宰相さんちの犬はちょっと大きい─契約編─

すみよし

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26 それではヨシュアさん、さようなら ※暴力・残酷描写有り

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 一瞬で刺客たちは全て消えた。否、一人がシファの結界によって遠くの木に捕らえられている。ヨシュアがよく見れば、男はシファの槍に肩を貫かれ、木に打ち付けられていた。

 ゆっくりと男に近づいたシファは振り返ってヨシュアに聞く。

「ヨシュアさんこの男の方に見覚えは」

「ああ、確か今朝、そう、今朝、関所で行き合いました」

 遅れて木のそばに来たヨシュアが答える。

「あの時はごく普通の旅の商人のなりでしたが、やけに手続きが早く終わる者がいると妙に思ったので覚えています」

「さようでございましたか」

 シロお願い。
 シファは囁くと同時にいきなり槍を抜く。  

 男の肩から血が噴き出る。だがその一滴でさえ、シファの結界を抜けることは無い。返り血を浴びることもないシファの顔は綺麗なままだ。痛みにか失血にか、男が失神した。

 シファに止血をしてやる気はない。上半身を見る見る血に染めていく刺客をシロが咥えてどこかへ消える。

西の宮さまいつものところへやったのですか?」

「ええ。あなたの前では絶対に死人を出してはならぬと西の宮さまに申しつかっております」

 とは言っても、西の宮の地下牢で結局彼らは死ぬ。

 貴方の見えないところで手を血に染める人間がいる。
 貴方の見えないところで貴方に関わったばかりに死ぬ人間がいる。
 
 シファがそう示してやっても、ヨシュアの顔色は変わることはなかった。

 それなら北の宮の前にでも捨てて大騒ぎにしてやった方があの刺客としてはまだ報われたかもしれない。そんな風にシファは考えて、随分自分は気が立っていると思う。

 シファは改めてヨシュアを見る。

 槍を片手に人気の無い防砂林をお散歩する女など普通でない。
 ヨシュアはそんな女に不用意に近づいてきたりする。刺客相手とはいえ、シファの残虐な様を見ても顔色一つ変えない。

 呑気なのか鈍感なのか、そんな男はもう勝手にすれば良い。シファがあれこれ気にすることも、いい年した男の将来を案じてやることも無いのだ。

「お掃除は終わりましたから私は帰ります」

 槍についた血の始末をし、戻ってきたシロにヨシュアを宿まで送るように頼む。そしてシファは自分の身に日覆いをかけ直す。

日覆いこれは残りの依頼料の代わりとして頂きます。ですから来月からの支払いは結構です」
「それだと随分と安く買い叩かれたことになりますが」

 ヨシュアが苦笑するのに、シファは笑って告げる。

「それではヨシュアさん、さようなら」

 あくまで自分に執着するのなら、無手のまま北の宮に行って喰われてしまえばいい。

 そうなっても、この愚かな男は少しも後悔しないだろうから。
 
 

 でももし、ヨシュアがそんなことになったなら。

 シファは日覆いをやわりと掴む。そうしたまま、ヨシュアがシロに咥えられて消えるのを見送った。

 ※

 それから一週間後。シファは北の都にいた。
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