ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第二章・墓標に刻む者

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「なら……おれはもう、どうしようもないのか?」
「方法が無いわけでもない」そう言ったのはトリガーだった。「とんでもなく苦労をすることになるが、政府に追われず、いずれは普通の生活に戻る方法がひとつだけある」

 顔をあげた勇三と目が合ったトリガーはこう続けた。

「金だよ」
「金?」勇三が問い返す。
「正確には違約金だ。<グレイヴァー>は政府と会社に合わせて一千万の金を支払うことでもとの自由を手に入れることができる」
「法外な値段だが、もともと脛に傷を持つような連中が集まるところだからな。高めに設定してあるんだ」霧子が言葉を添える。

「一千万……支払いは何年かかってもいいのか?」
「ああ、期限は無しだ。そのあいだも契約期間更新や諸々の経費で金は必要になるが、こちらは違約金とくらべればだいぶ小さな額だ」

 勇三は違約金の額を反芻した。確かに高すぎる値段ではあるが、必死になって働けばけして払えない額とも思えない。

「勇三、言いづらいことだが、これは大変な額なんだぞ」霧子が言う。
「でも、払えない金額じゃないだろ」

 その問いに霧子とトリガーが顔を見合わせる。その様子に勇三は不安を覚えた。

「おれの聞き間違い、じゃないよな?」
 霧子はうなずくと、「ああ、一千万だ。ただし、アメリカドルでの話だが」

 はじめ霧子の言葉を理解できなかった勇三だったが、言われた数字を頭の中で繰り返すにつれて背中にじわりと冷たい汗が伝い、めまいさえおぼえはじめた。

 一千万アメリカドル……為替レートにもよるが、その価値はこの国の通貨に換算すれば大体百倍前後だろうか。
 まさしくとんでもない大金だ。当然、一介の高校生に払える額ではない。いや、そもそもこれだけの額を出せる人間が、この世界にはたしてどれだけいるというのか。
 違約金の額が、文字通り百倍の重みを伴ってのしかかってくる。

「そんなもん、どうすりゃいいんだ?」
「金も問題だが、重要なのはいまの肩書きだ。まずは名義だけでも<グレイヴァー>になる必要がある」そう答えたのはトリガーだった。「<アウターガイア>への不正侵入の容疑を晴らさなくては違約金を払うどころではないからな。逆に言えば、<グレイヴァー>になることがすべての解決の糸口とも言える」
「どういうことだ?」
「化け物退治で金を稼ぐんだよ。むしろ方法はそれしかない」

 その言葉に、勇三は目を剥いた。見ると、霧子も同じような表情をしていた。

「トリガー!」霧子が声を荒らげる。
「もちろん危険のつきまとう生業だ。だが同時にそれは、命の切り売りでもある」霧子を無視するように、トリガーはふたたび端末を操作した。「<グレイヴァー>の報酬というのは倒したレギオンの等級によって上下する。つまり危険度が高ければ高いほど、撃破報酬も跳ね上がるわけだ」

 見てみろ、と言いながらトリガーがファイルデータを開く。

「レギオンは政府と会社が協議して、五段階の等級に分かれている」

 促されるように覗き込んだ画面は黒い背景に白い枠という飾り気のないもので、レギオンの画像と生態、体長データや識別コードなどが記されていた。
 さしずめ怪物の懸賞リストと言ったところか。

 一覧の中には昨晩勇三と霧子が遭遇したあの人面竜の画像もある。
〝TX―95〟というのがその名前だった。だがそれ以上に勇三の目を見張らせたのは、怪物につけられた値段だった。
 仮に勇三が数ヶ月みっちりアルバイトで働いても、到底拝めないような金額だったのだ。

「昨日の相手だな。五段階のランクで言うと三番目の下、といったところか」
「このギガンテス級っていうのは?」
「政府が定めたレギオンの等級を勝手にそう呼んでいるんだ。もっとも会社側ではこの呼び方を採用しているから、あながち非公式というわけでもないがな」

 トリガーの説明は半分も耳に入ってこなかった。勇三の関心はレギオンの奇怪な姿と、それに付随する価値に向いていた。

<グレイヴァー>の仕事が危険だということは、昨夜自らの身に降りかかってきた出来事から理解できた。だが同時に、多額の違約金を支払う方法がこれしか残されていないということもわかった……それが、自由を手にするための唯一の手段だと。
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