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第15羽 キャンプファイアー
しおりを挟む合宿三日目の夜。
森の中央広場に、大きなキャンプファイヤーが灯された。
「それでは! 異文化交流合宿、ラストナイトの始まりでーす!」
如月先生の軽快な掛け声とともに、木々に囲まれた空間が、ゆらめく炎で幻想的に染まる。
その火を囲んで、輪になって踊ったり、おしゃべりしたり。
まるで文化も種族も関係ない、ひとつのクラスみたい――。
「ねえあや、最後にさ……誰と踊るの?」
ひょっこり現れたのは、親友の清水みほちゃん。
手にはマシュマロと串を持って、ニヤニヤしている。
「……誰って、そんな……!」
踊るって、なにその青春イベント!?
そういうの、ドラマとかでしか見たことないよーっ!
「ふふ、実はさ……“最後のダンス”って、合宿の締めなんだって。誘われたら断っちゃダメなやつ」
「そ、そんなルールあるの!?」
「あるの! 異世界の伝統なの!」
笑うみほちゃんの後ろから、パチパチと焚き火の弾ける音が聞こえる。
でも、わたしの鼓動の方が、もっと跳ねてた。
――そのとき。
「一色。少しいいか?」
「えっ……シウくん!」
銀髪が揺れ、焚き火の光に角がきらりと輝く。
真剣なまなざしに、思わず息をのむ。
「俺と、踊らないか。」
ストレートすぎるお誘いに、目がまんまるになる。
「わ、わたしでいいの……?」
「他に誰がいる?」
うわぁぁああ! なにそれ反則――!
返事もできないわたしの横で、誰かが咳払いをした。
「……ごめん、その前に、ちょっといいかな?」
金髪が風にそよぐ。
ロイくんだった。
「僕も、あやちゃんにお願いしたいんだ。“最後のダンス”、一緒に踊ってくれない?」
「えっ……」
視線が、シウくんとロイくんの間を行ったり来たりする。
ど、どうすればいいの……!
選べない。選びたくない。
でも、選ばないと――この時間は終わってしまう。
「――あや!」
聞こえたのは、みほちゃんの声だった。
目が合った。
彼女は微笑んで、そっと言った。
「自分の気持ち、ちゃんと選んでいいんだよ」
その言葉に、わたしの胸がすうっと軽くなる。
わたしは――。
異世界に来てから、色々あった。
初めてのことだらけの体験が。
教室に入ってみれば、竜人族の王様に、ハイエルフの王様。
外を見れば、魔法陣があったり、浮いてる岩があったり……飛んでる人もいた。
トカゲにだって乗ったんだ。
魔法も使えた。
あのときの――シウくんの手の暖かさを思い出す。
私の右腕の紋章がほのかに光り始めた。
「あや……それ、いつから?」
みほが不思議そうに私の右腕を見つめていた。
「魔法を使った日からだよ」
その紋章の光に、みんなは釘付けになっていた。
シウくんも、ロイくんも、みほも。
「その紋章は――」
ロイくんは何かを知ってそうだった。
けど、下を向いて言うのをやめた。
シウくんは私のことを真剣に、目を見ていた。
ううん。どっちにしよう、とか、そんなんじゃないよね。
決めた。私、覚悟を決めたよ。
「――シウくん。お願いします」
その瞬間、彼の顔に、ふわりと笑みが浮かんだ。
「……ああ。」
そして、わたしたちは、火のまわりの輪の中へ。
手と手を重ねて、ぎこちなく、でも心地よくステップを踏む。
「俺、ダンスは得意じゃない。」
「わたしも……でも、嬉しい」
距離が縮まっていく。
心の中の温度も、少しずつあたたかくなっていく。
火の粉が舞う夜空の下。
わたしの知らなかった世界が、またひとつ、近づいてきた──。
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