宰相さんちの犬はちょっと大きい─契約編─

すみよし

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30 善良な兄弟子の話

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 味方が欲しい、とは言った。しかし。

「平民か」

 宰相補佐セルウィウスの眉間にシワが寄る。

「私に、どこの馬の骨とも知れん者を支援しろと」

 これぐらいの反応は予想の範囲であったのだろう、カイルは事もなげに言う。

「私だって、出自など知れたものではないですよ?」

 にこりと微笑む今上侍従を、セルウィウスが鼻で笑う。

「確かにな」

 帝国史に残る最大の内戦、南の宮陥落。その混乱の最中、砦地下から保護された子ども。それがカイルとシファだ。

 この曰く付きの二人が北の宮に召喚された初め自分の近侍とされたのを、南の宮の姫を母に持つセルウィウスは、偶然だとは考えなかった。

 しかし、後にこの二人と引き離された理由は分からない。セルウィウスの手足となるはずだった彼らは、ある日突然、先帝セオルドの侍従と女官とされた。

 西の宮が探っても、東の宮が詰め寄っても、先帝セオルドは、ついにその真意を誰にも明かさなかった。

 だが、今上侍従となったカイルに相対した者は、今は亡き先帝セオルドの無念を眼前に突きつけられているような気にさせられる。

 そうして、その片割れ──今は宮を出てしまったシファ──を思う。いつ何時アレがそのようになるか、と怯える者もいるのだ。
 その最たるは、我が父宰相だろう。

 セルウィウスは、ため息混じりに聞く。
 
「それで、その平民とシファが何の関係がある?」

 カイルは途端に渋面になる。

「……やっぱり、色々、面倒ですよねえ……」

 まあ、代わりはつくればいくらでも。

 などと呟く不穏な弟弟子に、セルウィウスは、これはまずいと判断する。

「カイル?」

 なんだかよく知らんが、今上侍従が、おそらくは私怨で一人の平民を危機に陥れようとしている。
 政の思惑からその元商人の排斥を企む父宰相より、タチが悪い。

 セルウィウスは仕方なく言う。

「とりあえず、そのヨシュアとやらのこと、話だけは聞いてやる」

 北の宮最後の良心。
 それが西の宮の、セルウィウスに対する評価である。

 ※

 結局、シファとヨシュアの関係についてどうにも口にしないカイルに業を煮やしたセルウィウスは、後日、自ら西の宮を尋ねた。

 そうして、これ以上なく脱力したセルウィウスは、居合わせた東の宮に大笑いされるのだった。
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