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第三章
08 生きていくので(1/2)
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最初は、縹の話にとことん向き合うつもりのザイであったが、暫くして気付く。
──だめだ、これ、終わらないやつだ。
永い時を生きる精霊にとっては、一晩などそれこそ須臾の時だろう。しかし、ザイにとっては中々に長い時間である。
──帰ったら結婚の話がまとまってたりして。
物凄くあり得る。
出立の朝、宰相邸に立ち寄ったザイは一応、母に父を止めてくれとは言ってみた。しかし、宰相夫人は「無理」と即答した。
「お相手がセラさんなら、私も止める理由はありませんし」
ころころと笑う宰相夫人を前に、ザイは愕然とする。まさかの埋め隊がここにもいた。詰んだ。
「でもね、僕は、本当、セラを幸せには、」
「ザイ、セラさんはあなたと結婚すれば、幸せになると思いますよ」
ぐだぐだと続けようとしたザイを遮って、夫人は言う。
「ザイはどうだか知りませんが」
「ええ?」
怪訝な顔の息子に夫人が言う。
「もちろん、ザイではない他の方と結婚しても、ザイともどなたとも結婚しないでいても、セラさんは幸せになるでしょう」
「……うん、そうだね」
気まずげにため息を吐く息子を夫人は面白そうに見る。
「道中気をつけて。御命令なら仕方がないけれど、精霊との契約は勧めませんよ」
「どうして? 母さんは後悔してるの?」
「私は精霊とは契約しておりませんから、分かりかねます」
まだ言うか、とザイは呆れる。
「つまり、そういう事にしたいくらい後悔してるってことで良い?」
笑って答えない夫人に、ザイも笑う。
「父さんは幸せだね」
「だといいですね」
昨日陛下がわざわざおいでた訳をお聞きしたいのだけれど、今日はお帰りになるかしら? と微笑む母。目が笑ってない。
父のお陰で母が竜王を知ることを報告せずに済んだザイは、「父さん、ご健闘を!」と祈るのだった。
※
跡をつけてくる刺客やら密偵やらを引き連れてザイは東に向かい、物騒なのは始末し、それほどでないのは撒き、ちょっと気になるのは、お使いに報告を頼み、ザイが直に「お話」もした。
「お話」をした皇妃様のお使いは、バレたのなら仕方がない、ご一緒いたしましょう、などと堂々と言うのでザイは笑ってしまった。
すみませんがご一緒はできません。皇妃様の御心配なさることはありませんとお伝えください。そう言って送り返したけど、どうなったか。
皇妃様には復帰してからよくつけられている。
通い先を一つ見つけられてしまったのがザイには痛かった。行かなくなって随分たっているから、向こうはもう別れたものと思っているだろう。
残念と思うほどには人肌が恋しい自分に気付き、ザイは、ああ僕、ちゃんと生きてるんだなあと思う。
まだ僕は沈まずに浮いてる。
──だめだ、これ、終わらないやつだ。
永い時を生きる精霊にとっては、一晩などそれこそ須臾の時だろう。しかし、ザイにとっては中々に長い時間である。
──帰ったら結婚の話がまとまってたりして。
物凄くあり得る。
出立の朝、宰相邸に立ち寄ったザイは一応、母に父を止めてくれとは言ってみた。しかし、宰相夫人は「無理」と即答した。
「お相手がセラさんなら、私も止める理由はありませんし」
ころころと笑う宰相夫人を前に、ザイは愕然とする。まさかの埋め隊がここにもいた。詰んだ。
「でもね、僕は、本当、セラを幸せには、」
「ザイ、セラさんはあなたと結婚すれば、幸せになると思いますよ」
ぐだぐだと続けようとしたザイを遮って、夫人は言う。
「ザイはどうだか知りませんが」
「ええ?」
怪訝な顔の息子に夫人が言う。
「もちろん、ザイではない他の方と結婚しても、ザイともどなたとも結婚しないでいても、セラさんは幸せになるでしょう」
「……うん、そうだね」
気まずげにため息を吐く息子を夫人は面白そうに見る。
「道中気をつけて。御命令なら仕方がないけれど、精霊との契約は勧めませんよ」
「どうして? 母さんは後悔してるの?」
「私は精霊とは契約しておりませんから、分かりかねます」
まだ言うか、とザイは呆れる。
「つまり、そういう事にしたいくらい後悔してるってことで良い?」
笑って答えない夫人に、ザイも笑う。
「父さんは幸せだね」
「だといいですね」
昨日陛下がわざわざおいでた訳をお聞きしたいのだけれど、今日はお帰りになるかしら? と微笑む母。目が笑ってない。
父のお陰で母が竜王を知ることを報告せずに済んだザイは、「父さん、ご健闘を!」と祈るのだった。
※
跡をつけてくる刺客やら密偵やらを引き連れてザイは東に向かい、物騒なのは始末し、それほどでないのは撒き、ちょっと気になるのは、お使いに報告を頼み、ザイが直に「お話」もした。
「お話」をした皇妃様のお使いは、バレたのなら仕方がない、ご一緒いたしましょう、などと堂々と言うのでザイは笑ってしまった。
すみませんがご一緒はできません。皇妃様の御心配なさることはありませんとお伝えください。そう言って送り返したけど、どうなったか。
皇妃様には復帰してからよくつけられている。
通い先を一つ見つけられてしまったのがザイには痛かった。行かなくなって随分たっているから、向こうはもう別れたものと思っているだろう。
残念と思うほどには人肌が恋しい自分に気付き、ザイは、ああ僕、ちゃんと生きてるんだなあと思う。
まだ僕は沈まずに浮いてる。
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