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第18羽 紋章の意味
しおりを挟む気がついたとき、そこは――巨大な空間だった。
王冠を模した石像と、空に浮かぶ巨大な魔導クリスタル。
空中城の奥――王の間。
そこに、彼はいた。
「よく来たな、異界の娘よ」
漆黒のマントをまとう、重厚な声の男性。
その額には、シウくんと同じ、黒曜石の角。
「父上……。」
えっ……ってことは、この人……シウくんの、お父さん!?
「そなたのその印、まさしく“鍵”の証。……異界の者よ、我らの血に、何をもたらすのか――」
空中に光る“転界の紋章”が、わたしの腕に反応し、強く輝く。
わたし……なんでここにいるの?
なにができるの?
本当に、わたしでいいの――?
そのとき、隣からあたたかい手が、わたしの手を握ってくれた。
それは、シウくんの手だった。
「大丈夫だ。お前はお前のままでいい。俺が、証明する。」
その言葉が、心の奥にしみ込んでいく。
うん、わたし……もう、逃げない。
どこまでも空に近い場所で。
今、わたしは本当の意味で、“この世界”に向き合おうとしていた。
「……そなたの、その印は本物だ」
王の間。空に浮かぶクリスタルの光が、わたしの腕の“転界の紋章”に呼応するように輝いていた。
「彼女こそ、“異界の鍵”か。」
低く響く声の主は、シウくんのお父さん――竜王様。
その視線は鋭く、けれどどこか……哀しみをたたえているようにも見えた。
「わたし……なんなんですか? どうして、こんなところに……」
膝が震えて、声も揺れる。
でも――逃げたくなかった。
そっと、手を握り返してくれるシウくんの温もりが、わたしの背中を押してくれていた。
「貴女がこの世界に来たのは、偶然ではない」
王が歩み寄るたび、空間が揺れるような感覚。
空中城の中心で、運命の歯車が動き出していた。
「選ばれたのだ。この世界に。そして、竜王に。」
……え?
「まさか……!」
「本当に心を通ずる時、新たな紋章が導くのだ。」
それって――。
「そなたの名は、一色あやと言ったな。この世界に、いいや。我が竜王の跡継ぎ……シウに必要とされる存在だ。」
目の前がぐらぐらした。
「……わたしが、シウくんに必要とされている……?」
「お前は人間であり、この世界の“鍵”でもある。そして、この世界と人間界、両方をつなぐ唯一の存在だ。」
「……そんなの、いきなり言われても、わけがわからないよ……」
心の奥から、不安が溢れてくる。
だけど――。
「大丈夫。お前は、俺が知ってる“一色あや”のままだ。俺は……そのお前に惹かれた。」
シウくんが、真っ直ぐにそう言ってくれた。
「お前の過去なんて関係ない。俺は、今のお前を信じてる。」
わたしを、信じてくれてる――。
その言葉が、胸の奥に、そっと火を灯した。
「ですが、王よ!」
声が響く。現れたのは、ミアだった。
「彼女が“鍵”だとしても、王族にふさわしいとは限りません!」
「ミア……!」
「私は、ずっとこの国に尽くしてきたわ。なのに、いきなり現れた“人間の女の子”が、すべてを持っていくなんて……!」
ミアの瞳に浮かぶのは、怒りではなく――涙だった。
「シウ様の隣は……わたしだと、ずっと信じてたのに……」
切なく揺れる声。
でも、わたしは、逃げないと決めた。
「……わたしは、この世界が好きです。怖いこともいっぱいあるけど、ここで出会った人たちがいて――」
「シウくんに出会えて、ほんとうによかったって、思ってる!」
はっきりと言葉にしたその瞬間。
わたしの“印”が、まばゆい光を放った。
眩しいほどの金色の光が、王の間を満たす――。
「……転界の紋章が、完全に覚醒した……!」
「やはり、あの娘が“鍵”……!」
世界の運命が、動き始める。
だけどそのとき、空間が軋んだ――。
ガガガッ……と、空が裂けるような音が響く。
「まさか……次元断層か!? このタイミングで……!」
「このままだと、“二つの世界”がぶつかって……!」
「待って……! どういうこと!?」
わたしの覚醒と同時に、“何か”が始まってしまった――。
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