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本編
8 小さいのは熱を出す
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「何だこれは」
「軍医の話だと、これくらいの子は何かと熱を出すもんだそうで。あ、流行り病ではなさそうなので隔離もいらないそうです」
あー、焦ったと言うリヒトは、ガレス皇子に掛布を掛け直しながら、天幕まで様子を見に来た東の宮に説明する。
「水も食べ物も召し上がってますから、心配ないそうです。大人でさえ戦地は過酷ですから、急に連れられて来た者は熱も出ますでしょう。お母上や乳母殿と離れるのも初めてでしょうし」
それだけでなく、昨夜の事も堪えているのかもしれない。
昨夜のあれは幼子に見せるものではなかったかもしれないが、将来東の宮を継ぐ皇子には見せるべきものであっただろう。
そうでなければ、あの護衛の男が報われない。東の宮に命を預ける自分たちも。
ガレス皇子を寝かしつけるのに苦労したリヒトは、欠伸を噛み殺しながらそう思う。
「そうか。しかし、世の親たちは何でこんな面倒なのを何人も欲しがるんだか。俺は一人で十分だ」
「宮様にあるまじきお言葉ですよ。ルキウス様がいらっしゃって良かったですね」
「そうだな。俺は助かっているな」
ルキウスとは、東の宮の異母弟。今は、西の宮の下で学んでいる。彼は正室との間に年子の娘が二人いる。今年もまた一人生まれる予定だ。
一方、東の宮は正室が初産で難産の末に死産となって以降、子を望まなくなった。既に生まれていた側室の子は、異母妹がガレスの父に嫁ぐと決まった際、継承争いの元になるのを防ぐため養子に出し、皇籍から抜いた。
現在、東の宮の継承順位は、ガレス、ルキウス、ルキウスの子らとなっている。
将来、ガレスに子が生まれれば、ルキウスではなく、ガレスの子が東の宮を継ぐ。
東の宮としては十分すぎる譲歩であったが、ガレスの父は気に入らなかったらしい。
挙句、謀反とは。
謀反と言っても、計画的なものでもないだろう。ガレスを手にかけようとした点からして、ガレスの父はまともな状態ではない。
ガレスの父は戦には疎いが、その魔力は東の宮を上回る。その上、東の宮の異母妹を質に取られては、留守居はもちろん、東の宮でも手に余る。
東の宮は決断する。
「カイルを借りるか」
「は⁉︎」
驚くリヒトを捨て置いて、東の宮は天幕を出て矢継ぎ早に方々に指示を出す。そして、また天幕に戻ってリヒトに言う。
「しばらく敵も動かん。ルキウスに指揮を継がせる。リヒト、お前はここでルキウスと共にガレスを守れ」
「え、ちょっ……、宮様⁉︎」
東の宮は単騎北へ向かった。
※
北の都に入る直前、東の宮の行手を遮るように、一人の男が現れた。
旅装に槍を携えた騎乗のカイルに、東の宮は片眉を上げる。
「お前、東に諜報は入れるなと言ったろう?」
「ルキウス様が突然私をお訪ねになり、東に向かうと仰られたのです」
今朝は酷かったとカイルは溜息を吐いている。流石俺の弟だと満足げな東の宮は、今上侍従に問う。
「陛下は如何に?」
「今日を含めて五日の内に収めるなら不問、と」
「充分だ! 来い!」
二騎は一路、ガレスの父を目指した。
「軍医の話だと、これくらいの子は何かと熱を出すもんだそうで。あ、流行り病ではなさそうなので隔離もいらないそうです」
あー、焦ったと言うリヒトは、ガレス皇子に掛布を掛け直しながら、天幕まで様子を見に来た東の宮に説明する。
「水も食べ物も召し上がってますから、心配ないそうです。大人でさえ戦地は過酷ですから、急に連れられて来た者は熱も出ますでしょう。お母上や乳母殿と離れるのも初めてでしょうし」
それだけでなく、昨夜の事も堪えているのかもしれない。
昨夜のあれは幼子に見せるものではなかったかもしれないが、将来東の宮を継ぐ皇子には見せるべきものであっただろう。
そうでなければ、あの護衛の男が報われない。東の宮に命を預ける自分たちも。
ガレス皇子を寝かしつけるのに苦労したリヒトは、欠伸を噛み殺しながらそう思う。
「そうか。しかし、世の親たちは何でこんな面倒なのを何人も欲しがるんだか。俺は一人で十分だ」
「宮様にあるまじきお言葉ですよ。ルキウス様がいらっしゃって良かったですね」
「そうだな。俺は助かっているな」
ルキウスとは、東の宮の異母弟。今は、西の宮の下で学んでいる。彼は正室との間に年子の娘が二人いる。今年もまた一人生まれる予定だ。
一方、東の宮は正室が初産で難産の末に死産となって以降、子を望まなくなった。既に生まれていた側室の子は、異母妹がガレスの父に嫁ぐと決まった際、継承争いの元になるのを防ぐため養子に出し、皇籍から抜いた。
現在、東の宮の継承順位は、ガレス、ルキウス、ルキウスの子らとなっている。
将来、ガレスに子が生まれれば、ルキウスではなく、ガレスの子が東の宮を継ぐ。
東の宮としては十分すぎる譲歩であったが、ガレスの父は気に入らなかったらしい。
挙句、謀反とは。
謀反と言っても、計画的なものでもないだろう。ガレスを手にかけようとした点からして、ガレスの父はまともな状態ではない。
ガレスの父は戦には疎いが、その魔力は東の宮を上回る。その上、東の宮の異母妹を質に取られては、留守居はもちろん、東の宮でも手に余る。
東の宮は決断する。
「カイルを借りるか」
「は⁉︎」
驚くリヒトを捨て置いて、東の宮は天幕を出て矢継ぎ早に方々に指示を出す。そして、また天幕に戻ってリヒトに言う。
「しばらく敵も動かん。ルキウスに指揮を継がせる。リヒト、お前はここでルキウスと共にガレスを守れ」
「え、ちょっ……、宮様⁉︎」
東の宮は単騎北へ向かった。
※
北の都に入る直前、東の宮の行手を遮るように、一人の男が現れた。
旅装に槍を携えた騎乗のカイルに、東の宮は片眉を上げる。
「お前、東に諜報は入れるなと言ったろう?」
「ルキウス様が突然私をお訪ねになり、東に向かうと仰られたのです」
今朝は酷かったとカイルは溜息を吐いている。流石俺の弟だと満足げな東の宮は、今上侍従に問う。
「陛下は如何に?」
「今日を含めて五日の内に収めるなら不問、と」
「充分だ! 来い!」
二騎は一路、ガレスの父を目指した。
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