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本編
9 小さいのは笑う
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陣を出て二日後、東の宮が戻った。
篭城した末に身を投げた。
ガレス皇子の父の最期をそう告げる東の宮からは、何の感傷も読み取れない。しかし、その死について一切質問を許す気がない事は、ルキウスもリヒトも分かった。
「姉上は?」
まずは、ルキウスが聞くのに、東の宮が言う。
「ああ、ゆっくり休めば大丈夫だろう。ガレスに会いたがっていたが、留守居の元で療養させている」
ルキウスとリヒトは胸を撫で下ろす。そして、気になっていた事をリヒトが聞く。
「で。その、担いでらっしゃる麻袋は」
「ああ、人目につくと面倒だからな」
東の宮に麻袋からポイと放り出されたのは、今上侍従のカイルだった。
※
麻袋に詰められたまま馬に揺られたカイルは、真っ青な顔をしていた。
水を求めて息を吹き返した後、散々に抗議するカイルだったが、東の宮はどこ吹く風。
その様子を気の毒に思ったらしいルキウスが「帰りは好きな馬に乗って帰って良い」と言うと、ようやくカイルは黙った。
そして、リヒトに気付く。
「この度は守役へのご就任、おめでとうございますリヒト様」
リヒト様。
流れるようなカイルの挨拶を反芻するリヒトは思う。
ああ、やっぱりこいつは何だかムカつく。
※
東の宮とルキウスは今後のことを話し合っている。
仕方なく、リヒトは自分とガレスの天幕にカイルを入れた。
ガレスは熱は下がったものの寝台で眠っている。その横で、リヒトはカイルから幾つか質問を受けていたのだが、死んだ目をして言う。
「そのリヒト様ってのはやめて下さい」
「しかし貴方は何時頃からか私にも丁寧にお話になるではありませんか」
不思議そうに聞くカイルに、リヒトはガックリしながら言う。
「それはですね、使わないと覚えないから俺は誰にだって敬語使うようにしただけなんです!」
俺は馬鹿だから使い分けなんか出来ない、と言うリヒトは続ける。
「それに、俺が守役でも、今上侍従様の方が上でしょう?」
「まあ、そうと言えばそうなってしまいますが」
しかし、貴方の方が年上ですし、と言うカイルに推定二ヶ月でしょうがとリヒトは言う。
「しかし、『二ヶ月先に生まれたから俺の方が年上』とおっしゃったのは、」
「俺ですけど、もう忘れて!」
本当忘れて。
昔、リヒトはカイルにやたら突っかかっていた。やっと得た自分の居場所を、カイルに取られるような気がしたからだ。
カイルは、そんなリヒトの気持ちを理解していたようで、何かとリヒトを気遣っていた。それもリヒトは癪に触って全く悪循環だった。
しかし、東の者たちのリヒトに対する態度は変わらず、リヒトの居場所がちゃんとあることに気付くうち、カイルとはケンカしつつ協力はできる間柄になっていった。
そんな子供の頃のことをカイルに持ち出されるのは、物凄く恥ずかしい。
リヒトが羞恥で悶絶していると、ガレスが目を覚ました。寝台を降りて、リヒトにピタリとひっつく。
「初めましてガレス様。カイルと申します」
カイルは幼子の目線に合わせて跪き、柔らかに挨拶をする。ガレスは不思議そうに小首を傾げる。
「お母様はご無事でいらっしゃいますよ」
ふわりと微笑むカイルに釣られるように、ガレスが笑う。初めて見るガレスの安心し切った笑顔に、リヒトは内心驚く。
そして、しかし、と思う。子どもらしい笑顔は見えたが、相変わらず話さない。
これぐらいの歳の子供なら、もうしゃべるはずだ。
顔を曇らせるリヒトは、カイルと目が合う。どうやらカイルも気になっているらしい。
カイルがもしかしたら、と言う。
「ガレス様、もう、お話なさっても平気ですよ。リヒトさんが守って下さいます」
あやすように語りかけるカイルに、ガレスがパッと顔を輝かせる。そして、
