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第17羽 竜王の城
しおりを挟む空に浮かぶ城なんて、物語の中だけだと思ってた。
でも今、わたしは本当に空に浮かぶお城――“空中城”の大階段を、ドレス姿で登っている。
――足、震えてる。
だって、シンデレラでもここまではしないよ!?
今日のわたしは、みほちゃんが全力でスタイリングしてくれたおかげで、なんとか“地味”を脱却した……はず。
黒髪に、繊細な星屑の飾り。ドレスは、夜空みたいなネイビー。
大きすぎないけど、ほんの少しだけ、背筋が伸びるような――“プリンセス”気分。
大きな扉が開いた。
――パーティー会場。
シャンデリアの光が、ガラス細工みたいにきらめく。
いろんな種族の人たちが、会場を優雅に歩いていて、わたし、今、場違いじゃないかって震えそうになったけど――。
「一色。こっちだ。」
わたしを迎えにきてくれたのは、もちろん彼――シウ=ドラティール。
今日の彼は、いつもの制服じゃない。
漆黒に金糸の刺繍が入った、王族の礼服。
角も、尻尾も、どこか誇り高く見えて。
やっぱり、わたしとは住む世界が違う人なんだなって……少しだけ、距離を感じてしまう。
でも――。
「……似合ってる。よく、来てくれたな。」
その一言に、胸がぎゅっとなる。
「わたしなんかで、よかったの……?」
「“なんか”じゃない。俺が招いたのは、“お前”だからだ。」
手を取られて、パーティー会場へ一歩。
これって、ほんとのお姫様の……舞踏会!?
シウくんがリードしてくれるステップ。
クラシックみたいな音楽。
優雅に回る人たちの輪の中に、わたしもいるなんて……夢みたい。
「……シウ、あなたが連れてきた“人間”って、やっぱりね」
場の空気が、一瞬だけ変わる。
現れたのは、豪奢な紅のドレスをまとった竜人の令嬢。
赤ワイン色の角と尻尾――ミア=ナロティーンさんだった。
「わたし、てっきりあなたはわたしと踊るのかと思ってたのに。……まさか、異世界から来た“平民”をエスコートするなんて」
「ミア。彼女に対する侮辱は、許さない。」
「ふぅん……“彼女”って呼ぶんだ。ずいぶん特別扱いなのね」
ぐさり、と胸を刺された気がする。
でも、それでも。
「わたし……がんばって来たんです。この世界のこと、ちゃんと知りたくて。シウくんのことも、ちゃんと……知りたくて」
震える声で、それだけは言った。
すると、ミアさんの目が少しだけ見開かれて――。
「……あら。でもその気持ちだけじゃ、この世界では守りきれないわよ?」
そう言って、くるりと背中を見せる。
――その背中は、とても寂しそうだった。
「気にするな。あいつは……強いが、孤独なやつだ。」
シウくんの手が、ぎゅっとわたしの指を包む。
「今夜は、お前を“この世界の来賓”として迎えたい。……あや」
はじめて、名前で呼ばれた。
その瞬間、胸の奥が、あたたかくなる――わたし、ここにいてもいいんだ。
パーティー会場の光の中。
静かに寄り添うように、わたしは彼の隣を歩き出した。
「あやちゃん!」
「みほ、待ってくれよ」
あれ? なんで、あやと……ロイくんまで?
「仮にも、ロイはエルフの”王族”だからな。ロイのゲスト枠で清水も呼んだようだ。」
そうなんだ……。私はこんなすごい人と、色んな体験をしちゃったんだ。
改めて、実感する。かけがえのない思い出。
留学生活は、そろそろ終わりを迎えようとしていた。
ううん、私がその終わりを見ようとしていなかっただけ。
――明日、帰らないといけない。
合宿が最後の思い出づくり、如月先生の計らいで……。
「やっぱりすごいわね。竜王の城っていうのは」
って、如月先生!?
「ああ、元・勇者パーティの一員だからな。」
そっか、やっぱり先生もすごい人なんだ。
ああ、どうしよう……。足がすくんできた。
また、私の右腕が光ってる。
煌びやかなパーティー会場。
でも、なんだろう……さっきから視線が痛い。
なんか、ずっと……誰かに見られてる気がする。
シウくんが話しかけてくれるたび、胸がぎゅっとなる。
でも、その喜びに、少しだけ不安が混じっていくのを感じた。
「……あや、この“印”に心当たりはあるか?」
シウくんが、ふいにわたしの手首をとった。
「えっ、これ……?」
制服の袖を少しめくると、そこにうっすらと浮かぶ、光る紋章のようなもの。
――それは、わたしがこっちの世界に来て、魔法を使った日から、ずっと肌にあった“謎の印”。
「これは……“転界のしるし”。異世界からの来訪者の中でも、“選ばれた者”だけに現れるものだ」
選ばれた、って――なに?
「それって、どういう……?」
「この世界では、異界からの“使徒”が現れるという予言がある。王家にとって、重要な……“鍵”だ」
えっ、ちょっと待って。
わたし、ただの地味な人間女子だったんだけど!?
なんでいきなり“予言”とか“使徒”とか!?
「まさか……私が、その“使徒”かもしれないってこと?」
「俺も、確証はない。だが、“王の間”がお前を呼んでいる。空中城の最深部――そこで全てが明らかになるはずだ」
そんな大事な話をしてる横で、こっそりと耳をそばだてている人影がいた。
「……まさか、あの子が“転界の鍵”ですって?」
それは――ミア=ナロティーン。
目を伏せ、口元をきゅっと結びながら、会場を離れていく彼女の背中が、なんだかとても切なそうだった。
その直後――
「きゃっ!」
突然、光が瞬いた。
床の魔法陣が輝き、わたしとシウくんの足元が浮かび上がる。
「っ、これ……!」
「転移魔法だ! 狙われたか!」
そのまま、わたしたちの身体は光の中に飲み込まれていった――。
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