ReaL -墓守編-

千勢 逢介

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第四章・エンド・オブ・ストレンジャーズ

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 トリガー、霧子、勇三の三人がいっせいにそちらを振り返る。いずれの瞳にも恐れや諦めの念は宿っていなかった。勇三は不意に、このふたりと肩を並べられていることに誇りを感じた。

「そうだ、霧子」怪物から目を離さないまま勇三は言った。「初めて会ったときにやってたみたいな盗み。あれもうやめろよな。やりくりが大変なら、おれも手伝うからさ」
「勇三……」
「相手が誰だろうと、仲間にそんなことしてほしくないんだ」
「わかった。考えとくよ」
「あのなぁ」
「ふたりとも、まずはこの場を切り抜けてからだ」トリガーがその長い鼻先についた口をにやりと歪めながら割って入った。「生き残ろう。勇三、あの化け物にケツをかじられるなよ」
「上等」霧子の答えはひとまず棚上げに、勇三はバイクのハンドルに手をかけると、威勢良くエンジンを空ぶかしした。「ふたりとも、あんまり速いからって泣きベソかくなよ」

 鋭いエンジンの高鳴りとともに、バイクはふたたびそのヘッドライトで<アウターガイア>の闇を切り裂いた。直後に怪物が咆哮をあげ、三人へと追いすがってくる。

 スピードをあげたバイクは早くも次の曲がり角へと到着した。はじめと終わりの直線を結ぶこの道路は、それ自体が短かったからだ。
 怪物がその巨体をじゅうぶんに加しきれていなかったおかげで、勇三はさきほどよりも余裕のあるハンドルさばきで角を曲がった。

「あとはこの直線を進むだけだ!」励ますようにトリガーが言う。

 背後の角から怪物の巨体がコーナーにあらわれた。
 先ほどとは違い、角を曲がりながら足を小刻みに動かして、ドリフトするようにこちらを向いた姿勢を維持している。勇三たちと同じく、怪物もまたこの直線で決着をつけるつもりなのだろう。
 怪物の口が薄く、ゆっくりと開かれる。

 勇三の腰にまわされた腕の力が緩んだかと思うと、霧子の身体が離れていった。
 異変に気づいて思わず振り返ると、走行中のバイクの上で身をひるがえした霧子がシートの上に仁王立ちになっているのが見えた。

「なにやってるんだ!」エンジン音に負けじと勇三が言う。
「やつが仕掛けてくる」勇三に背中を向けたまま、霧子が右手をスカートの中のホルスターに伸ばす。「なるべくまっすぐ走るんだ」

 勇三は大人しく視線を前に戻すと、なるべくハンドルをぐらつかせないようにしながら一定の速度をたもった。

 怪物が不気味な薄笑いでも浮べるように口を半開きにしたまま、わずかに追跡のスピードを緩める。対する霧子は、拳銃を握った手をだらりと下げたまま相手を見据えていた。

 この巨大なレギオンと拳銃使いの少女の最後の勝負は、一瞬のうちに決着がついた。
 怪物の口中でバネのように力を蓄えた舌が、強靭な筋力によって打ち出され、砲弾のような速度で獲物へと伸びている。
 同時に霧子の拳銃も火を吹いていた。持ち前の動体視力と反射神経で、定められた正確な狙いで弾丸が飛んでいく。それはさながら西部開拓時代のガンマンか、あるいは達人の居合い抜きのような早業だった。

 はたして、両者の飛び道具は空中で激突し合った。
 霧子が放ったのはちっぽけな弾丸だったが、その質量以外は速度、硬度、比重、さらには運動エネルギーにおいて勝っていた。
 回転をともなった弾丸はその推力を失うことなく、あまつさえ怪物の舌など歯牙にもかけず自らの軌道を進み続けた。
 ふたつの弾丸によって縦に裂かれた舌が、パーティテープのように宙を踊る。怪物はこの戦いにおいてはじめて味わった苦痛により、恨み言のような叫びをあげた。

「わたしに同じ技を三度も使うとはな」霧子は言いながら、ひらりとシートに戻った。「凡策なんだよ」
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