出せた。それじゃあ、コーヒーごちそうさん」
「まだ話は全部終わってないぞ」立ち去ろうとする勇三を霧子が呼びとめる。
「まだなにかあるのか?」
「むしろ重要なのはここからだ」
腰を浮かしたまま見つめ返すが、霧子は一瞬も目を逸らそうとしない。勇三は大人しく席に戻った。
「単刀直入に言おう。おまえはこれからの行動によっては殺されるだろう」
「化け物が出てきて、それから先はどうなったっけ……」
思い出そうとしたものの、頭の中にもやがかかったようになり、こめかみもきりきりと痛み出す。
「ハロルドくん」
トリガーがそう声をかけると、忠実なロボットはカウンターの裏から端末を取り出し、主人である犬の前に開いて置いた。
端末にはタッチパッドがつながっており、トリガーは前足を乗せて画面上のカーソルを操作すると、デスクトップのアイコンを起動させた。
「昨日の作戦の映像記録だ。任務にあたった<グレイヴァー>が希望すればデータを受け取ることができる。その作戦の報酬が妥当であるかどうか、無闇なトラブルを避けるために設けられた一種の保険のようなものだ」
「犬がパソコン使うのか……」なかば呆れたように勇三が呟く。
「ちなみにわたしは全然使えない」霧子はなぜか自慢げだ。
だが映像が再生されるなり、あたりを包んでいた和やかな雰囲気はどこかへ消え去ってしまった。
映像は三分弱の短いものだった。
しばしばアングルが変わることからトリガーか、あるいは彼が受け取る前にあらかじめ編集されたものなのだろうか。色彩は藻のような深い緑がかっており、全体的にざらついた質感でもあった。
俯瞰のアングルから人影があらわれる。それが自身の姿であると気づいた直後、画面の中の勇三が巨大な物影に吹き飛ばされた。音声がないことがかえって不気味だった。
ふたたび場面が変わり、今度は地面に投げ出された勇三が画面いっぱいの接写で映し出された。監視カメラの映像にしてはアングルが不自然だ。
「ここだ」トリガーが呟く。
その声に反応するように、画面の中の勇三がふらつきながらゆっくりと立ち上がった。
カメラが被写体から少しずつ離れていくと、後ずさる怪物の姿がフレームの内側に入ってきた。
突進する怪物。勇三がそれを迎え撃つように、巨大な顔面に拳を叩きつける。
両者はしばし動きを止めたあと、まず怪物が、それから勇三が順に倒れていった。
倒れた勇三に向かってひとりの少女が駆け寄っていく。霧子だ。
だが彼女が勇三に辿りつく前に、映像は終わった。
勇三はカップを口元に運んだものの、コーヒーを飲みはしなかった。
「思い出したか?」霧子が訊ねる。その態度はどこか気遣わしげだった。
勇三は一点だけを見据えたまま頷きもしなかったが、脳裏では今朝まで抜け落ちていた記憶のかたまりが急浮上していた。
夢のように曖昧だった部分が、厳然たる事実としてはっきりとした形を取り戻す。しかし、それを勇三が受け入れられるかどうかはまた別問題だった。
映像の中の自分が自分でないようだ。熱にうかされたように我を忘れた状態で、あの巨大な怪物を殺したというのか……それも素手で。
「少なくともおれは、トラックにはねられたって死にそうにはないな。ちょっと自信がついたよ」わざと茶化すように言った勇三だったが、その口調に余裕は無かった。「おかげでいろいろ思い出せた。それじゃあ、コーヒーごちそうさん」
「まだ話は全部終わってないぞ」立ち去ろうとする勇三を霧子が呼びとめる。
「まだなにかあるのか?」
「むしろ重要なのはここからだ」
腰を浮かしたまま見つめ返すが、霧子は一瞬も目を逸らそうとしない。勇三は大人しく席に戻った。
「単刀直入に言おう。おまえはこれからの行動によっては殺されるだろう」
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