ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ

30

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   Ⅷ


「M203だ」

 勇三の運転するバイクで『サムソン&デリラ』に戻ったトリガーは、和室の卓袱台を前にそう言った。
 台の上には勇三が<アウターガイア>で落としたはずのライフルと、同色の筒状のものが置いてあった。

「M4のアタッチメントだ。一発ずつだがグレネードを射出できる……聞いてるのか?」

 トリガーの呼びかけに勇三は顔をあげた。それまでずっと、自分のライフルを見つめていたのだ。
 彼は問いに答えないままふたたび視線を落とすと、吸い込まれるように手を伸ばし、その冷たい表面をそっと指でなぞった。
 馴染む前に手放してしまったライフルが、自分にとって依然異物であることに変わりはない。だが同時に懐かしさも感じていたことに、勇三は内心驚かされた。

「勇三?」トリガーがふたたび声をかける。
「ああ……」勇三は吐息を漏らすようにして答えた。
「準備が済んだら出発だ。手遅れになっては意味がない」

 勇三は頷くと、トリガーの指示で榴弾砲をライフルにとりつけた。

「しかし、まさかおまえが一緒についてきてくれるなんてな」
「それ、本気で思ってないだろ?」弾倉を上着のポケットに入れながら勇三が言う。「本当はおれがついていくってわかってたんだろ。なのに、最後に謝らせろなんて言いやがって」
 睨みつける勇三の視線をトリガーは真っ向から受け止めると、「こんな身体ではできることは限られてくるからな、使えるものはなんでも使わせてもらう」
「おれを最初に仕事させたときもそんな感じだったよな」
「聖人君子でも相手にしてるつもりか? おれたちは傭兵で、それ以前にずるい大人なんだ」
「そのナリで言えたことかよ」

 準備を終えた勇三は立ち上がった。

「まあ、死にそうな子供を見捨てるってのも夢見が悪いか」
「すまない……」言いながらトリガーも立ち上がった。「それに、ヤマモトたちのことは残念だった。いいやつだったよ、あいつは」

 トリガーの言葉に、勇三は靴を履く動きを止め、そして小さく呟いた。

「『まともなまま生きていけ』か……」
「なんだって?」
「いや、なんでも。そういえばヤマモトさんが言ってたんだけど、クレオパトラって偉大な発明家だったのか?」

 勇三の言葉に、トリガーはわずかに面食らったような顔を浮べた。

「あいつ、まだそんなこと言ってたのか」苦笑するようなトリガーの表情には、同時になにかを懐かしむ様子がうかがえた。「なに、ちょっとした軽口さ」

 はぐらかされはしたものの、その答えに不満は無かった。トリガーの表情に、一瞬だけ微笑みが覗いたように見えたからだ。
 霧子を救出するという共通の目的を前に、ふたりの意志はひとつに束ねられていた。

 唯一残された懸念材料について、トリガーが口を開く。

「ところで、おれはまたあんな格好でバイクに乗らないといけないのか?」
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