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第20羽 異世界とのお別れ
しおりを挟む空が割れて、白い光が溢れた。
境界の“裂け目”の中心で、わたしはひとり立っていた。
「……あや!」
走ってくる、銀の髪。
――シウくんだ。
その後ろに、ロイくんや、みほ、ミアちゃん、そして如月先生までが次々と現れる。
「みんな――!」
あとは、この“裂け目”を閉じるだけ。
「……でも、閉じたら、もう元の場所には戻れない。人間界と異世界の扉は完全に封印される。二度と行き来はできないだろう。」
シウくんの言葉に、胸が苦しくなった。
そんなの――さよなら、ってこと?
「異世界留学は、元々……印を生む者を見つけるために提案したのよ。そして、それがあなただったの。本当は、異世界と人間界が繋がっててはいけなかったのよ。ごめんなさい。あなたを利用してしまって」
「……それじゃ、もう、会えないの?」
如月先生の瞳は、涙を浮かべていた。
「そう。勇者はどこにいるんだろう、そう思ったでしょう。私が、人間界に帰りたいと願った時に、勇者は扉になったのよ。そして、彼を元に戻してあげたかった――」
そんな……。そんなのあんまりだよ……。
シウくんは少しだけ笑って、でもその瞳は真剣だった。
「僕は、君と出会ってしまった。だから、もう戻れない。」
「えっ……?」
「人間界でも、異世界でもない――君の隣に、俺はいたい。」
その手が、そっとあたしの手に触れる。
熱くて、でも優しくて、ずっと求めていたぬくもり。
「俺は、扉の“鍵”を閉じる。でも……そのあと、自分の意思で“開き方”を探すよ。君と同じ世界で、生きていく方法を。」
ぽろっと、涙がこぼれた。
「……そんなの、ずるいよ」
「ずるくていい。君に出会った僕は、もう“王子”でも“竜人”でもない。ただのシウだから。」
「……うん」
ちゃんと、言わなくちゃ。
ずっと言えなかったこの気持ち。
いろんなすれ違いも、葛藤も、全部越えて――。
「わたし、シウくんのことが好きだよ……!」
その瞬間、世界がひときわ眩く光った。
境界が静かに閉じていく。
だけど、手を握ったまま、シウくんは笑っていた。
――たとえどんな世界でも、君といるって決めたから。
まぶしい光の向こうに、あたしたちの未来が待っている。
きっとそこには、恋して、笑って、時々ケンカもして、でも最後にはちゃんと、手をつなぐふたりがいる。
信じてるよ、シウくん……。
「これが、わたしの“青春”だよ!」
君と出会えたこの世界で、一歩ずつ、好きって言える日を増やしていくために。
私は、羽ばたくことができたんだ。
◇
蒼天学園に戻ってきた私。
如月先生は、異世界に残ったまま……、今頃勇者と再会できたのかな。
みほと私は、異世界留学を終えた。
ううん、戻ってきた時には、なかったことになっていた。
ここは、蒼天学園の教室。
「おーい、何しょげてんのさ!」
隣にいたのは、中学生の時に唯一できた友達の清水みほ。
「今日のあや、元気なさそうだけど大丈夫?」
まったく。なに言ってるんだろ。一緒に異世界留学したじゃん……。
自然と、涙が出てきた。
「えー、では次に。今年度初の試み、地域交流制度について――」
先生が、教壇で話す。如月先生じゃない。知らない先生。
今までの出来事は、全て夢だったのかな……。
みほに、確認しようと思ったけれど、やめた。
これは、わたしの思い出。
胸にそっと、閉まっておくことにした――。
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