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始まり
最悪な出会い
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私、甘泉陽菜は困っていた。
この白桜学園の中等部……いや、幼い頃から困っている。私の家はかなり裕福な家で、その家の財産目当てに言い寄ってくる男が多いからだ。人見知りなのに一方的に話しかけてきては親に気に入られようとしてか家に来たがり、断ってもしつこく話しかけ機会を狙っている。それが嫌で一時は幼馴染み以外の男とは余り話そうとはしなく、無視をした。
それでも家の繋がりが欲しいのかしつこくしてくる人が居る。……今、後ろにいる人みたいに。
「甘泉さん待って!」
「……」
早歩きで廊下を歩いていくが、ついてくるクラスも違い接点がない男子生徒。明らかに無視しているのに、諦めないその強い心はどこからくるのだろうか。
「話をしようよ! 俺の名前は……」
「私は貴方と友達にも何もなりませんし興味ありませんから名前は名乗らなくていいです」
「そういわずにさ~俺は君と」
「私は興味ありませんから!」
角を曲がる。確か突き当りには鍵が開いている空き教室があるから入り、鍵を閉めて幼馴染みが来るまでやり過ごそうと真っ直ぐ進む。
「仲良く」
「……」
彼の言葉をまた無視を歩き続け、扉に手をかける。
(本当一人の時狙って来るとか面倒だった……)
教室内に入れば終わりと勢いよく開ける。だが、ここは鍵が開いている空き教室。この学園で空き教室といえば……。
「きゃっ!」
「……」
「え……」
男女の二人が居るのを見てピタっと固まる。
暗くてよく見えないが二人の服装は着崩れ密着していてその姿はどう見ても……と、考えている時に黒くて長い髪の赤い瞳の男と目があった。男は私を見ると口角を上げ笑い、言った。
「えっち」
「!!」
その瞬間勢いよく扉を閉めた。鍵かけないでそういうコトをしている方が悪いとかその時は思い浮かばずただ顔が真っ赤になった。
(今のって……え? うわ……)
一瞬見えた光景。友達に借りた漫画とかで見た事あるけどそういう経験はないしまさか他人のを……。
「あーまいずみさん!」
「!!」
近くで聞こえた声に反射的に男子生徒が居ない方へと歩き出す。男はその後を追いかけてきた。
「何で逃げるの? あ、もしかして俺と……」
「貴方いい加減……!」
先程の見た光景、男の態度、この男子生徒とイラつき振り向き、いい加減言い返そうと振り向いた途端に誰かにぶつかってしまった。
「すみません」
「ん? 別に俺はいいけど……君さー……ん?」
「!」
ぶつかってしまった高等部の人が私の後ろに居る男子生徒に目をやる。そういやここの校舎は高等部と近かったのを思い出した。
「何々? 君、も~しかして女の子追いかけ回していたの?」
「お、俺は……」
「しつこい男は嫌われるよ?」
「っ!」
クスっと高等部の人が男子生徒に笑って言うと、彼は悔しそうな顔をしてくるりと方向転換し去って行った。
(助かった……?)
「君もさ~」
「はい!」
ほっとしていると、今度は自分が話しかけられた。ボサボサ頭で眼鏡をかけ瞳が見えそうで見えない人だなっと顔を近付けられ思った。
「こんな人気ない場所に歩いていると学園内とはいえ何があるかわからないんだから気を付けないといけないと思うな」
「すみません……」
逃げるの夢中で歩いていたとはいえ確かに先程の男女見かけた辺り連れ込まれたりするかもしれないし気を付けなければいけないかもしれない。
(先程の男女……)
男子生徒から解放されホッとすると思い出すのは先程の男女の事だ。あんな事を……しかもあの男の人……。
(暗かったけど顔が整っていたのはわかったな。私をからかうような態度とって……きっとあぁいうコト慣れているんだろうな)
女癖悪い最低な人なのがわかる態度だった。二度と会いたくない人だ。
「君、中等部の子だよね? 俺送ろうか?」
「いえ、大丈夫です真っ直ぐ戻るので」
「ん? そう? じゃあ、気を付けてね」
思い返すと不機嫌になっていき、高等部の人に愚痴りそうで一人で戻る事にした。
(まぁ、今日ご馳走作るって親言ってたしそれで機嫌なおそう)
そして、まったりして寝て今日の悪い事忘れよう。っと、決めて家に帰ったのに。
「ひな紹介するな。お前の婚約者候補の凪誘くんだ」
「凪誘です。暫くよろしくお願いします」
「……」
家に帰り、普段着に着替えてのんびりしていたリビングに突然男の人が現れた。
突然婚約者候補を紹介されたから父に嫌そうな顔したのもあるが、それ以上にその人物が。
「丁重にお断りしますお帰り下さい」
「おぉ~相変わらず反抗期か?」
(反抗期じゃない)
その人物が忘れるわけがない先程の最悪な出会いをした人だからだ。
(この人ヤってすぐ婚約者候補の家に来たのかな? うわっ、本当に最低)
冷えた目で彼を見るが気にしていないようで父と話している。私が断ったのに楽しそうに話している。
「パパ、この人さっき女の人と居ましたよ。そんな不誠実な人を婚約者候補にするの私絶対嫌なんですけど……」
話しが進みそうなので事実を言うと、彼は一瞬見開くと楽しそうに目を細めた。何が楽しいんだ。
「へぇ~アンタもしかしてさっきの覗き魔か」
「なっ! それは鍵をかけないでヤっている貴方が……というか認めていいんですか? あ、貴方も婚約するの……」
「いんや。俺、家戻んのも嫌だし婚約者候補にはなりたいな」
「? 家に戻るの嫌?」
どういう事かと父の方を見るとにこりっと笑った。この笑顔は余りよくない時にするやつだから嫌な予感がした。
「誘にはうちに住んで貰うから」
「はい!?」
(うちに住んで貰う?)
