ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ

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「来る」

 呟くのと怪物が走り出すのとは同時だった。
 霧子は足に力をためると、タイミングを見計らって横様に大きく跳躍した。一瞬前まで彼女がいた場所に怪物が頭から突っ込む。
 漆喰が砕け、レンガの落ちる音とともに建物が崩れた。霧子はそのあいだに道路を斜めに横断すると、反対側の建物を目指した。

 たどり着いた建物の壁に手をついて来た道を振り返ると、怪物がちょうどこちらへ向き直ったところだった。左右が反転したこと以外は、霧子との位置関係は先ほどとほとんど同じだった。
 ふたたび怪物が突進を仕掛ける。霧子はこれも寸前でかわすと、やはり同じように対角線を目指した。

「よし」高岡から安堵ともとれる声が漏れる。「まったく、肝が冷えるな」
「ああ」霧子が言葉少なに応じる。

 要するにこのレギオンは、大型トラックと同じだ。
 馬力とパワーこそあるものの、その重量があだとなって加速を得るにはじゅうぶんな時間と距離が必要になる。
 直線では人間の脚で敵うはずもなかったが、こうして小回りをきかせてジグザグに進めば、キルゾーンまで誘導することもあながち無理ではない。

 しかし……

 飛び去った霧子のつま先を、突進する怪物の鋼鉄のような身体がかすめていく。

(スピードが上がってきたか)

 あの体当たりをわずかにでも食らえば、負傷は免れないだろう。
 集中力が続いているうちに、最初の曲がり角までたどりつきたかった。そうすれば、この追いかけっこも仕切り直せるからだ。かといって、焦って距離を稼ごうとしすぎると相手にも加速する猶予を与えてしまう。
 霧子は怪物との相対距離以上に、道路を横断する角度に細心の注意をはらった。

 四度目の突進……かと思いきや、怪物は踏み出すかにみえた脚で空をかいた。目測を見誤った霧子が、つんのめるように体勢を崩す。
 この隙を見逃さず、怪物が突進してきた。

 もう立て直している時間はない。
 無理にでも飛ぶか。瞬間頭に浮かんだ選択をすぐに打ち消した。この状態から怪物の攻撃を避けきれる確信が無かったからだ。たとえ負った傷が致命傷でなくても、思うように動けなくなることは死に直結する。

 追い詰められた霧子は、崩れた低い体勢のまま後ろに飛んだ。丸めた背中から、ガラスの砕けた窓枠へと吸いこまれていく。
 転がるようにして建物の中に着地した彼女は、薄暗い廊下を一気に駆け出した。直後に内側へと押しつぶされた壁が背中をかすめていく。
 砕けたドアや調度品、散乱していた空き缶や紙くずが降り注ぐなか、跳躍した霧子は正面のドアを蹴破った。
 横手にあるドアを開けて表に出ると、頭を突っ込んだ建物から怪物の巨大な胴体が突き出ているのが見えた。
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