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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ
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Ⅱ
窓の外では五月の新緑が芽吹きはじめていた。そのほころびはやがて来る夏に向け、これから降る雨で存分に英気を養おうと、じっと息をひそめているようにも見える。
勇三はそんな静かな生命の営みを、ベッドに腰かけてぼんやりと眺めていた。
シーツや上掛けはもちろんのこと、枕とマットレスまで取り去られ、パイプの骨組みだけが残されている。わずかに身じろぎすると、薬品の匂いが漂う部屋のなかで錆びた軋みが響いた。
<アウターガイア>での死闘から一週間が経っていた。
気を失った勇三はこの病院の、このベッドに担ぎこまれてからというもの、丸三日間ものあいだ目を覚まさなかったそうだ。当の本人からすればそんな実感はなかったし、いまも夢を見ているようですらあった。
それは恐怖と孤独感に満ちた記憶で組み上げられた悪夢であり、あの丘の上で起きた出来事の追体験だった。
迫る暗闇、炎の熱さ、ぬらりとしたレギオンの肉質。
そして短い付き合いだった仲間たちの変わり果てた姿と、ヤマモトの最期の息遣い。
目を閉じればその全てがまぶたの裏でよみがえる。
気がつけば、勇三は浅く荒々しい呼吸を繰り返していた。心臓の鼓動は早まり、視界が暗く狭まっている。
気がつけば、握り締めたベッドの骨組みがひしゃげていた。
「戦闘のショックでしょう」愛想の悪い初老の主治医がしたことといえば、勇三にそう説明して睡眠導入剤を処方しただけだった。「<グレイヴァー>であれば治療費が補助されます。会社に申請してください」
<アウターガイア>の諸々の事情を知る医師の事務的な言葉は耳に入らず、勇三の心はずっと上の空だった。
頭の中では、あの夜にまつわる疑問を繰り返しこねまわしていた。
あのとき……勇三を残して全員が死に、その直後に<特務管轄課>の救援部隊が到着したあのとき……スーツの人間たちのなかに迷彩服を着たひとりの男が混じっていた。ぼんやりとではあるが、そのときのことを覚えていた。
軍用キャップをかぶったその男はまっすぐこちらに駆け寄ると、ヤマモトの亡骸を抱えたまま呆然としていた勇三の肩に優しく手をかけてこう言った。
勇三、と。
その男はたしかに自分にそう呼びかけてきた。
顔をはっきりとは見ていない。そんな余裕は無かったからだ。
それでも、どこか遠くから聞こえてくるようなひどく懐かしいその声は、勇三の頭の中でいつまでもこだましていた。
あれはいったい誰だったのだろう。どれだけ記憶の箱を逆さにしてもその正体はわからなかった。
そもそも、<アウターガイア>で自分の名前を知っている人間など数えるほどしかいない。
窓の外では五月の新緑が芽吹きはじめていた。そのほころびはやがて来る夏に向け、これから降る雨で存分に英気を養おうと、じっと息をひそめているようにも見える。
勇三はそんな静かな生命の営みを、ベッドに腰かけてぼんやりと眺めていた。
シーツや上掛けはもちろんのこと、枕とマットレスまで取り去られ、パイプの骨組みだけが残されている。わずかに身じろぎすると、薬品の匂いが漂う部屋のなかで錆びた軋みが響いた。
<アウターガイア>での死闘から一週間が経っていた。
気を失った勇三はこの病院の、このベッドに担ぎこまれてからというもの、丸三日間ものあいだ目を覚まさなかったそうだ。当の本人からすればそんな実感はなかったし、いまも夢を見ているようですらあった。
それは恐怖と孤独感に満ちた記憶で組み上げられた悪夢であり、あの丘の上で起きた出来事の追体験だった。
迫る暗闇、炎の熱さ、ぬらりとしたレギオンの肉質。
そして短い付き合いだった仲間たちの変わり果てた姿と、ヤマモトの最期の息遣い。
目を閉じればその全てがまぶたの裏でよみがえる。
気がつけば、勇三は浅く荒々しい呼吸を繰り返していた。心臓の鼓動は早まり、視界が暗く狭まっている。
気がつけば、握り締めたベッドの骨組みがひしゃげていた。
「戦闘のショックでしょう」愛想の悪い初老の主治医がしたことといえば、勇三にそう説明して睡眠導入剤を処方しただけだった。「<グレイヴァー>であれば治療費が補助されます。会社に申請してください」
<アウターガイア>の諸々の事情を知る医師の事務的な言葉は耳に入らず、勇三の心はずっと上の空だった。
頭の中では、あの夜にまつわる疑問を繰り返しこねまわしていた。
あのとき……勇三を残して全員が死に、その直後に<特務管轄課>の救援部隊が到着したあのとき……スーツの人間たちのなかに迷彩服を着たひとりの男が混じっていた。ぼんやりとではあるが、そのときのことを覚えていた。
軍用キャップをかぶったその男はまっすぐこちらに駆け寄ると、ヤマモトの亡骸を抱えたまま呆然としていた勇三の肩に優しく手をかけてこう言った。
勇三、と。
その男はたしかに自分にそう呼びかけてきた。
顔をはっきりとは見ていない。そんな余裕は無かったからだ。
それでも、どこか遠くから聞こえてくるようなひどく懐かしいその声は、勇三の頭の中でいつまでもこだましていた。
あれはいったい誰だったのだろう。どれだけ記憶の箱を逆さにしてもその正体はわからなかった。
そもそも、<アウターガイア>で自分の名前を知っている人間など数えるほどしかいない。
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