それは婚約者候補になると家に一緒に住み過ごして行く事になるって事だろう。一緒に住むだとこの女癖悪い最低な人と? 女が刃物持って押しかけてきそうである。
「嫌ですよ! 大体先程言いましたが、この人は女癖かなり悪いですよ! そんな人が……」
「はっはっそんな事か」
「そんな事じゃないですよ?」
何で父はこんなに軽く楽しそうにしているのだろうか。婚約者の候補とはいえ、女癖悪いのは家のイメージに悪いじゃないだろうか。
「今の家のイメージはどうでもいいしこれから先はひながどうにかする」
「え?」
家のイメージはどうでもいいのはどうなんだろうと思うが、それよりこれから先……私がどうにかする? どういう事なのかじとーっと父を見ると父は私に近寄り、ボソっと言う。
「ひな、取引しよう」
「取引?」
「お前はこの女癖悪く素行が悪い誘をまともにする」
「いや、無理だと思います」
その取引は出来ませんと一歩後ろに下がろうとする前に父は口を開く。
「その報酬に高校に上がると同時にマンションに一人暮らしを許可しよう」
「!」
私は困っていた。
かなりの裕福な家で、家も大きく通っている学園も金持ち学園な事も。裕福な家じゃない場所に行きたいと何度思っていた事か。
「どうだ?」
それがこんな形で叶う事になるなんて。
「ですが見た感じ一筋縄では……」
「難しいな。でもお前なら出来ると俺は思ってる」
「え?」
(私なら出来る?)
彼を婚約者候補にし、まともにする事が私に出来ると思っているのか。家が裕福なだけで普通の私が?
(それもだけどパパがこの人をどうしてここまで気に掛けるんだろう……)
面倒見がいいところがあるが、私に渋っていた一人暮らしの件を出し頼みだす程だ。彼はなんかあるのだろうか。
視線を彼に向ける。すらりとした輪郭に綺麗な顔付きは中性的で、画面で見る芸能人以上に整っているように感じる。雰囲気は気怠そうででもそれが色っぽさがある。
(見た感じ綺麗な人しかわからないけど……でもパパが言うなら気になる)
何より難しくても家から離れたいと思っていたからチャンスがあるならしたい。
「わかりました」
「お」
「引き受けます」
「そうかそうか~」
父は嬉しそうに私の頭をポンポンとしてから、彼へと向かう。
「というわけで宜しくな誘」
「はい……じゃあ、ひな」
「!?」
いきなり彼に呼び捨てされると思わなかったので驚く。彼は気にせず私に近付くと頭を掴むとちゅっと……。
「!?」
頬にキスを落とされた。私は赤くなりした本人を見上げる。
「宜しくな。俺の事はイザナって呼んでくれ」
「なななななな」
「んだよ。婚約者なんだからこれくらい……あ、候補だっけ」
「ぱ、パパ!」
「あ、キャンセル引き受けねぇから」
「っ!」
睨み付けるが父は手で罰マーク作り楽しそうに笑う。娘が目の前で手を出されそうになってるのにどうでもいいのか。
「家族が増えたから今日はご馳走だな~俺も料理手伝ってこよ」
「ちょっ……」
父はそう言うと部屋から出ていく。残されたのは私と彼の二人。
「ご馳走か~……ってなーに逃げようとしているんだひな」
「!」
距離を取ろうとしたら簡単に掴まり、引き寄せられた。ふわりと香るのは彼の匂いかそれとも先程居た女のか。
「あ、貴方高校生ですよね!? 中学生対象外じゃないんですか?」
「ん? 俺は中学生は対象だから。例え外見が君みたいな幼くてもいける」
「人が気にしている事を……!」
ぐぐっと彼から離れようとするが、余計密着してきている気がする。細そうに見えても力はあるようだ。
「俺の名前呼んでよ。そうしたら離してあげるからさ」
「はい?」
「イザナってさ」
「っ~! イザナさん!」
「えーなんか遠い」
「じゃあ、イザナくん!」
「ん」
「!!」
今度は額にちゅっとキスを落とし、離した。真っ赤な顔でイザナくんを見るとからかって楽しんでいたのがわかるいい笑みで。
「か、からかわないで下さい!」
「中学生っていうかひなは反応がかわいいな」
「貴方にかわいいって言われても嬉しくないです!」
イザナくんに言い返しため息を吐く。こんなので私は彼をまともに出来るのだろうか。
「もっとかわいいとこ俺に見せてくんね?」
「見せませんし近寄らないで下さい!」
応援ありがとうございます!
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