ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ

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 実際のところ、間一髪だった。
 勇三たちが駆けつけたまさにそのとき、見上げるほど巨大な怪物が霧子を丸飲みにしようとしていたからだ。
 激しい銃撃のせいで、霧子自身も近づきつつあるバイクのエンジン音や自分を呼ぶ声に気づいていなかったのだろう。
 もはや一刻の猶予もないと悟った勇三は霧子と怪物の手前でバイクを止め、ライフルを手にとった。

 咄嗟の行動だった。無意識のうちに身体が覚えていた射撃体勢をとった勇三は、ライフルの連射と榴弾を怪物にむけて放ったのだ。的が大きかったのもあったが、すべての弾丸が相手に命中した。

「霧子!」手放したライフルの重みを肩のストラップ越しに感じながら、勇三は叫んだ。

 振り返った霧子は棒立ちになったまま、バイクにまたがった勇三と燃料タンクにしがみついたトリガーを見ていた。

「なにやってるんだ、早く乗れ!」

 勇三がふたたび強い声で呼びかけると、霧子は弾かれるように走り出した。背後では早くも怪物が不意打ちから立ち直ろうとしている。
 怪我をしているのだろうか、右足を引きずるようにして駆ける霧子は、それでもひらりと舞うようにして後部座席に腰を落とした。直後にバイクはアイドリングから一変、力強いエンジンの唸りとともにタイヤで地面に噛みついた。

「遅くなってすまない」トリガーが霧子を振り返る。「バイクが乗り入れられる昇降機が近くになかったもんでな」
「どうしてここに――」
「喋るな。舌噛むぞ」霧子の問いかけを塞ぐように勇三が言う。

 背後で怪物の咆哮がこだまする。サイドミラーを見ると、怪物がその大口を開け、高速の舌を打ち出してきた。高速の肉のかたまりが彼らの頭上を通り過ぎ、砲弾のようなスピードとともに正面の建物に直撃する。

「なんだよ! あれ?」勇三が思わず叫ぶ。
「まずいぞ、スピードを落とせ!」エンジン音にかき消されまいと、霧子も声を荒げた。

 霧子が正面を指さす。それに呼応するように、曲がり角に面した壁に大きな亀裂が走った。よく見れば、周囲の建物は地震でも起きたかのようにぼろぼろになっている。
 怪物が自分たちをここに閉じ込めるつもりだということを、勇三は直感した。ちょこまかと動くちっぽけな獲物の逃げ道を塞いでやろうと考えているのだ、と。

 脆くなった正面の壁が、めくれるように剥がれ落ちていく。その巨大な塊が街灯とのコントラストで黒い影を落とすのを見て、勇三の指が思わずブレーキレバーにかかる。

「止まるな!」それを制止したのはトリガーだった。「止まれば俺たちの負けだ! とにかく走り抜けろ!」

 手首の辺りにトリガーの柔毛、背中越しに霧子の存在を感じ、恐れが消えた勇三の眼差しに覚悟がとってかわった。
 彼はブレーキレバーから指を離すと、逆にスロットルを引き絞った。バイクがスピードをあげ、周囲の視野が狭まっていく。背後で霧子が腰に手を回してきたが、振り返る余裕はなかった。
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