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28 面倒くさいきょうだいの話
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一杯の奢りで引き受けた面倒ごとを様々に解散させたリヒトは、今また場所を変え、カイルと飲んでいる。
シファはすでに西へ向けて発った後。この妹思いの兄貴は、リヒトの足止めを買って出たらしい。別にシファを追う気もなかったリヒトは、侍従殿の珍しい誘いに乗ることにした。
しかし、この誘いに乗ったことを、リヒトはちょっとだけ後悔する。
カイルの様子が暗い。
嵐の前に垂れ込める厚い雲のような。
あるいは鬱蒼とした森の奥の、日の射さぬ洞窟の入り口のような。
とにかく世の中のどんよりと重たいものを寄せ集めてきたかのように暗いのだ。
そんなカイルが「うっかり抹殺するかも」と真顔で漏らしたのを、リヒトは笑えなかった。
──コイツ、ヨシュアさんを殺りかねん。
リヒトは、自分なんかにすがってくるの女の気持ちはさっぱり分からないが、今のカイルの気持ちは多少想像がつく。
この奇妙な義兄妹のむかしから今までを知っているからだ。
正に命を賭して守ってきた大切な妹を、赤の他人に横から掻っ攫われるのだ。
それはいつか来ても不思議ではなく、普通といえば普通なのだが、寂しくはあるだろうし、寂しさが行きすぎては悲しくて、腹も立てば憎くもなるかもしれない。しかし。
「アンタがヤバくなったら俺が止めろと? 俺が何か言ったって、アンタ聞きゃあしないでしょう」
「ええ、ですから、力づくでお願いします。時間稼ぎでもして頂ければ、そのうち正気に戻るかも」
「いや、それ、俺がアンタに痛めつけられるの前提で言ってません?
しかも『戻るかも』って、戻らなかった場合、俺は死んじゃうかも? なんですけど?」
まあそうかも、とまじめくさって言うカイルに、リヒトが勘弁してくれとがなる。
「それでなくったって、あの二人に始終つくのはごめんですよ?」
ヨシュアはもとより、シファだって宰相に目をつけられているのだ。巻き込まれるのは嫌である。
「今更何を。私にこうして会っているだけであなたも関係者ですよ」
「は⁉︎」
「ヨシュアさんをこちらに引き入れたいのは私ですし」
「は⁉︎ なのに抹殺したい訳⁉︎」
「そうなんですよ。しかし、ヨシュアさんはそもそも東の宮様が」
リヒトはハイハイハイハイとカイルを遮る。
「分かりましたー! って分かりませんけど帰って色々伺います! とにかくヤバくなったら引き剥がせってくらいなら、まあ、偶々そこにいた時くらいは引き受けますよ。ウチにゃヨシュアさん必要ですから、そうそうアンタにやられちゃたまりません」
本当堪らない。カイルもシファも、さらにヨシュアまでが北に取り上げられる。
これ以上厄介なことを言われる前に引き上げよう。そう考えたリヒトだったが、遂に溢してしまう。
「ねえ、だったらアンタが東に戻るってのはどうです?」
魔が差したとしか言いようがない。つい、鋭い目を向けてしまったリヒトだが、それを受ける侍従殿は、今は緩く微笑んでいる。それにも腹が立つリヒトは、険しい顔を改めずに言う。
「アンタが、アンタだけじゃなくって、みーんな東に戻ってくりゃいいんだ。こっちだってどこだって正味な話、」
「それ以上は聞きませんよ」
カイルが席を立つ。
「あなたこそ北の宮へはいらっしゃらないのですか? 先程の方々の中には、あなたに会いにいらした方もいる様でしたが?」
言い当てられてリヒトは肩を竦める。
