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21 立場と過去とこれからのこと
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ヨシュアは、西で相談役として忙しくしている間に、東の宮(とカイル)によって、いつの間にやら官吏とされていた。いつぞや受けさせられた試験がそれだったらしい。
その後、西の宮の相談役を解かれると、戻った東に落ち着く暇もなく、各地を回らされた。地方官を歴任するヨシュアの傍には、時折、大きな白い狼がいたとかいなかったとか。
一方、シファは西の宮の姫の教師を続け、姫に付き添って西と東を行き来した。
二人は何度もすれ違い、そうして、どうにも我慢ならなくなったヨシュアがシファに結婚を申し込むのは、随分と後のことである。
※
シファは今更と言い、ヨシュアは今更だから断るなと言う。
「官吏となられたのですから、それ相応の結婚をなさいまし」
そう言ってシファは相手にもしない。ヨシュアの元にこれでもかと縁談が持ち込まれていたのは、東の宮経由でシファの耳にも入っていたのである。
それならば官吏を辞めたら自分と結婚するか? とヨシュアに問われて、シファは呆れてしまう。
シファが「結婚する」と言えば、本当に官吏を辞めそうなヨシュアである。そうなれば、東の宮に迷惑がかかる。
「そのような無責任なことを口になさる方とは、いずれにしても結婚などいたしません」
そう言って、シファが一方的に話を打ち切った。後日、ヨシュアの元にはあの日覆いが返された。
※
東西を結ぶ新しい街道には宿場町ができ、大いに賑わっていた。そのうち街道に沿って街が広がっていきそうである。関所を増やすかという話もされている。
この発展の基礎を作ったのは間違いなくヨシュアだ。
町の賑わいを見ながらシファは思う。
ヨシュアは何かを創り出すことができる。道をつなぎ人と人を繋ぐ。対して自分は、とシファは苦く思う。
崩れる落ちる南の宮。道半ばで儚くなった先帝。シファは滅ぼすばかりだ。
もちろん、先帝の崩御についてはシファの力が及ぶところではない。しかし、日ごと頼りなくなっていく主人を前に何もできなかった辛さは、今もシファの胸に澱となっている。
女官の身ゆえに側にあっても、視線さえ交わすことは許されなかった。そんなシファと主人の間に何も起こりようがないのは明白なのに、周りはそうとは見てくれなかった。
それは、自分の内心を見透かされたようで。
女官時代のシファの恋人たちは、お手付きの噂を否定するために存在するようなものだった。長続きしなかったのは、カイルの存在だけでなく、シファ自身にその気がなかったからだ。それにシファが気付いたのは、ヨシュアに結婚を申し込まれてからであったが。
伝えられなかった想いは、今もシファの胸の奥底にある。一生消えることはない。
それとは別に、ヨシュアへの好意は確かにあって、しかし、だからこそヨシュアとは結婚すべきでないとシファは思う。
東西二人の宮に認められているのはヨシュアの強みであるが、嫉妬も呼ぶ。警戒もされる。
平民出のヨシュアは北の宮の実力者の娘とでも結婚しなければ、この先は難しかろう。
外の賑わいをよそに、シファは宿の一室でふっと息を吐く。そうすると、いつのまにか現れたシロがすり寄ってきた。
「あら、シロ。どうしたの?」
シファは困った顔をして、シロを撫でてやる。
シロたちは、時折、勝手にやってくることがある。思いもしない行動をすることがある。シファが初めてヨシュアと話をすることになった時もそうだった。シファの制止も聞かずにシロたちはヨシュアに走り寄った。
精霊に自分の気持ちを教えられるなんて。教えられるまで分からなかったなんて。
今もそう。
シロが悲しげに鳴く。
それを見ながらシファは思案する。
もう、日覆いも返してしまった。
シファはヨシュアの好意を拒否した。
残る護衛の契約をどうするか。
ヨシュアも一角の官吏となった。それ以前に財も蓄えている。自力で十分な護衛も雇える。
──もうシファはヨシュアに必要でない。
※
一人で仕事をしていたヨシュアは、机の側で大人しくしていた白い狼が、急にウロウロとし出したのに驚く。
「どうした?」
呼びかけに、ユキが頭を擦り寄せてくる。ヨシュアはユキを撫でてやるが、ユキは落ち着かない。
悲しげに鳴く様子はいつもにはないことで、もしや、シファに何かあったか、と思う。
しかし、それなら自分のところなどにはいないで、シファの元にいるだろうし。
そうヨシュアが考えているうちに、ユキは落ち着いた。ヨシュアの側でまどろみ始める。
精霊も眠るのか、とヨシュアは感心して、ふと、ここで眠るのがシファだったら、と考えるのだった。
仕事に戻ったものの、全く集中できなくなったヨシュアは、書類を投げて、シファから返された日覆いを手に取る。
ヨシュアのものであった時よりも長い時間シファのものであったそれは、丁寧に使われて程よく柔らかくなり、手になじみの良い物となっていた。
品は元々良いものであったから、使えば使うほど味が出る。染め直せば、まだまだ使える。
その日覆いを返されて、流石のヨシュアも落ち込んでいた。
だが、しかし、とヨシュアは思う。
──まだ護衛の契約がある。
西の宮を通さねば、契約は破棄できない。契約に西の宮が噛んだのを当時は面倒に思っていたが、今となってはありがたいと思うヨシュアだ。