「おはなし、する?」
初めて聞くガレスの「言葉」に、リヒトはポカンとした。
篭城した末に身を投げた。
ガレス皇子の父の最期をそう告げる東の宮からは、何の感傷も読み取れない。しかし、その死について一切質問を許す気がない事は、ルキウスもリヒトも分かった。
「姉上は?」
まずは、ルキウスが聞くのに、東の宮が言う。
「ああ、ゆっくり休めば大丈夫だろう。ガレスに会いたがっていたが、留守居の元で療養させている」
ルキウスとリヒトは胸を撫で下ろす。そして、気になっていた事をリヒトが聞く。
「で。その、担いでらっしゃる麻袋は」
「ああ、人目につくと面倒だからな」
東の宮に麻袋からポイと放り出されたのは、今上侍従のカイルだった。
※
麻袋に詰められたまま馬に揺られたカイルは、真っ青な顔をしていた。
水を求めて息を吹き返した後、散々に抗議するカイルだったが、東の宮はどこ吹く風。
その様子を気の毒に思ったらしいルキウスが「帰りは好きな馬に乗って帰って良い」と言うと、ようやくカイルは黙った。
そして、リヒトに気付く。
「この度は守役へのご就任、おめでとうございますリヒト様」
リヒト様。
流れるようなカイルの挨拶を反芻するリヒトは思う。
ああ、やっぱりこいつは何だかムカつく。
※
東の宮とルキウスは今後のことを話し合っている。
仕方なく、リヒトは自分とガレスの天幕にカイルを入れた。
ガレスは熱は下がったものの寝台で眠っている。その横で、リヒトはカイルから幾つか質問を受けていたのだが、死んだ目をして言う。
「そのリヒト様ってのはやめて下さい」
「しかし貴方は何時頃からか私にも丁寧にお話になるではありませんか」
不思議そうに聞くカイルに、リヒトはガックリしながら言う。
「それはですね、使わないと覚えないから俺は誰にだって敬語使うようにしただけなんです!」
俺は馬鹿だから使い分けなんか出来ない、と言うリヒトは続ける。
「それに、俺が守役でも、今上侍従様の方が上でしょう?」
「まあ、そうと言えばそうなってしまいますが」
しかし、貴方の方が年上ですし、と言うカイルに推定二ヶ月でしょうがとリヒトは言う。
「しかし、『二ヶ月先に生まれたから俺の方が年上』とおっしゃったのは、」
「俺ですけど、もう忘れて!」
本当忘れて。
昔、リヒトはカイルにやたら突っかかっていた。やっと得た自分の居場所を、カイルに取られるような気がしたからだ。
カイルは、そんなリヒトの気持ちを理解していたようで、何かとリヒトを気遣っていた。それもリヒトは癪に触って全く悪循環だった。
しかし、東の者たちのリヒトに対する態度は変わらず、リヒトの居場所がちゃんとあることに気付くうち、カイルとはケンカしつつ協力はできる間柄になっていった。
そんな子供の頃のことをカイルに持ち出されるのは、物凄く恥ずかしい。
リヒトが羞恥で悶絶していると、ガレスが目を覚ました。寝台を降りて、リヒトにピタリとひっつく。
「初めましてガレス様。カイルと申します」
カイルは幼子の目線に合わせて跪き、柔らかに挨拶をする。ガレスは不思議そうに小首を傾げる。
「お母様はご無事でいらっしゃいますよ」
ふわりと微笑むカイルに釣られるように、ガレスが笑う。初めて見るガレスの安心し切った笑顔に、リヒトは内心驚く。
そして、しかし、と思う。子どもらしい笑顔は見えたが、相変わらず話さない。
これぐらいの歳の子供なら、もうしゃべるはずだ。
顔を曇らせるリヒトは、カイルと目が合う。どうやらカイルも気になっているらしい。
カイルがもしかしたら、と言う。
「ガレス様、もう、お話なさっても平気ですよ。リヒトさんが守って下さいます」
あやすように語りかけるカイルに、ガレスがパッと顔を輝かせる。そして、
「おはなし、する?」
初めて聞くガレスの「言葉」に、リヒトはポカンとした。
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