「俺には興味ない話ですよー。俺の主人は一人だけだってのに、もうしつこいのなんの? 近頃帰るたびにあんな感じで、おちおち女とも逢えやしない。そんな無粋な奴ら送り込んでくる奴らの所になんて、俺は真っ平御免ですよ」
シファはすでに西へ向けて発った後。この妹思いの兄貴は、リヒトの足止めを買って出たらしい。別にシファを追う気もなかったリヒトは、侍従殿の珍しい誘いに乗ることにした。
しかし、この誘いに乗ったことを、リヒトはちょっとだけ後悔する。
カイルの様子が暗い。
嵐の前に垂れ込める厚い雲のような。
あるいは鬱蒼とした森の奥の、日の射さぬ洞窟の入り口のような。
とにかく世の中のどんよりと重たいものを寄せ集めてきたかのように暗いのだ。
そんなカイルが「うっかり抹殺するかも」と真顔で漏らしたのを、リヒトは笑えなかった。
──コイツ、ヨシュアさんを殺りかねん。
リヒトは、自分なんかにすがってくるの女の気持ちはさっぱり分からないが、今のカイルの気持ちは多少想像がつく。
この奇妙な義兄妹のむかしから今までを知っているからだ。
正に命を賭して守ってきた大切な妹を、赤の他人に横から掻っ攫われるのだ。
それはいつか来ても不思議ではなく、普通といえば普通なのだが、寂しくはあるだろうし、寂しさが行きすぎては悲しくて、腹も立てば憎くもなるかもしれない。しかし。
「アンタがヤバくなったら俺が止めろと? 俺が何か言ったって、アンタ聞きゃあしないでしょう」
「ええ、ですから、力づくでお願いします。時間稼ぎでもして頂ければ、そのうち正気に戻るかも」
「いや、それ、俺がアンタに痛めつけられるの前提で言ってません?
しかも『戻るかも』って、戻らなかった場合、俺は死んじゃうかも? なんですけど?」
まあそうかも、とまじめくさって言うカイルに、リヒトが勘弁してくれとがなる。
「それでなくったって、あの二人に始終つくのはごめんですよ?」
ヨシュアはもとより、シファだって宰相に目をつけられているのだ。巻き込まれるのは嫌である。
「今更何を。私にこうして会っているだけであなたも関係者ですよ」
「は⁉︎」
「ヨシュアさんをこちらに引き入れたいのは私ですし」
「は⁉︎ なのに抹殺したい訳⁉︎」
「そうなんですよ。しかし、ヨシュアさんはそもそも東の宮様が」
リヒトはハイハイハイハイとカイルを遮る。
「分かりましたー! って分かりませんけど帰って色々伺います! とにかくヤバくなったら引き剥がせってくらいなら、まあ、偶々そこにいた時くらいは引き受けますよ。ウチにゃヨシュアさん必要ですから、そうそうアンタにやられちゃたまりません」
本当堪らない。カイルもシファも、さらにヨシュアまでが北に取り上げられる。
これ以上厄介なことを言われる前に引き上げよう。そう考えたリヒトだったが、遂に溢してしまう。
「ねえ、だったらアンタが東に戻るってのはどうです?」
魔が差したとしか言いようがない。つい、鋭い目を向けてしまったリヒトだが、それを受ける侍従殿は、今は緩く微笑んでいる。それにも腹が立つリヒトは、険しい顔を改めずに言う。
「アンタが、アンタだけじゃなくって、みーんな東に戻ってくりゃいいんだ。こっちだってどこだって正味な話、」
「それ以上は聞きませんよ」
カイルが席を立つ。
「あなたこそ北の宮へはいらっしゃらないのですか? 先程の方々の中には、あなたに会いにいらした方もいる様でしたが?」
言い当てられてリヒトは肩を竦める。
「俺には興味ない話ですよー。俺の主人は一人だけだってのに、もうしつこいのなんの? 近頃帰るたびにあんな感じで、おちおち女とも逢えやしない。そんな無粋な奴ら送り込んでくる奴らの所になんて、俺は真っ平御免ですよ」
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