シファに結婚を断られるなど承知の上。その昔、当たって砕けて散れと言われたが、そんな気はさらさらない。
孤児から身を立てたヨシュアは、シファが思う以上に、あきらめが悪かったのである。
その後、西の宮の相談役を解かれると、戻った東に落ち着く暇もなく、各地を回らされた。地方官を歴任するヨシュアの傍には、時折、大きな白い狼がいたとかいなかったとか。
一方、シファは西の宮の姫の教師を続け、姫に付き添って西と東を行き来した。
二人は何度もすれ違い、そうして、どうにも我慢ならなくなったヨシュアがシファに結婚を申し込むのは、随分と後のことである。
※
シファは今更と言い、ヨシュアは今更だから断るなと言う。
「官吏となられたのですから、それ相応の結婚をなさいまし」
そう言ってシファは相手にもしない。ヨシュアの元にこれでもかと縁談が持ち込まれていたのは、東の宮経由でシファの耳にも入っていたのである。
それならば官吏を辞めたら自分と結婚するか? とヨシュアに問われて、シファは呆れてしまう。
シファが「結婚する」と言えば、本当に官吏を辞めそうなヨシュアである。そうなれば、東の宮に迷惑がかかる。
「そのような無責任なことを口になさる方とは、いずれにしても結婚などいたしません」
そう言って、シファが一方的に話を打ち切った。後日、ヨシュアの元にはあの日覆いが返された。
※
東西を結ぶ新しい街道には宿場町ができ、大いに賑わっていた。そのうち街道に沿って街が広がっていきそうである。関所を増やすかという話もされている。
この発展の基礎を作ったのは間違いなくヨシュアだ。
町の賑わいを見ながらシファは思う。
ヨシュアは何かを創り出すことができる。道をつなぎ人と人を繋ぐ。対して自分は、とシファは苦く思う。
崩れる落ちる南の宮。道半ばで儚くなった先帝。シファは滅ぼすばかりだ。
もちろん、先帝の崩御についてはシファの力が及ぶところではない。しかし、日ごと頼りなくなっていく主人を前に何もできなかった辛さは、今もシファの胸に澱となっている。
女官の身ゆえに側にあっても、視線さえ交わすことは許されなかった。そんなシファと主人の間に何も起こりようがないのは明白なのに、周りはそうとは見てくれなかった。
それは、自分の内心を見透かされたようで。
女官時代のシファの恋人たちは、お手付きの噂を否定するために存在するようなものだった。長続きしなかったのは、カイルの存在だけでなく、シファ自身にその気がなかったからだ。それにシファが気付いたのは、ヨシュアに結婚を申し込まれてからであったが。
伝えられなかった想いは、今もシファの胸の奥底にある。一生消えることはない。
それとは別に、ヨシュアへの好意は確かにあって、しかし、だからこそヨシュアとは結婚すべきでないとシファは思う。
東西二人の宮に認められているのはヨシュアの強みであるが、嫉妬も呼ぶ。警戒もされる。
平民出のヨシュアは北の宮の実力者の娘とでも結婚しなければ、この先は難しかろう。
外の賑わいをよそに、シファは宿の一室でふっと息を吐く。そうすると、いつのまにか現れたシロがすり寄ってきた。
「あら、シロ。どうしたの?」
シファは困った顔をして、シロを撫でてやる。
シロたちは、時折、勝手にやってくることがある。思いもしない行動をすることがある。シファが初めてヨシュアと話をすることになった時もそうだった。シファの制止も聞かずにシロたちはヨシュアに走り寄った。
精霊に自分の気持ちを教えられるなんて。教えられるまで分からなかったなんて。
今もそう。
シロが悲しげに鳴く。
それを見ながらシファは思案する。
もう、日覆いも返してしまった。
シファはヨシュアの好意を拒否した。
残る護衛の契約をどうするか。
ヨシュアも一角の官吏となった。それ以前に財も蓄えている。自力で十分な護衛も雇える。
──もうシファはヨシュアに必要でない。
※
一人で仕事をしていたヨシュアは、机の側で大人しくしていた白い狼が、急にウロウロとし出したのに驚く。
「どうした?」
呼びかけに、ユキが頭を擦り寄せてくる。ヨシュアはユキを撫でてやるが、ユキは落ち着かない。
悲しげに鳴く様子はいつもにはないことで、もしや、シファに何かあったか、と思う。
しかし、それなら自分のところなどにはいないで、シファの元にいるだろうし。
そうヨシュアが考えているうちに、ユキは落ち着いた。ヨシュアの側でまどろみ始める。
精霊も眠るのか、とヨシュアは感心して、ふと、ここで眠るのがシファだったら、と考えるのだった。
仕事に戻ったものの、全く集中できなくなったヨシュアは、書類を投げて、シファから返された日覆いを手に取る。
ヨシュアのものであった時よりも長い時間シファのものであったそれは、丁寧に使われて程よく柔らかくなり、手になじみの良い物となっていた。
品は元々良いものであったから、使えば使うほど味が出る。染め直せば、まだまだ使える。
その日覆いを返されて、流石のヨシュアも落ち込んでいた。
だが、しかし、とヨシュアは思う。
──まだ護衛の契約がある。
西の宮を通さねば、契約は破棄できない。契約に西の宮が噛んだのを当時は面倒に思っていたが、今となってはありがたいと思うヨシュアだ。
シファに結婚を断られるなど承知の上。その昔、当たって砕けて散れと言われたが、そんな気はさらさらない。
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