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第19羽 授けられる翼
しおりを挟む「やだ……空が割れてる……!」
ミアの悲鳴のような声に、みんなが天を仰ぐ。
王の間の天井――その向こうの空に、大きな裂け目が現れていた。
ギギギ……という音と共に、まるで“向こうの世界”がこっちを覗き込んでるみたいな、不気味な渦が回ってる。
「次元断層……二つの世界の境界が、こじ開けられつつある……!」
王様の低い声が響く。
重い空気。だけど、わたしの足は、震えていなかった。
「私の……せい、ですか?」
紋章が完全に目覚めたと同時に、この異変。
まるで、わたしが“扉”を開けてしまったみたいに……。
「いや、あやの覚醒は“引き金”でしかない。元々、両世界の均衡は限界だった。誰かが意図的に仕掛けた可能性が高い。」
シウくんが、わたしの肩に手を置いてくれた。
「……それでも、俺はお前の力を信じたい。」
「わたし、信じてもらえるような人間じゃ……」
「もう十分、信じてるよ。俺だけじゃない――。」
ロイくんも一歩、前に出る。
「僕もだよ。君は、人間の中でいちばん優しい。どんな相手にも向き合おうとする。……そんな子に、僕は惚れたんだ」
「ロイくん……」
ふたりの瞳がまっすぐで、胸がぎゅっとなった。
ミアも、静かに口を開いた。
「……あんたのことは、認めたくなかった。けど、今ならわかるわ。あなたは、シウの隣に立つにふさわしい人間……かもしれないって」
「……ありがとう、ミアさん」
心の奥が、ぽっと温かくなった。
でも。
でも、それだけじゃ終われない。
「……だったら、わたし、この世界を守りたい」
みんなの視線が、わたしに集まる。
「人間とか竜人とか関係なくて、ここは……わたしが、大事にしたい場所だから」
「“扉”を閉じるには、覚醒したお前の力が必要だ」
「……できますか?」
わたしの問いに、王はうなずいた。
「そなたが“自ら選ぶ”なら、その力は使える。選ばされた運命ではなく、自らの意思で選べ」
選ぶ。
運命を背負うか、それとも――。
少し怖いけど、でも、はっきりしてる。
この手を握ってくれる人たちがいるから。
わたしは――。
「わたし、選びます。この世界を救うって。……自分の意思で」
キィィン……と、空気が揺れた。
わたしの背中に、金の光の羽がふわりと広がる。
それは“鍵”として目覚めた者だけが持つ、特別な力の証。
「行こう。世界の裂け目の中心へ。……一緒に行くよ、あや。」
シウくんが、優しく手を差し出してくれる。
うなずいた瞬間、わたしの足元に魔法陣が浮かぶ。
いよいよ、本当の異世界の危機と向き合うとき――。
今のわたしなら、逃げないって言える。
――ぐわん、と世界がねじれた。
光と闇が渦巻く中、あたしたちは“裂け目”の中心に転移した。
「ここは……どこ……?」
辺り一面、色が抜けたような空間。
白と黒のもやが、ゆっくりと混ざりあっている。
「この場所こそ、両世界の“狭間”――境界空間だ。ここで完全に裂け目が開けば、ふたつの世界が混ざり合って崩壊する。」
シウくんの声が真剣で、胸の奥が締めつけられる。
すると――。
「遅かったわね」
霧の向こうから、誰かが歩いてきた。
……それは、真っ黒なローブの女性。
異種族……? だが、竜人でもない、不思議な気配。
「ようこそ。“鍵”と“番人”の子たち」
聞き覚えのある声。ううん、これはいつも聞いていた声。
「わたしの名は“如月あやか”。この世界を“元に戻す”ため、人間界からやってきた調律者よ」
先生が調律者……?
「……もとは、ひとつだったの。この異世界と人間界、それを勝手に分けたのは“勇者”。なら、元に戻すのが勇者パーティである私の役目でしょう?」
「……そんなの……勝手だよ……!」
気づいたら叫んでた。
「今はもう、違う世界にそれぞれの暮らしがあるんだよ! それを全部混ぜて、壊して、何が残るの!?」
如月先生は、寂しそうに微笑んだ。
「ねぇ、“あや”さん。あなたはやさしいから、きっと理解してくれると思った。でも……ダメなのね」
その瞬間、彼女の周囲に黒い霧が集まって――巨大な竜の影が現れた。
「くるよ――!」
シウくんとロイくんが、すぐに前に出る。
わたしも、ぎゅっと胸の前で手を重ねた。
「守ってもらってばっかりじゃ、だめなんだ。今度は、わたしが“みんなの世界”を守る番だから――!」
すると、胸の奥から光が溢れ出していく。
シウくんの右手で作られる蒼の炎、ロイくんの持つ風の矢――それらが、あたしの光に重なる。
「いけるか?」
「……うん!」
声を合わせて、三人の魔力が、巨大な竜の影へとぶつかる――!
ドォンッッ!
境界空間が大きく揺れて、渦が反転する。
「やるじゃない……けど、まだよ?」
如月先生が、最後の“扉”を背後に浮かべる。
「ここを通れば、すべてをやり直せる。世界も、あなたの運命も――選び直せるのよ、あやさん。私は元勇者の……ううん。先生としてね。あなたをしっかり、元の世界に帰したいの。」
選び直す?
……確かに、怖いよ。
わたしが“鍵”なんかじゃなければ、普通に暮らしてたかもしれない。
恋に悩んで、みほと笑って、放課後にカフェに行って――。
そんな“ふつう”を選びたかった気持ちも、ちょっとだけある。
だけど。
「わたし、この道を選んだの。もう、後悔しないよ。だって今のわたしは――みんなに出会えた“わたし”だから!」
すると、扉の鍵穴が、ぱちんと光った。
「その意思が、“真の鍵”を開く。人間でないと、その印は絶対に現れない。私には無理だった。でも、あなたなら……。あとは……覚悟しなさい!」
如月先生が叫ぶと同時に、空間がひび割れた。
ラストステージは、ついに始まる――!
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