50 / 85
予想外
しおりを挟む祭壇の前で膝を折ったイブの祈りを全員が静かに見守る。
すると、フロア中の貴族たちが窓の外を見てざわつき始めた。
「雨よ!!」
「本当に、雨が降った……」
「聖女様はお力を取り戻したんだな」
「ああ長かったわね。ダメ聖女には心配させられたわ」
「これでやっと安泰だ」
窓の外に細い雨を見たものたちが口々に感想を述べる。クリスはガバッと立ち上がり、窓に張り付いて外を見た。
「信じられない!!本当に雨を呼んだ!」
見上げるほど背の高いクリスの後ろに立って、アーサーがにやつく。
「これが聖女の力だよ」
「俺がこんなにあっさり負けてしまうなんて!おもしろ!」
アーサーが口端を上げて微笑む。
クリスは、本当に降り始めた雨に口をあんぐり開けて唖然としていた。
「感激だ!!このものすごい力を持った聖女様にご挨拶させてくれ!」
「もちろん」
玩具がほしくてたまらない目をしたクリスが、アーサーの手を両手で握って興奮した声を出す。
アーサーは満足に頷いて、祭壇に目をやった。
(これで、良い条件が付けられる……ってあれ?)
祭壇の前で祈りを終えたイブの様子がおかしかった。
真っ青な顔でふらついた次の瞬間、イブは脱力して床に倒れてしまった。
「聖女?!」
アーサーがすぐに倒れたイブに駆け寄るが、イブの顔に血の気が全くない。アーサーが迷わずイブを横抱きに抱き上げる。
「ビクター先生を呼べ!」
使用人に指示を出して、アーサーは抱き上げたイブをニナの待つ部屋へと運んだ。
アーサーがイブを抱いて去る様子を傍観していた国王は、足を組みかえて深いため息をついた。
「もう発作か?あまりにも早すぎる」
国王が左右に控えた老貴族たちに視線を送れば、誰もが頷く。
「やはりダメ聖女か。
我が妻には遠く、及ばないな」
老貴族たちは、命を捧げて祈り、雨を降らせた聖女をクツクツ嘲った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる