子守 〜元盗賊の使いっ走りが皇子の守役になる話〜

すみよし

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本編

4 小さいのは遊びたい

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 ガレス皇子をポンポンと投げながらリヒトが言う。

「今の俺の仕事はどうするんですか⁉︎」
「部下をつけてやる。お前も人を使う事を覚えろ」
「いや、でも、俺に皇子様のお世話なんて無理です! 礼儀だって読み書きだって覚束ないのに!」

 リヒトはその生い立ちから、大人になった今でも読み書きが苦手だ。

 聞けば一度で何でも頭に入るのに、分かり易いようにと但し書きなど渡されると、途端に分からなくなる少年がリヒトだった。

 戦働きができる自分は読み書きなどいらないと強がるリヒトに、カイルが言った。

 ──戦の傷や歳で体が動かなくなったら、その先どうなさるのですか。

 今思えば、カイルはませた少年だったなとリヒトは思う。そしてひねくれたお子さまだったリヒトは、カイルに悪態をついた。何となく覚えていた不安を突かれ、苛立ったからだ。

 ──そうなったら、その辺で野垂れ死ぬ! 俺はアンタみたいなお上品な物言いは出来ないし、読み書きだっていらない。

 結局、「読み書きを覚えればお互い口をきかずに済むから」という酷い理由でカイルに熱心に教えられたお陰で、リヒトは一通りの文書を読むことはできるようになった。
 だが、書くのは今でも不自由する。先程の戦略図も、口頭で報告するなら、あの半分の時間で出来ただろう。

「礼儀だの作法だのはいずれ別の者を付ける。それでも、お前がガレスの生涯一番の師だ。どうせこんな小さいの、しばらく生きるだけで精一杯だ。どこの砂漠に放り出されても帰ってこられるように教えてやれ。それならできるだろう?」

「いや、でも、えええ?」

 非常時とはいえ、どこの馬の骨とも分からぬ者が皇子様の守役だなんて、聞いたことがない!

 混乱するリヒトをそのままに、東の宮は行ってしまった。

 後に残されたリヒトは、腕にガレス皇子を抱えたまま立ち尽くす。ガレス皇子が次の『たかいたかい』がないことに怒って暴れる。

「ああ、若様、腹は蹴っちゃいけませんよ。しかしまあ……」

 げしげしとリヒトを蹴り続けるガレス皇子を抱き抱え直して、改めて見る。

「あなた様も妙な事になられましたね」

 本来なら、東の宮の後継として多くの者に傅かれ大切にされるはずの皇子様が、こんな所でこんな自分に、ぽんと預けられてしまった。

「ねえ、殿下」

 生まれは尊くても運命とは分からないものだと不憫がるリヒトの胸中など構わぬ幼子は、さっさと遊べとリヒトの顔をベシリと叩くのだった。
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