20 / 22
第19羽 授けられる翼
しおりを挟む「やだ……空が割れてる……!」
ミアの悲鳴のような声に、みんなが天を仰ぐ。
王の間の天井――その向こうの空に、大きな裂け目が現れていた。
ギギギ……という音と共に、まるで“向こうの世界”がこっちを覗き込んでるみたいな、不気味な渦が回ってる。
「次元断層……二つの世界の境界が、こじ開けられつつある……!」
王様の低い声が響く。
重い空気。だけど、わたしの足は、震えていなかった。
「私の……せい、ですか?」
紋章が完全に目覚めたと同時に、この異変。
まるで、わたしが“扉”を開けてしまったみたいに……。
「いや、あやの覚醒は“引き金”でしかない。元々、両世界の均衡は限界だった。誰かが意図的に仕掛けた可能性が高い。」
シウくんが、わたしの肩に手を置いてくれた。
「……それでも、俺はお前の力を信じたい。」
「わたし、信じてもらえるような人間じゃ……」
「もう十分、信じてるよ。俺だけじゃない――。」
ロイくんも一歩、前に出る。
「僕もだよ。君は、人間の中でいちばん優しい。どんな相手にも向き合おうとする。……そんな子に、僕は惚れたんだ」
「ロイくん……」
ふたりの瞳がまっすぐで、胸がぎゅっとなった。
ミアも、静かに口を開いた。
「……あんたのことは、認めたくなかった。けど、今ならわかるわ。あなたは、シウの隣に立つにふさわしい人間……かもしれないって」
「……ありがとう、ミアさん」
心の奥が、ぽっと温かくなった。
でも。
でも、それだけじゃ終われない。
「……だったら、わたし、この世界を守りたい」
みんなの視線が、わたしに集まる。
「人間とか竜人とか関係なくて、ここは……わたしが、大事にしたい場所だから」
「“扉”を閉じるには、覚醒したお前の力が必要だ」
「……できますか?」
わたしの問いに、王はうなずいた。
「そなたが“自ら選ぶ”なら、その力は使える。選ばされた運命ではなく、自らの意思で選べ」
選ぶ。
運命を背負うか、それとも――。
少し怖いけど、でも、はっきりしてる。
この手を握ってくれる人たちがいるから。
わたしは――。
「わたし、選びます。この世界を救うって。……自分の意思で」
キィィン……と、空気が揺れた。
わたしの背中に、金の光の羽がふわりと広がる。
それは“鍵”として目覚めた者だけが持つ、特別な力の証。
「行こう。世界の裂け目の中心へ。……一緒に行くよ、あや。」
シウくんが、優しく手を差し出してくれる。
うなずいた瞬間、わたしの足元に魔法陣が浮かぶ。
いよいよ、本当の異世界の危機と向き合うとき――。
今のわたしなら、逃げないって言える。
――ぐわん、と世界がねじれた。
光と闇が渦巻く中、あたしたちは“裂け目”の中心に転移した。
「ここは……どこ……?」
辺り一面、色が抜けたような空間。
白と黒のもやが、ゆっくりと混ざりあっている。
「この場所こそ、両世界の“狭間”――境界空間だ。ここで完全に裂け目が開けば、ふたつの世界が混ざり合って崩壊する。」
シウくんの声が真剣で、胸の奥が締めつけられる。
すると――。
「遅かったわね」
霧の向こうから、誰かが歩いてきた。
……それは、真っ黒なローブの女性。
異種族……? だが、竜人でもない、不思議な気配。
「ようこそ。“鍵”と“番人”の子たち」
聞き覚えのある声。ううん、これはいつも聞いていた声。
「わたしの名は“如月あやか”。この世界を“元に戻す”ため、人間界からやってきた調律者よ」
先生が調律者……?
「……もとは、ひとつだったの。この異世界と人間界、それを勝手に分けたのは“勇者”。なら、元に戻すのが勇者パーティである私の役目でしょう?」
「……そんなの……勝手だよ……!」
気づいたら叫んでた。
「今はもう、違う世界にそれぞれの暮らしがあるんだよ! それを全部混ぜて、壊して、何が残るの!?」
如月先生は、寂しそうに微笑んだ。
「ねぇ、“あや”さん。あなたはやさしいから、きっと理解してくれると思った。でも……ダメなのね」
その瞬間、彼女の周囲に黒い霧が集まって――巨大な竜の影が現れた。
「くるよ――!」
シウくんとロイくんが、すぐに前に出る。
わたしも、ぎゅっと胸の前で手を重ねた。
「守ってもらってばっかりじゃ、だめなんだ。今度は、わたしが“みんなの世界”を守る番だから――!」
すると、胸の奥から光が溢れ出していく。
シウくんの右手で作られる蒼の炎、ロイくんの持つ風の矢――それらが、あたしの光に重なる。
「いけるか?」
「……うん!」
声を合わせて、三人の魔力が、巨大な竜の影へとぶつかる――!
ドォンッッ!
境界空間が大きく揺れて、渦が反転する。
「やるじゃない……けど、まだよ?」
如月先生が、最後の“扉”を背後に浮かべる。
「ここを通れば、すべてをやり直せる。世界も、あなたの運命も――選び直せるのよ、あやさん。私は元勇者の……ううん。先生としてね。あなたをしっかり、元の世界に帰したいの。」
選び直す?
……確かに、怖いよ。
わたしが“鍵”なんかじゃなければ、普通に暮らしてたかもしれない。
恋に悩んで、みほと笑って、放課後にカフェに行って――。
そんな“ふつう”を選びたかった気持ちも、ちょっとだけある。
だけど。
「わたし、この道を選んだの。もう、後悔しないよ。だって今のわたしは――みんなに出会えた“わたし”だから!」
すると、扉の鍵穴が、ぱちんと光った。
「その意思が、“真の鍵”を開く。人間でないと、その印は絶対に現れない。私には無理だった。でも、あなたなら……。あとは……覚悟しなさい!」
如月先生が叫ぶと同時に、空間がひび割れた。
ラストステージは、ついに始まる――!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる