子守 〜元盗賊の使いっ走りが皇子の守役になる話〜

すみよし

文字の大きさ
9 / 14
本編

9 小さいのは笑う

しおりを挟む
 陣を出て二日後、東の宮が戻った。

 篭城した末に身を投げた。

 ガレス皇子の父の最期をそう告げる東の宮からは、何の感傷も読み取れない。しかし、その死について一切質問を許す気がない事は、ルキウスもリヒトも分かった。

「姉上は?」

 まずは、ルキウスが聞くのに、東の宮が言う。

「ああ、ゆっくり休めば大丈夫だろう。ガレスに会いたがっていたが、留守居の元で療養させている」

 ルキウスとリヒトは胸を撫で下ろす。そして、気になっていた事をリヒトが聞く。

「で。その、担いでらっしゃる麻袋は」
「ああ、人目につくと面倒だからな」

 東の宮に麻袋からポイと放り出されたのは、今上侍従のカイルだった。

 ※

 麻袋に詰められたまま馬に揺られたカイルは、真っ青な顔をしていた。

 水を求めて息を吹き返した後、散々に抗議するカイルだったが、東の宮はどこ吹く風。

 その様子を気の毒に思ったらしいルキウスが「帰りは好きな馬に乗って帰って良い」と言うと、ようやくカイルは黙った。

 そして、リヒトに気付く。

「この度は守役へのご就任、おめでとうございますリヒト様」

 リヒト様。

 流れるようなカイルの挨拶を反芻するリヒトは思う。

 ああ、やっぱりこいつは何だかムカつく。

 ※

 東の宮とルキウスは今後のことを話し合っている。

 仕方なく、リヒトは自分とガレスの天幕にカイルを入れた。

 ガレスは熱は下がったものの寝台で眠っている。その横で、リヒトはカイルから幾つか質問を受けていたのだが、死んだ目をして言う。

「そのリヒト様ってのはやめて下さい」
「しかし貴方は何時頃からか私にも丁寧にお話になるではありませんか」

 不思議そうに聞くカイルに、リヒトはガックリしながら言う。

「それはですね、使わないと覚えないから俺は誰にだって敬語使うようにしただけなんです!」

 俺は馬鹿だから使い分けなんか出来ない、と言うリヒトは続ける。

「それに、俺が守役でも、今上侍従様の方が上でしょう?」
「まあ、そうと言えばそうなってしまいますが」

 しかし、貴方の方が年上ですし、と言うカイルに推定二ヶ月でしょうがとリヒトは言う。

「しかし、『二ヶ月先に生まれたから俺の方が年上』とおっしゃったのは、」
「俺ですけど、もう忘れて!」

 本当忘れて。
 昔、リヒトはカイルにやたら突っかかっていた。やっと得た自分の居場所を、カイルに取られるような気がしたからだ。

 カイルは、そんなリヒトの気持ちを理解していたようで、何かとリヒトを気遣っていた。それもリヒトは癪に触って全く悪循環だった。

 しかし、東の者たちのリヒトに対する態度は変わらず、リヒトの居場所がちゃんとあることに気付くうち、カイルとはケンカしつつ協力はできる間柄になっていった。

 そんな子供の頃のことをカイルに持ち出されるのは、物凄く恥ずかしい。

 リヒトが羞恥で悶絶していると、ガレスが目を覚ました。寝台を降りて、リヒトにピタリとひっつく。

「初めましてガレス様。カイルと申します」

 カイルは幼子の目線に合わせて跪き、柔らかに挨拶をする。ガレスは不思議そうに小首を傾げる。

「お母様はご無事でいらっしゃいますよ」

 ふわりと微笑むカイルに釣られるように、ガレスが笑う。初めて見るガレスの安心し切った笑顔に、リヒトは内心驚く。

 そして、しかし、と思う。子どもらしい笑顔は見えたが、相変わらず話さない。

 これぐらいの歳の子供なら、もうしゃべるはずだ。

 顔を曇らせるリヒトは、カイルと目が合う。どうやらカイルも気になっているらしい。

 カイルがもしかしたら、と言う。

「ガレス様、もう、お話なさっても平気ですよ。リヒトさんが守って下さいます」

 あやすように語りかけるカイルに、ガレスがパッと顔を輝かせる。そして、

「おはなし、する?」

 初めて聞くガレスの「言葉」に、リヒトはポカンとした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...